先日うちの新患さんに以下の内容の処方がされました。
Rp(1)(般)クラリスロマイシン錠(200) 2錠
1日2回 朝夕食後 5日分
Rp(2)(般)デキストロメトルファン錠(15) 3錠
(般)カルボシステイン錠(250) 3錠
(般)ロキソプロフェンナトリウム錠(60)3錠
1日3回 毎食後 5日分
普通の風邪薬の処方ですが、新患アンケートを確認したら、副作用歴の欄に”ロキソニン”と書いてありました。患者さんにどのような副作用が起きたか確認すると、「顔が腫れあがった」とのことです。慌てて疑義照会して(般)ロキソプロフェンナトリウム錠(60)の箇所をカロナールに変えてもらいました。この副作用は何か分かるでしょうか?おそらく血管浮腫です。血今回の記事で血管浮腫について解説します。血管浮腫の病態と、原因となりやすい薬について確認してもらえたらと思います。
・血管浮腫について
血管性浮腫とは別名クインケ浮腫ともいい、皮膚・粘膜が突然浮腫を起こし、腫れる疾患です。
浮腫の起きる場所は特に唇、瞼、頬に多く、また口腔内、のどで浮腫を起こすと呼吸ができなくなることがあります。
多くの場合は蕁麻疹と同様にアレルギー反応により引き起こされます。
蕁麻疹はアレルギー反応が皮膚の浅い部分で起こるのに対して、血管浮腫は皮膚の深部で起こります。
※アレルギー反応により血管透過性が亢進し、血管内の水分が漏出し、浮腫となります
血管浮腫が蕁麻疹と異なるところは皮疹や痒みを伴わず、腫れだけのことが多いです。(眼で生じた場合は充血を伴うこともあります)
蕁麻疹が数時間で消失するのに対し、血管浮腫は皮膚の深部で起こるため、改善までに数日を要します。(痕跡は残さず正常な状態に戻ります)
・血管浮腫の治療法
蕁麻疹の時と同様にアレルギー反応に対する治療を行います。
抗ヒスタミン剤の内服が基本となります。またこトラネキサム酸を補助的に用いることもあります。症状が酷い時は内服ステロイドを用います。
また呼吸困難を伴う場合は気道の確保やアドレナリン注射を行うことがあります。
ここまでで血管浮腫についてある程度分かったでしょうか?
血管浮腫はストレス、疲労、食物のアレルギー、遺伝的要因が原因となることがあります。そして薬物が原因となるケースも多いです。実際にどのような薬物が原因となるか見てみましょう。
・血管浮腫の原因薬物
NSAIDs
プロスタグランジン(以下PG)産生抑制によって腎血流が低下することが原因とされています。(多くのPGは血管拡張効果を示すので、PGの産生抑制により血管が収縮します)
腎血管の収縮で腎血流が低下することで、尿細管における水の再吸収が亢進し、体液が貯留しやすくなります。
ACE阻害薬
ACE阻害薬の代表的な副作用が血管浮腫です。これブラジキニンの産生促進によります。
ACE阻害薬はアンギオテンシン変換酵素(ACE)を阻害し、降圧効果を示します。ブラジキニンはキニナーゼⅡにより不活性代謝物に代謝されますが、ACEとキニナーゼⅡは名前こそ違いますが同じものでです。そのためACE阻害薬によりブラジキニンの代謝が阻害され、ブラジキニンの量が増えることになります。
ブラジキニンは血管透過性を亢進するので、血管浮腫が起きる原因となります。(ブラジキニンは気管支収縮作用ももつので、これが空咳の原因にもなります)
ACE阻害薬はエンレスト®錠に切り替える際も血管浮腫に対する注意が必要です。
エンレスト®錠はACE阻害薬と併用禁忌です。
エンレスト®錠はバルサルタンとサクビトリルの合剤です。サクビトリルはネプリライシン阻害です。
参考記事 ⇒ 慢性心不全治療薬 エンレスト錠
ネプリライシンはANPやBNPなどの内因性ナトリウム利尿ペプチドを阻害しますが、その他にもプラジキニンの分解を阻害します。そのためネプリライシンを含有するエンレスト®錠とACE阻害薬を併用すると、ダブルでブラジキニンの分解を阻害してしまい、血管浮腫が起きやすくなってしまいます。
そのためエンレスト®錠をACE阻害薬から切り替えて使用するには、ACE阻害薬の服用後36時間以上して、完全にACE阻害薬が消失してからでないといけません。
抗生剤
ペニシリン系抗生剤が最も血管浮腫の原因になりやすいとされています。抗生剤の中でもアレルギーが最も多いのがペニシリン系だからですね。詳しい作用機序は不明ですが、ペニシリン系はIgEを介してI 型アレルギーを起こすことが多いです。
経口避妊薬
詳しい作用機序は不明とされていますが、エストロゲンがACEを阻害することが分かってきています。
またエストロゲンは血管内皮細胞から一酸化窒素(NO)を分泌させる作用があります。NOにより血管が拡張し、血管透過性が増すので、これも原因ではないかと思います。
線溶系酵素
アルテプラーゼ、モンテプラーゼなどの組み換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)があります。これらはプラスミンの産生を促進して血栓を溶解する酵素です。
プラスミンはカリクレインと同様にキニノーゲンをキニンに活性化する作用をもちます。
※キニン ブラジキニンなどの血管拡張作用のあるオータコイドの総称です
線溶系酵素によりプラスミンの産生が促進される結果、ブラジキニンの産生も促進され、血管浮腫が起きやすくなることが分かると思います。
逆に言えば抗プラスミン作用のあるトラネキサム酸が血管浮腫の治療に用いられる理由が分かりますね。
今回の記事で血管浮腫について、そして原因となる薬物について理解できたでしょうか?
血管浮腫は酷い時は命にかかわり、またそうでなくても症状が改善するのに数日を要します。副作用歴のチェック、またACE阻害薬からエンレスト®錠への切り替えを正しく行うなど、重大な副作用を少しでも食い止められるよう日々の業務を行いたいと思います。
にほんブログ村
記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。
コメント