公益財団法人日本医療機能評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業で以下の事例が報告されていました。
【事例の詳細】
薬剤師が医師の訪問診療に同行した際、90歳代の患者の家族から、帯状疱疹ワクチンの患者への接種希望があった。医師が生ワクチンの乾燥弱毒生水痘ワクチン「ビケン」と組換えワクチンのシングリックス筋注用について患者の家族に説明を行い、どちらを選択するか希望を尋ねた。薬剤師は、患者が関節リウマチの治療のためプレドニゾロンを長期間内服していることを把握していたため、生ワクチンは患者に禁忌であることを医師に情報提供した。その結果、患者にシングリックス筋注用を接種することになった。
【推定される要因】
医師は、患者がプレドニゾロンを服用していることを失念していたと思われる。
【薬局での取り組み】
薬局内で今回の事例を共有した。患者がワクチン接種を受けるという情報を入手した際は、接種するワクチンを聴取し、懸念事項がある場合は医師に情報提供する。
当薬局も医師の往診同行をしているので、いつか同様の場面に遭遇するかもしれません。そのため今回の記事でワクチンの種類、またどのようなケースで生ワクチンが使えるかどうかについても解説します。薬剤師はあまりワクチンについて詳しく勉強する機会も少ないので、是非参考にしていただければと思います。
・ワクチンの種類について
ワクチンには生ワクチン、不活性化ワクチン、トキソイドワクチンがあります。
生ワクチンは病原体(細菌やウイルス)を弱毒化したものであり、不活性化ワクチンは病原体を殺菌・不活性化したものです。トキソイドワクチンは病原体の毒素だけを取り出し、毒性をなくしたものです。
生ワクチンは自然感染に近い免疫反応が起きるため、細胞性免疫(T細胞による)、体液性免疫(抗体による)の両方が誘導され、免疫記憶も長期に渡って続きます。
不活性化ワクチン、トキソイドワクチンでは体液性免疫のみ誘導され、細胞性免疫はほぼ起きません。免疫記憶も弱めです。
混合されていない2種類以上の生ワクチンを別々に接種する場合には、27日以上の間隔を空けなければなりません。
※ただし注射剤のみです。経口生ワクチン(ロタウイルス)には投与間隔の制限はありません。
生ワクチンと不活性化ワクチン・トキソイドワクチン、あるいは不活性化ワクチンと不活性化ワクチンを接種する場合は、接種間隔の制限はありません。
今回の事例では患者が関節リウマチの治療のためプレドニゾロンを長期間に渡って服用していました。この場合でワクチン接種は可能でしょうか?
結論から言うと不活性化ワクチンは使えます。生ワクチンは使える場合と使えない場合があります。
ステロイドは免疫抑制作用があります。そのためステロイドで免疫抑制状態になっている場合に生ワクチンを接種すると感染症が重症化するリスクがあり、生ワクチンは使えなくなります。
※不活性化ワクチンやトキソイドは感染力が失われているので接種可能です。
しかしステロイド接種=免疫抑制状態とは言えません。免疫抑制とみなされるにはステロイドをどの程度使っているかがポイントとなります。
NLM(National Center for Library of Medicine:アメリカ国立医学図書館)が運営する、生物医学・生命科学分野の無料論文アーカイブであるPub Med Central(PMC)に「リウマチ疾患を持つ成人患者への予防接種推奨」が掲載されています。
※Pub MedとPubMed Central(PMC)は異なるサービスです。PMCは論文全文を収録している1次情報であり、PubMedは論文のアブストラクト(抄録、必要な部分だけを書き抜いたもの)とリンクのデータベースである2次情報です。
これによるとプレドニゾロン換算で1日20mg以上を2週間以上続けている状態で免疫抑制とみなされ、生ワクチンは禁忌となります。
※ステロイドは全身投与(内服や注射)である必要があります。外用薬は含まれません。
プレドニゾロン換算とは様々なステロイドの、ステロイド治療の基準薬として使われるプレドニンと同様の抗炎症効果(糖質コルチコイド作用)が得られる量を換算したものです。
※ここでいう力価はヒドロコルチゾンを基準とし、力価1となります。
ヒドロコルチゾン20mgがプレドニゾロン5mgとほぼ同等の抗炎症効果をしめすことになります。
プレドニゾロン換算が1日20mg未満だったり、2週間未満の短期間の場合は免疫抑制状態とはみなされないので、生ワクチンも使用可能となります。
・帯状疱疹ワクチンについて
今回の事例であった帯状疱疹ワクチンですが、帯状疱疹ワクチンには2種類あります。
乾燥弱毒性水痘ワクチン「ビケン」は生ワクチンであり、1回の皮下注射ですみます。予防効果は50%程度であり、効果は5年程度で低下する傾向にあります。
シングリックス筋注用は不活性化ワクチンであり、2回の接種が必要となります(2ヶ月間隔、最大6ヶ月まで)。予防効果は90%以上と非常に高いのが特徴です。
現在はシングリックス筋注用が標準となっています。
今回の事例の患者はリウマチ治療を行っています。当然ステロイドは長期間使用していたことでしょう。報告だけではプレドニゾロン換算でどの程度の量かは不明ですが、ステロイドの量が多ければ免疫抑制状態となり、生ワクチンは使えません。
実際にプレドニゾロン換算で20mg以上のステロイドを使うことは稀でしょうが、リウマチ患者なら標準治療薬であるメトトレキサートも使っているでしょうし、不活性化ワクチンを使う方が無難でしょう。
今回の記事でワクチンの種類、ステロイドをどの程度使っていれば免疫抑制状態とみなせるが分かったでしょうか?生ワクチンは免疫力が低下する50歳以上になって接種することがあります。その頃になると様々な疾患を抱えてくる世代になります。中には抗リウマチ薬など免疫力を低下させる薬を使っている人もいるでしょう。薬剤服用歴を把握できる立場の薬剤師が患者のワクチン接種をしっかり把握しておくことで、ワクチンによる健康被害を防げるのかもしれません。
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