ファモチジンの腎機能による調節 想定されるリスクについて解説

調剤業務

先日当薬局におかかりの患者さんにファモチジンが処方されたところ、腎機能により用量の調節が必要な事例がありました。内容は以下のようになります。

【事例】
平素より当薬局をご利用頂いている患者様が臨時受診され、処方箋をお持ちになった。
処方の一つにファモチジン20mg 1日2錠 分2の処方があった。薬歴情報を確認したところ、腎機能が低い旨の記載があった。処方元医療機関にクレアチニン値と体重を確認したところ、クレアチニン値:1.39 体重:40kgであった。年齢、体重、クレアチニン値からクレアチニンクリアランス値を確認したところ15.6mL/minとのことだったため、適正用量を提案した結果、ファモチジン10mg 1日1錠 分1と変更になった。

今回はこの事例をもとにH2ブロッカーと薬用量の関係、なぜ用量調節が必要か、用量調節をしない場合どのようなリスクが想定されるかを紹介したいと思います。

・ヒスタミン受容体について
ファモチジンはH2ブロッカーです。つまりヒスタミンH2受容体を遮断します。これにより胃酸分泌が抑制されるわけですね。
ここで覚えておかなければならないのが、H2ブロッカーはあくまでH2受容体を選択的に遮断するという事です。特異的ではありません。ヒスタミン受容体はH1~H4までの受容体が知られています。つまりH2ブロッカーは主にH2受容体を遮断しますが、多少はH1 、H3、H4受容体を遮断してしまうことになります。

※H3受容体、H4受容体をターゲットとした薬はまだ実用化されていません。

ここでH1受容体について確認しましょう。
視床下部の結節乳頭核(TMN)にはヒスタミン作動性ニューロンが局在しています。ヒスタミン作動性ニューロンは結節乳頭核から大脳皮質や視床、視床下部、視床下部、基底核など広範囲にのびています

このヒスタミン作動性ニューロンに分布するのはH1受容体です。
H1受容体はGq共役型受容体です。つまり受容体の刺激により細胞内Ca濃度が上昇します。これにより細胞の興奮性が高まるわけです。ヒスタミン作動性ニューロンが活発になることにより脳内の様々な領域が活性化し、覚醒、認知機能(学習、記憶)の亢進といった作用が生じます。
※その他にも摂食中枢の抑制、概日リズムの調節といった作用もあります。

・ファモチジンの腎機能による調節について
ここでファモチジンの薬物動態を確認します。
用法および用量に関連する注意に以下のような記載があります。

ファモチジンは腎排泄型です。そのため腎機能の低下と共に尿中排泄が減少し、血中濃度が上昇します。血中濃度の上昇に伴って脳内に移行するファモチジンの量が増えてしまいます。その結果、脳内のH1受容体の遮断される割合が多くなってしまいます。
前述したようにH1受容体の刺激により覚醒、認知機能の亢進が生じます。H1受容体の遮断により倦怠感、無気感、眠気、認知機能低下、せん妄といった症状を引き起こすリスクがあります。そのため腎機能の低下に応じて薬用量も調節するわけですね。

日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025」においてもH2ブロッカーは認知機能の低下、せん妄のリスクがあるとして、”特に慎重な投与を要する薬物リスト”に記載されています。

・腎機能低下時の対策
ファモチジンは添付文書に記載されているようにCCrによって用量を調節する必要があります。過去に何度も紹介しているように、腎機能の指標としてeGFRとCCrを理解しておくことは必須です。また業務で使用するPCの全端末にeGFRとCCrの計算サイトを必ずブックマークしておきましょう。
参考記事 ⇒ 腎機能の検査値① クレアチニン、eGFR 腎機能の検査値② クレアチニンクリアランス
計算サイト ⇒ ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト 腎機能推定計算

今回の事例ではファモチジンの減薬でした。前述したようにほとんどのH2ブロッカーは腎排泄型だからですね。これに対してPPIは基本的に肝代謝型です。せん妄のリスクのある患者は、肝機能に問題がないならPPIを使う方が無難かもしれません。

しかし膠原線維性大腸炎などがあり、PPIを使えない場合もあります。その場合は他のH2ブロッカーに変更するケースもありそうです。他のH2ブロッカーについて見てみましょう。

これを見るとニザチジン、ロキサチジン、ラフチジンあたりが使いやすそうです。結論から言うとラフチジンが最も使いやすいでしょう。ラフチジンは肝代謝型であり、胆汁を介して糞中排泄されます。そのため腎機能の低下の影響を最も受けにくいです。透析患者でCmaxが上昇するのは約2%が尿中排泄される影響でしょう。ファモチジンでも用量の調節をすれば問題ないですが、血清クレアチニン値が入手できなかったり、せん妄や認知機能の低下のリスクを少しでも減らしたい場合はラフチジンに変更するのがいいでしょう。


今回の記事でH2ブロッカーと腎機能低下の関係、想定される副作用は理解できたでしょうか?腎機能による薬用量の調節が必要なのは抗凝固薬、バラシクロビル、レボフロキサシン、メトホルミン、イメグリミンといった薬が有名ですが、H2ブロッカーも忘れていけません。またただ疑義照会するだけでなく、想定されるリスクはどのようなものがあるか、代替薬として何かよいかなども考えておかなければなりません。薬理作用、薬物動態といった薬剤師の基本的な知識を活用して、これらに対応できるようにしましょう。

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