現在ビペリデンの原薬不足により出荷調整が続いています。
⇒ ”ビペリデン塩酸塩錠1㎎「ヨシトミ」”出荷停止および“ビペリデン塩酸塩散1%「ヨシトミ」”限定出荷開始のご案内とお詫び
薬の不足は数年続いており、一向に改善の傾向がみられません。ビペリデンが無くなると特に神経内科の門前の薬局は非常に困るでしょう。今回の記事では代替薬の考察を行います。過去にカロナールの代替薬を考察しましたが(カロナールが入荷しない 他剤への切り替えにおける注意点)、今後どのような薬が不足しても適正に代替薬を提案できるように訓練しましょう。
まずビペリデン(アキネトン®)はどんな薬か見てみましょう。
ピデリデンは抗コリン薬であり、パーキンソニズムの改善に用います。パーキンソン病の詳しい病態を解説すると膨大な量になってしまうので割愛しますが、黒質ー線条体の神経伝達はドパミンが抑制的に、アセチルコリンが促進的に働いています。パーキンソン病では黒質ー線条体のドパミン作動性神経が変性してしまい、アセチルコリン>ドパミン となっているので、アセチルコリンの働きを抑制することで、パーキンソン病の症状が緩和されるわけですね。
効能効果は以下のようになります。
パーキンソニズムとはパーキンソン病の症状(振戦、無動、筋固縮、姿勢保持障害)のことをいいます。そしてパーキンソン病以外の何らかの原因により、パーキンソニズムが生じることをパーキンソン症候群といいます。上記の特発性パーキンソニズムとはパーキンソン病のことをさし、それ以外のものはパーキンソン症候群になりますね。
ピデリデンの働きが分かったところで、代わりの薬が無いか見てみましょう。
現在パーキンソニズムに有効な抗コリン薬はトリヘキシフェニジル(アーテン®)とピロヘプチン(トリモール®)があります。
※他にマザチコール(ペントナ®)もありますが、これは2023年3月で経過措置が切れます
この2つを見てみましょう。
まずは効能効果を比べてみます。
トリヘキシフェニジルはビペリデンとほとんど一緒ですね。”その他のパーキンソニズム”に”中毒性”が入っていないだけです。中毒性とは一酸化炭素中毒などでパーキンソニズムが起きてしまった場合ですね。
ピロへプチンはパーキンソン症候群となっています。これはパーキンソン病(特発性パーキンソニズム)以外のパーキンソニズムなら使えると解釈できます。
ここまでを総括してみると。
ビペリデン⇒トリヘキシフェニジル はほとんどのケースで代替できそうです。
ビペリデン⇒トリモール はパーキンソン病以外なら代替できそうです。
それではどの程度の量で代替すればよいでしょうか?
これを考察するのに等価換算という考えが便利です。等価換算とは同じ系統の薬を比較して力価が同じ程度になる目安をしめしたものです。
等価換算は報告する機関によって数値も異なりますが、この記事では日本精神科評価尺度研究会の数値を用います。
まずは日本精神科評価尺度研究会のHP内の、向精神薬の等価換算のページにアクセスします。現在は2017年度版が最新版です。 ⇒ 向精神薬の等価換算 2017年度版
この中で今回使うのは抗パーキンソン病薬の等価換算です。 ⇒ 抗パーキンソン病薬の等価換算
ここを見てみるとピデリデン2㎎とトリヘキシフェニジル4㎎、ピロヘプチン4㎎が等価となっています。
アキネトン®錠(ビペリデン)の規格は1㎎、アーテン®錠(トリヘキシフェニジル)の規格は2㎎、トリモール®錠(ピロヘプチン)の規格は2㎎なので、アキネトン®錠、アーテン®錠、トリモール®錠それぞれ1錠が等価と言えます。
次に薬物動態を見てみましょう。
吸収される速さ、消失時間を比較します。この場合Tmax、T1/2を比べるとよいでしょう。トリモール®錠(ピロヘプチン)の薬物動態パラメータはありませんでした。メーカーに直接確認すれば入手できるかもしれませんが、今回は割愛します。ピデリデンとトリヘキシフェニジルの比較を行います。
Tmax、T1/2ともにほとんど同じ時間です。つまりピデリデンとトリヘキシフェニジルはおおむね同じような薬物動態と言えます。ピデリデンが足りなくなった時はトリヘキシフェニジルで代替するのが最もよいでしょう。
今回のように代替薬の考察をする時は以下の順で行うとよいでしょう。
①効能効果の確認
⇒代替薬が治療の対象となっている疾患の適応外になっては困ります。まずは患者の疾患の代替薬が適応をもっているかのチェックが必要になります。
②等価換算量の確認
代替薬で同程度の治療効果が出ないと困ります。向精神薬はそれなりにデータが出回っていますが、他の薬(降圧剤など)はデータが少ないです。この場合はメーカーに直接確認するのがよいでしょう。
③薬物動態の確認
代替薬も同じような速度で吸収され、同じような速さで消失するのが望ましいです。なるべく近いものを選びましょう。いいのが無い場合は患者のライフスタイルを考慮した上で決めましょう。
④その他の要因の確認
相互作用や副作用、薬の剤形、錠剤の大きさ、粉やシロップの味などです。この辺は患者の特性をしっかり把握していないといけません。
薬が入手困難になった場合、代替薬の考えなくてはならないケースが出てくるでしょう。その際は基本的に処方医と話し合って決めます。しかし何の情報もなくいきなり面会に行ったのでは、処方医も困ってしまうでしょう。先ほどあげた①~④の情報をしっかり把握して、ある程度正解を導き出したうえで提案してあげると処方医も助かるでしょう。
過去に何度も書いていますが、このような不測の事態の時こそ職能が問われます。試行錯誤、トライ&エラーの繰り返しでこそ能力は磨かれます。常に考え、良い方法があったら共有して社会貢献できればと思います。
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