腎機能低下患者への投薬 わずかな情報から、他の検査値を算出

調剤業務

更新がかなり滞ってしまいました💦またまた、とあるスポーツの試合だったので、追い込み練習、それによる熱中症になりかけ、緊張による睡眠不足と心身がヘトヘトでブログに手が回りませんでした。ようやく試合も終わったので、また記事が書けそうです。

先日病院から問い合わせがありました。その病院に久しぶりに受診した患者さんで帯状疱疹の方がいらっしゃったようです。バラシクロビルを処方しようと思ったのですが、久しぶりに受診した患者さんのため、情報が少なかったようです。少し前に受けた健康診断の結果だけもっていたようで、腎機能が中度低下とのことでした。採血の結果で腎臓に関する検査値として、eGFRだけ記載されていました。eGFR:54とのことでした。この数値ではバラシクロビルの処方量はどうしよう?との問い合わせでした。今回の記事で、どうのように計算して対処したかを紹介します。

まずバラシクロビルについて見てみましょう。
バラシクロビルは以下のような疾患に適応があります。

・単純疱疹
・造血幹細胞移植における単純ヘルペスウイルス感染症(単純疱疹)の発症抑制
・帯状疱疹
・水痘
・性器ヘルペスの再発抑制


そして疾患ごとに薬用量は異なっています。今回の患者さんは帯状疱疹です。この場合の薬用量は次のようになります。
「通常、成人にはバラシクロビルとして1回1000mgを1日3回経口投与する」
バルトレックス®錠は規格が500㎎だけなので、この場合は1回2錠、1日3回服用することになりますね。しかし注意しなくてはならないのが、腎機能低下時では薬用量が異なってくることです。腎機能における薬用量の調節は以下のようになっています。

上記の表を見て分かるように、バラシクロビルはクレアチニンクリアランスの数値によって、薬用量を調節します。現在この患者さんで分かっているのはeGFRだけです。クレアチニンクリアランスは分かっていません。

ここでクレアチニンクリアランスについてよく思い出してみましょう。
クレアチニンクリアランスは、腎臓がクレアチニンをどのくらい尿中に排出させるかを測定したものです。正確に測定するには採血、採尿を行って以下のように測定します。

Cc r= Ucr × V / Cr
Ccr:クレアチニンクリアランス(mL/min)  Ucr:尿中クレアチニン濃度(mg/dL)
V:尿量(mL/min)  Cr:血清クレアチニン濃度(mg/dL)


しかし実際に測定するの採尿し、尿中クレアチニン濃度や尿量、血清クレアチニン濃度を測定したりと手間や負担も大きいです。そのためほとんどのケースでは血清クレアチニン濃度から、以下の式で推定したものを用いています。

Cockcroft-Gault式
男性:Ccr=(140-年齢)×体重(kg)/72×Cr
女性:男性値 × 0.85

※Crは血清クレアチニン値

※ここまでの内容は過去記事で詳しく解説しています。
⇒ 腎機能の検査値② クレアチニンクリアランス

この患者さんは84歳、体重は56kgでした。あとは血清クレアチニン濃度さえ分かれば、クレアチニンクリアランスが算出できます。
現在バラシクロビルを処方したい病院では血清クレアチニン濃度の情報がありません。血液検査をすればすぐに分かるでしょうが、患者は帯状疱疹なので、早めに薬を処方してあげなくてはなりません。採血の結果が出るまで何日も待っていられません。

ここでeGFRについても思い出してみましょう。
GFRとは糸球体濾過速度のことであり、糸球体が1分間にどのくらいの血液を濾過し、尿を作れるかを見る指標です。
GFRを正確に測定するにはイヌリンを注射し、多量の飲水と採尿を行い、採血を行います。しかしこれも現実的には困難なため、内因性物質のクレアチンから推定したGFR、つまりeGFRを求めて代用しています。eGFRは以下の式で求められます。

eGFRの計算式
男性:194×Cr-1.094×年齢-0.287 (mL/min/1.73㎡)
女性:194×Cr-1.094×年齢-0.287 × 0.739 (mL/min/1.73㎡)
※Crは血清クレアチニン値 1.73㎡は成人日本人の平均体表面積 

こちらも詳しくは過去記事を参照して下さい。
腎機能の検査値① クレアチニン、eGFR

この患者さんのeGFRは54と出ています。つまり上の式を逆算するとCr(血清クレアチニン値)が分かるわけです。しかしこれは実際に電卓を使って計算するのは無理でしょう。そのため簡単に計算できるサイトを薬局PCにブックマークしておく必要があります。過去に何度か紹介していますが、以下のサイトが非常に便利です。
⇒ ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト 腎機能推定計算

この段階で血清クレアチニン値は分かっていません。そのため適当な数字を入れて「計算」を押します。なおこの患者さんの検査結果ではeGFRの単位は(mL/min/1.73㎡)でした。これは体表面積は成人日本人の平均体表面積の1.73㎡を用いています。そのため身長のデータは不要です。
これで補正eGFRが54になるように、何度か試しましょう。

血清クレアチニン値を1にして計算すると補正eGFRは54.4になりました。患者さんの数値とほとんど同じです。血清クレアチニン値は1で大丈夫でしょう。

ついでにクレアチニンクリアランスも計算してくれています。念のため確認しましょう。
Cockcroft-Gault式
男性:Ccr=(140-年齢)×体重(kg)/72×Cr

⇒ CCr=(140-84)×56/72×1=43.55…≒43.6

これでeGFRから血清クレアチニン値、そしてクレアチニンクリアランスが求められました。
クレアチニンクリアランス43.6の場合、バルトレックス®錠(500)を1回2錠、1日2回の服用にすればいいでしょう。

今回の件は、電話で相談を受けて一瞬考えましたが、すぐにブックマークしておいた計算サイトを使って、その結果を添付文書と照らし合わせて、数分で解決できました。検査値は数値や式を暗記することが重要ではありません。計算は専用サイトにやってもらいましょう。
以前からこのブログでは暗記するのではなく、意味を理解することを重要視しています。eGFRやクレアチニンクリアランスはどのようにして求められるかを理解しておけば導き出せるものです。時折過去記事を見直して、検査値の意味や算出方法を思い出してくれると幸いです。

腎機能低下患者における薬剤の適正使用は、薬剤師業務の中では最重要項目です。また近いうちに補正eGFRと未補正eGFRの違いなど、腎機能に関する記事も書いていこうと思います。

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