炭酸リチウムとNSAIDsの併用を回避 リチウム中毒の起きるメカニズムについて解説

調剤業務

先日社内のヒヤリ・ハットの報告で炭酸リチウムが処方されている患者にNSAIDsが処方されたので、疑義照会してカロナール(500)に処方変更となった事例がありました。炭酸リチウムとNSAIDsの併用は禁忌ではありませんが、もしそのままにしていたらリチウム中毒を起こしていたかもしれない事例であり、回避した薬局は素晴らしい仕事をしました。今回の記事でリチウムの薬物動態とリチウム中毒が起きる相互作用について細かく解説します。メカニズムについて理解して、リチウム中毒を起こす可能性があるケースを未然に防いでくれたら嬉しいです。



・炭酸リチウムの薬物動態について
Li⁺はほぼ全てが消化管から吸収され、全身に分布します。Li⁺は体内で代謝されることなく、腎臓から尿中へ未変化体のまま排泄されます。Li⁺は血漿タンパク質とほとんど結合せず、ほとんどが糸球体で濾過されます。濾過されたLi⁺は70~80%が尿細管で再吸収されるわけですが、Li⁺はNa⁺と同じトランスポーターを介して再吸収されます。 
具体的には、近位尿細管に存在するNHE3(Na⁺-H⁺交換輸送体)でNa⁺と一緒に再吸収されます。つまり排泄がNa⁺と密接に関連していることが想像できると思います。



炭酸リチウムの薬物動態を確認できたところで、リチウム中毒を起こす可能性のある併用薬について詳しく見てみましょう。


・利尿剤との相互作用
利尿剤はほとんどのものがNa⁺の再吸収を阻害するものです。Na⁺は体液の浸透圧を決定する因子のため、基本的に水と一緒に動きます。つまりNa⁺の再吸収を阻害することで尿細管からの水の再吸収を阻害し、利尿効果を発揮するわけです。


これらの利尿薬により尿中Na⁺濃度が上昇すると、それを補おうとしてNHE3でのNa⁺の再吸収が代償的に促進されます。つまりLi⁺の再吸収も促進されてしまうわけです。

※アセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬はNHE3でNa⁺の再吸収を阻害するので、Li⁺は一緒に再吸収が阻害され、Li⁺の血中濃度は低下します。

・RAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)との相互作用
ACE阻害薬はアンギオテンシンⅡの生成を阻害し、ARBはアンギオテンシンⅡ受容体を阻害します。どちらもアンギオテンシンⅡの働きを阻害するわけです。
アルドステロンは副腎皮質のアンギオテンシンⅡによるAT1受容体の刺激により副腎皮質から分泌されます。つまりACE阻害薬、ARBともに最終的にはアルドステロンの分泌を抑制します

アルドステロンの分泌が抑制される結果、Na⁺の再吸収が阻害され、排泄が促進します。
(アルドステロンはミネラルコルチコイド受容体に結合しNaポンプ(Na⁺‐K⁺交換輸送体)を促進し、Na⁺を再吸収する)
つまり利尿剤の場合と同様に、尿中Na⁺濃度を補おうとして代償的にNa⁺の再吸収が促進し、Li⁺も一緒に再吸収されます。

・NSAIDsとの相互作用
過去に何度か紹介しているようにNSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジン(PG)の産生を抑制します。PGの多くは血管拡張作用をもちます。
※PGD2、PGE2、PGI2は血管拡張作用をもちますが、PGF2αは血管収縮作用をもちます

NSAIDsによりPGの産生が抑制され、PGの血管拡張効果が抑制されることで腎血流が低下します。※NSAIDsにより主に収縮するのは輸入細動脈です

輸入細動脈が収縮することで腎臓への血流量が減少し、尿中へ濾過されるLi⁺の量が減少します
また腎血流量が低下すると代償的に水分を保持しようとNa⁺の再吸収が促進されます。その結果、Li⁺もNa⁺とともに再吸収が促進されます。

この他にメトロニダゾールもLi⁺の血中濃度を上昇させることが知られていますが、まだ詳しいメカニズムは解明されていません。
(メトロニダゾールによる腎機能の低下や、下痢の副作用による脱水がLi⁺の血中濃度を上昇させるという可能性が示唆されています)


Li⁺の血中濃度を上昇させる薬の相互作用について理解できたでしょうか?それではLi⁺の血中濃度の上昇によるリチウム中毒とは一体どのようなものか見てみましょう。

・リチウム中毒について
Li⁺の血中濃度の治療域と中毒域は近接しているため、TDMが必要とされています
(治療域は0.6~1.2mEq/L 1.5mEq/Lを超えると中毒域、2.0mEq/Lを超えると重篤な症状が出る可能性あり)

リチウム中毒が起きるメカニズムとしては以下のようなものがあります。

①細胞のシグナル伝達にはNa⁺、K⁺、Ca²⁺などの細胞内外への移動が必須です。Li⁺が過剰になると、これらのイオンチャネルやトランスポーターと競合・干渉します。そのため細胞の興奮に異常が生じます。

②Li⁺はPI代謝回転(イノシトール経路)を阻害し、細胞応答を阻害します。これは双極性障害の躁症状を改善する本来の薬理作用ですが、Li⁺が過剰になると精神・神経系に異常が生じます。


③その他にもLiは脳の化学受容器引き金帯(CTZ)を刺激するため吐き気が生じ、消化管の蠕動運動に異常をきたすため下痢や腹痛を生じます。
腎臓では集合管においてバソプレシンの作用を妨害し、腎性尿崩症を起こすことがあります。心筋細胞でNa⁺、K⁺、Ca²⁺などの細胞内外への移動に干渉し、不整脈や心停止を起こすことがあります。

悪心嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状、腎性尿崩症などの腎症状、手の震え、倦怠感、眠気などは早期に表れ、治療域でも生じることがあります。
中等度中毒になるとめまい、運動失調、意識レベルの低下、錯乱、意識レベルの低下などの神経系の症状が顕著にでてきます。発熱することもあります。
重度中毒になると急性腎不全、昏睡、全身痙、呼吸困難、重度の不整脈などが起き、生命に関わります。


今回の記事でリチウム中毒について、またリチウム中毒を起こす相互作用のメカニズムについて理解できたでしょうか?
リチウム中毒は時に致命的になり、命を落とすこともあります。しかし炭酸リチウムに併用禁忌の薬は存在せず、相互作用を見落としやすい薬です。特に炭酸リチウムとNSAIDsの併用でリチウム中毒を起こしたという報告は数多くあります。炭酸リチウムが処方された場合、併用薬にNSAIDs、利尿剤、RAS阻害薬、メトロニダゾールがあった場合は必ず疑義照会するのがよいでしょう。自分の薬局でも全員に周知してリチウム中毒を未然に防止するようにします。

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