その下痢は薬が原因かも 顕微鏡的大腸炎について

疾病・病態

うちの薬局で以下のような薬が処方されていた患者さんが、長い間下痢に悩まされていました。

(般)オメプラゾール腸溶錠10㎎ 1錠  1日1回 朝食後

整腸剤や止瀉薬を使っていましたがなかなか改善しません。しかし別の医師に診てもらったところ、処方内容が以下のように変わりました。

(般)ファモチジン口腔内崩壊錠20㎎ 2錠 1日2回 朝夕食後

すると下痢がおさまったとのことでした。何が原因か分かるでしょうか?おそらくこの患者さんはオメプラゾールの長期使用により顕微鏡的性大腸炎になっていたと思われます。
今回の記事では顕微鏡的大腸炎について解説します。特にPPIを長期使用している人に起こりうる疾患なので、日常業務の中で疑わしい人がいないか注意して見てもらえると幸いです。


・顕微鏡的大腸炎について
microscopic colitis(以下MC)といい、原因不明の慢性消化管炎症であり、寛解と再燃を繰り返す慢性の水様性下痢を起こします。血便を伴わないのが特徴です
内視鏡検査の画像では異常は見られませんが、大腸粘膜直下の生検組織(内視鏡検査の際に採取した組織)には膠原線維束や炎症細胞の浸潤が認められます
※膠原線維 結合組織の細胞組織間に存在するコラーゲンを主成分とする線維。膠原線維が数十本集束してできたものを膠原線維束という。

膠原線維束の蓄積および上皮細胞への炎症細胞の浸潤が認められるものを膠原線維性大腸炎(Collagenous colitis:以下CC)といい、膠原線維束の蓄積がないものをリンパ球性大腸炎(Lymphocytic colitis:以下LC)といいます。
CC、LCの違いは大腸粘膜上皮直下に10μm以上の膠原線維束があるかどうかで、症状としては同じであり、臨床的に区別する必要はないとされています。なおLCに比べてCCの方が圧倒的に患者数が多いとされています。

MCの原因は不明であり遺伝的要因、自己免疫、薬剤、腸管感染(カンピロバクターなど)、胆汁吸収不良、食物アレルギーなどが考えられています。

MCの原因となる薬剤については以下のようなものが挙げられています。

・PPI
・NSAIDs
・SSRI

・αグルコシダーゼ阻害薬
・チクロピジン
・アロプリノール


特に多いのはPPIとNSAIDsです。
今回の患者さんの事例はオメプラゾールでしたが、PPIの中でも圧倒的に多いのがランソプラゾールです。詳しい作用機序は不明ですが、ランソプラゾールは大腸粘膜に対して感受性が強いので、大腸でも作用することで分泌物に影響を与え、腸内細菌叢の変化が生じることが考えられています。
PPIは長期間の使用でMCの発生頻度が増加します。逆流性食道炎などでPPIをDo処方で長期使用している患者は多いですが、このような人が慢性の下痢になっていた場合、MCの可能性が高いと言えるでしょう。

・MCの治療
原因薬剤の中止が基本となります。多くの場合はこれで改善します
しかしそれでも改善しない場合は薬物療法を行うことがあります。アミノサリチル酸製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン)、ブデソニド、アザチオプリンなどを用います。いずれも腸管粘膜の炎症を抑えるためですね。
ブデソニドを1日9mg内服が最も治療効果が高いとされています。潰瘍性大腸炎治療薬のコレチメント®錠やクローン病治療薬のゼンタコート®カプセルなどはいずれも大腸で持続的にブデソニドを放出するため局所的に作用するため、治療効果が高く副作用が少ないためです。


今回の記事でMCについて理解できたでしょうか?
PPIやNSAIDsを慢性的に使っている患者さんは大勢います。また慢性の下痢を起こしている患者さんも大勢います。慢性の下痢の場合は多くの場合、過敏性腸症候群や機能性ディスペプシアなどの診断を受けますが、実は薬物が原因で慢性の下痢になっているのかもしれません。疑わしい事例があったら医師に情報提供してあげるのもいいかもしれません。

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