この患者さんの服用薬は以下の通りです。
バイアスピリン(100) 1錠
フェブリク(20) 1錠
レバミピド(100) 1錠
ピタバスタチン(1) 1錠
サインバルタ(20) 1錠
1日1回 朝食後
アムロジピン(5) 2錠
マグミット(500) 2錠
カロナール(200) 4錠
1日2回 朝夕食後
1ヶ月に1回受診しているのですが、今まで特に便秘が酷くなったとかいう話は聞きませんでした。ご家族曰く、タケダ漢方便秘薬はつい最近飲み始めたようであり、それを飲んでいると調子が良いとの事でした。本人にはお医者さんに相談してからにするよう言ったようですが、聞く耳をもってくれないようで、薬局に相談したそうです。
タケダ漢方便秘薬の有効成分は大黄甘草湯です。医療用もOTCも1日量につき、大黄甘草湯エキスを0.8g含有しています。中身はほとんど一緒です。
上記の処方と大黄甘草湯は薬の相互作用は特に問題ありません。
薬剤師はついつい薬の相互作用で問題ないかにばかり注目してしまいがちです。私もまずは相互作用をチェックしました。しかしここで終わりではいけません。過去の記事でも紹介したように、患者の病態や、生活背景も総合的に判断しなくてはなりません。 大黄甘草湯は含有生薬は、その名の通ダイオウとカンゾウです。
ほとんどの漢方に含まれるカンゾウに注意しなくてはなりません。カンゾウはグリチルリチンが含まれるため、これが偽アルドステロン症を引き起こすことがあります。
※グリチルリチンがコルチゾールの代謝を阻害するため、代謝されずに残ったコルチゾールが鉱質コルチコイド作用を示す。
漢方薬を長期使用すると血圧上昇などの副作用が起こるのはこのためですね。
さてこの患者さんは高血圧をもっています。またバイアスピリン(100)やピタバスタチン(1)が処方されていることから想像できると思いますが、過去にカテーテル手術をしたことがあります。偽アルドステロン症を起こした場合、心負荷が大きくなるので、やはり望ましくありません。
今回のケースではまず患者さんご家族には、現在服用中の薬との飲み合わせは問題ない旨を伝えました。しかしタケダ漢方便秘薬を連用すると血圧上昇や心負荷の増加のリスクもあるので、主治医の先生と相談してきてよいか?と聞きました。ご家族の方は喜んで、是非お願いしますとの事でしたので、さっそく服薬情報提供書を作り、それを持って直接面会に行きます。
先生と話し合って処方変更の内容もある程度決まりました。
まずマグミットの増量はしないことにしました。酸化マグネシウムを製剤の長期投与で高マグネシウム血症が起きたことによる注意喚起があったことは皆さんご存じだと思います(2015年頃です)。この患者さんはすでに1日1000㎎の酸化マグネシウムを服用しているので、これ以上は望ましくありません。
アミティーザは酸化マグネシウムと作用機序こそ違えど、どちらも腸管内に水分を引き込むことによる便の軟調化を目的としているので、併用してもあまり効果が期待できません。
今回は大腸刺激性下剤であるアローゼン®を使うことにしました。異なる作用機序の方が効果が増量しやすいからですね。なお大黄甘草湯に含まれるダイオウはセンノシド類を含有しています。これはアローゼン®やプルゼニド®と一緒ですね。大黄甘草湯もアローゼン®もプルゼニド®も腸内細菌によって加水分解されて生成された、レインーアンスロンによって大腸が刺激され、瀉下作用を示します。アローゼン®を併用すれば、タケダ漢方便秘薬と同等の効果が得られ、なおかつ偽アルドステロン症による血圧上昇や心負荷の増加のリスクを避けられるでしょう。
医師との面会が終わったのち、患者さんご家族に連絡をしました。
先生とのやり取りを報告し、タケダ漢方便秘薬は便秘が酷い時のみ最小限で使ってもらい、次回診察時には医師から便秘について聞いてもらい、必要があれば処方変更してもらうことを伝えました。
今回の事例は患者(正確には家族)と薬局の信頼関係、薬局と医師との連携がとれていたため、スムーズに対応できた事例です。今回のケースに限らず、相談ごとはとにかく早く動くことが必要です。どんなに素晴らしい対応でも時間がかかれば、その間患者さんは不安になると思います。チンタラして腰の重い薬剤師も多いですが、自分はフットワークの軽い薬剤師を貫いていこうと思います。記事が良かったと思ったら、ランキングの応援お願いします。
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