初の水いぼの治療薬が登場

皮膚科の薬

2025年11月12日に伝染性軟属腫の初の治療薬が薬価収載されました。薬局で使用することはないですが、是非知っておいてもらいたいと思います。なるべく詳しく書いたのでご覧ください。

まず初めに伝染性軟属腫について確認しましょう。

・伝染性軟属腫について
伝染性軟属腫は、一般的には”水いぼ”と呼ばれています。これは伝染性軟属腫ウイルス(MCV)によるウイルス感染症です。ウイルスは小さな傷や毛穴から皮膚に侵入し感染します。そこでウイルスが増えることによってイボとなるわけですね。

イボは1~5mm程度の大きさであり、僅かに赤い盛り上がりが多数できます。四肢や体感が好発部位ですが、手足の裏を除くほぼ全ての部位にできる可能性があります。

感染するのはほとんどが小児(MCVに対する免疫をもっておらず、皮膚のバリア能が未成熟なためです)であり、感染経路は接触感染です。そのためプールでのビート板、浮き輪、タオルの使い回しで感染が拡大していきます。
※学校保健法では水いぼができてもプール自体は禁止されていません。ビート板や浮き輪の共用を避けるように記載されています


以上の説明で伝染性軟属腫の原因、感染拡大について分かったでしょうか?
伝染性軟属腫は基本的は半年~1年半程度で自然治癒します。ただし治るまでに時間がかかるため、 他の人にうつしたり、患部を掻き壊して伝染性膿痂疹(とびひ)起こすリスクがあります。2次感染の防止のため抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤などの対症療法が用いられることもあります。
その他にはピンセットでイボを取り除いたり、液体窒素凍結療法で取り除く方法や、ヨクイニンによる免疫力の賦活で治癒を早める方法があります。
しかしこれまで確立された治療法はありませんでした。しかし今回の記事で紹介するワイキャンス®外用液が登場することによって、初めて伝染性軟属腫の治療薬が登場することになります。


・ワイキャンス®外用液の作用機序について
ワイキャンス®外用液の有効成分はカンタリジンといいます。添付文書には作用機序は以下のように記載されています。

これをなるべく詳しく解説します。

まず初めにヒトの皮膚構造を見てみましょう。皮膚の表皮と真皮の間には基底膜という膜があり、これが表皮と真皮を結合しています。

基底膜の上(表皮側)には1層の基底細胞が並んでおり、基底細胞は基底膜を介して真皮からの栄養を受け取っています。
基底細胞は表皮細胞の幹細胞であり、細胞分裂を繰り返すことで新しい細胞を生み出し、古い細胞を表皮側に押し出します。これにより表皮のターンオーバーが行われます。
この基底細胞は隣接する細胞と結合するためにデスモソーム基底膜と結合するためのヘミデスモソームという接着構造が存在します。
※その他にも隣接する細胞がチャネルで直接結合するギャップ結合も存在します。

デスモソームはデスモグレインなどの細胞接着因子によって構成されていますが、セリンプロテアーゼというタンパク分解酵素がデスモグレインを分解し細胞間の結合を緩めます。これにより表皮構造が破壊され、カンタリジンが塗布された部位では水疱が形成されます。またターンオーバーの最終段階では古い角質細胞が皮膚表面から落屑しますが、デスモグレインの分解により落屑を促進します。

つまり意図的に水疱を形成させ、ウイルスが感染した組織を皮膚からの剥離を促すわけですね。

なおカンタリジンは「中性セリンプロテアーゼ」を活性化するとされています。セリンプロテアーゼに限らすタンパク質の活性はpHに大きく影響されます。セリンプロテアーゼにも酸性、中性、アルカリ性それぞれで活性化しやすいものがあり、中性プロテアーゼはpH7付近の中性域で最も活性化します。
皮膚に存在するセリンプロテアーゼの多くは中性セリンプロテアーゼです。そのため中性セリンプロテアーゼを活性化することで皮膚での働きが強くなり、また他の組織への影響が少なくなるわけですね。

・効能効果、用法用量について
効能・効果は「伝染性軟属腫」のみです。尋常性疣贅にも効きそうではありますが、保険適応はありません。

用法および用量は
「通常、成人及び2歳以上の小児に、3週間に1回、患部に適量を塗布する塗布16~24時間後に、石鹸を用いて水で洗い流す。
とされています。3週間に1回のみの使用で済みます。これは非常に楽ですね。
しかしワイキャンス®外用液は医療機関で使われ、患者自身が塗ることはできません。正常な皮膚に付着してしまうと、そこにも水疱ができてしまうからですね。塗布後16~24時間たってから洗い流すので、塗った当日は入浴の際に患部をラップ等で包むなどの工夫が必要でしょう。

・副作用について
副作用は以下のように記載されています。

10%以上の副作用はいずれもイボが取れる過程で生じる症状です。症状が強くない限り気にしないよいでしょう。激しい痛みが生じた場合は16~24時間たっていなくても石鹸を用いて洗い流します。


今回の記事でワイキャンス®外用液について理解できたでしょうか?
私自身、子供の頃に水いぼができやすく、皮膚科に行っては痛い思いをしながら液体窒素で焼かれた記憶があります。しかも液体窒素凍結療法では伝染性膿痂疹などの2次感染を起こすことがあります。ワイキャンス®外用液を使った際も痛みや2次感染のリスクはあるでしょうが、液体窒素凍結療法ほどではないでしょう。実際にどの程度効果があるかは未知数ですが、水いぼの治療薬が登場したのは嬉しいことです。

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