2022年12月23日にアトピー性皮膚炎の治療薬のバイオ製剤であるアドトラーザ®皮下注が承認されました。販売はまだであり、販売後も当面は病院で使用することになります。薬局で扱うことはほとんどないかもしれませんが、今後もバイオ製剤は増えていくものと思われます。そのためこのような薬の勉強をしておくことは必要だと思うので、今回の記事で紹介します。
アドトラーザ®皮下注はIL-13のモノクロナール抗体です。これがどのような働きをするかを理解するために、まずはIL-13とアトピー性皮膚炎の関係について学んでおきましょう。
アトピー性皮膚炎や気管支喘息などのアレルギー反応にはTh2細胞が産生するインターロイキン(以下IL)が関与しています。
その中のIL-13は受容体はIL-13受容体α1(以下IL-13Rα1)やIL-13受容体α2発(以下IL-13Rα2)といった受容体に結合します。その中でもIL-13Rα1に結合したIL-13は、IL-4受容体(以下IL-4Rα)と複合体を形成します。
IL-13とIL-13α1、IL-4Rαの複合体による反応は、これらの受容体に結合しているヤヌスキナーゼ(以下JAK)が活性化することによって生じます。
この複合体によるJAKの活性化によって痒み、炎症、バリア機能の低下といったアトピー性皮膚炎の症状が起きることになります。
※JAK活性化による作用機序は過去記事を参照して下さい ⇒ コレクチム軟膏
さてIL-13とアトピー性皮膚炎の関係が分かったところで、アドトラーザ®皮下注の有効成分であるトラロキヌマブの働きについて見てみましょう。
トラロキヌマブはIL-13のヒト化モノクロナール抗体です。IL-13に特異的に結合することにより、その働きを阻害します。つまりIL-13がIL-13Rα1、IL-4Rαによる複合体を形成できなくなります。これによりIL-13の働きが阻害され、痒み、炎症、バリア機能の低下といったアトピー性皮膚炎の症状が起きなくなるわけです。
ここまででトラロキヌマブの作用機序は分かったでしょうか?
ちなみに過去に紹介したデュピクセント®皮下注はIL-4受容体、IL-13受容体のモノクロナール抗体であり、コレクチム®軟膏はIL-13やIL-4が受容体に結合したのちのJAKの働きを阻害します。それぞれ異なる作用機序ですが、最終的に転写因子のSTATの活性化が阻害され、炎症反応の促進、好酸球の活性化、痒みの発現、皮膚のバリア機能低下が抑制されることは一緒ですね。
続いてアドトラーザ®皮下注の特徴について見てみましょう。
・適応について
アドトラーザ®皮下注の適応は「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎」です。
IL-4とIL-13の受容体を阻害するデュピクセント®皮下注はアトピー性皮膚炎や気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎にも使えますが、アドトラーザ®皮下注はアトピー性皮膚炎だけです。
そして添付文書に以下のような記載があります。
あくまでアトピー性皮膚炎の治療は外用薬がメインであり、それでも十分な効果が得られない時に使うことになります。またアドトラーザ®皮下注の使用を開始しても外用薬の使用は続けることになります。この辺はデュピクセント®皮下注と一緒ですね。
・使い方について
用法及び用量については「通常、成人にはトラロキヌマブ(遺伝子組換え)として初回に600mgを皮下投与し、その後は 1 回300mgを 2 週間隔で皮下投与する。」となっています。
アドトラーザ®皮下注は1本150mgです。つまり初回に4本注射して、その後は2週間おきに2本注射することになります。
新薬なので1年間は自己注射はできません。当面の間は病院に行って注射することになります。
治療効果は投与開始から16週までには得られるとされています。16週までに効果が得られない時は中止を考慮しなくてはなりません。
・副作用について
注射部位の紅斑、仏痛、腫脹等が11.7%となっています。これは注射剤なので当然でしょう。その他に上気道感染(上咽頭炎、咽頭炎を含む)、結膜炎が5%以上となっています。これも免疫を抑制するわけなので、当然と言えます。これを見た限り特異的な副作用は無いと言えます。
IL-13による免疫反応は寄生虫に対する免疫反応なので、寄生虫感染の治療はアドトラーザ®皮下注を使用する前に行わなくてはなりません。アドトラーザ®皮下注の投与中に寄生虫感染を起こし、抗寄生虫薬が効かない場合には、寄生虫感染の治療が終わるまで使用を中止しなくてはなりません。この辺もデュピクセント®皮下注と一緒ですね。
以上がアドトラーザ®皮下注の紹介になります。
アトピー性皮膚炎の新しい治療法が次々と登場しています。大変喜ばしいことですが、2週間おきに通院して注射するのは大変ですし、まだ薬価は決まっていませんが、おそらくそれなりの金額がするでしょう。バイオ製剤もまだまだ発展途上です。これらの製剤が改良され、安く使いやすくなることを切に願います。
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