2025年2月20日にCSLベーリング株式会社のアナエブリ®皮下注が承認されました。これは遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制薬です。従来とは異なる作用機序のものなので、治療の選択肢が広がりました。まだ発売されていませんが、これを機に遺伝性血管性浮腫とその治療薬についても、まとめておさらいしたいと思います。
・遺伝性血管性浮腫について
遺伝性血管性浮腫(以下HAE)とはC1インヒビターの欠損により発症する血管浮腫です。
※血管浮腫については過去記事をご参照ください ⇒ 血管浮腫 原因となる薬物
C-1インヒビターは別名C-1インアクチベーターともいい補体系、血液凝固系、線溶系、カリクレイン‐キニン系などの生理活性を調節する働きを持つタンパク質です。
C-1インヒビターによって血管浮腫の原因となるブラジキニンの産生が抑制されているわけですが、先天的にC-1インヒビターが欠損していたり、あるいは活性が低下していると血管浮腫が生じてしまいます。これがHAEです。突発的に局所性の血管性浮腫が生じるのが特徴です。
従来のHAEの治療法にはC-1インヒビター製剤(ベリナート®P静注用・皮下注用)、ブラジキニンB2受容体阻害薬(フィラジル®皮下注シリンジ)、カリクレイン阻害薬(オラデオ®カプセル)、抗カリクレイン抗体(タクザイロ®皮下注シリンジ)がありました。
・アナエブリ®皮下注について
アナエブリ®皮下注は有効成分をガラダシマブといい、これは血液凝固第Ⅻa因子(以下FⅫa)のモノクローナル抗体です。
カリクレインがキニノーゲンをブラジキニンに代謝することは前述しましたが、このカリクレインはプレカリクレインから生成されます。この時に活性化したFⅫaがプレカリクレインからカリクレインへの代謝を促進します。
ガラダシマブはFⅫaのモノクロナール抗体であり、FⅫaの働きを阻害します。
これにより カリクレインの産生阻害 ⇒ ブラジキニンの産生阻害 ⇒ 血管浮腫の抑制 といった形になるわけですね。
・効能効果について
アナエブリ®皮下注の適応は「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」です。
あくまで予防であり、急性発作時は使えません。
・用法及び用量について
用法及び用量は以下のようになっています。
「通常、成人及び12歳以上の小児には、ガラダシマブ(遺伝子組換え)として初回に400mgを皮下投与し、以降は200mgを月 1 回皮下投与する。」
アナエブリ®皮下注は1本につきガラダシマブが200mg含まれています。そのため初回に2本注射することになります。それ以降は1本を月に1回のペースで注射します。
従来のHAEの急性発作の抑制薬はベリナート®P静注用・皮下注用が週2回、オラデオ®カプセルが毎日に服用、タクザイロ®皮下注シリンジが2週間おきの使用です(タクザイロ®皮下注シリンジは症状安定時は4週間おき)。これまでの急性発作抑制薬の中では最も使用間隔が長く、患者への負担も少ないといえます。
・副作用について
添付文書に記載されてるのはアナフィラキシー(頻度不明)、注射部位反応(内出血、紅斑、そう痒感)(5%以上)だけです。
注射剤なら当たり前の副作用ですね。まだ発売されていないので情報が少ないのでしょう。
以上がHAEとアナエブリ®皮下注の説明となります。
HAEは難病であり、なかなか目の当たりにすることはないかもしれません。だからこそ前回の肺高血圧症と同様、いざという時に役立てるよう、まれな疾患についても定期的に紹介していこうと思います。その際は記事で取り上げる治療薬以外のものも紹介し、包括的に理解できる記事にするよう精進します。

にほんブログ村
記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。
コメント