デュピクセントが適応追加を申請 水疱性類天疱瘡に使えるか

免疫系の薬

2025年4月25日にサノフィがデュピクセント®の適応追加を申請しました。この申請が通れば類天疱瘡の治療法として生物学的製剤が初めて用いられることになります。今回の記事ではデュピクセント®と水疱性類天疱瘡について解説します。過去にも紹介したことがありますが、この機会に復習して頂けると幸いです。

・デュピクセント®について
デュピクセント®は成分名をデュピルマブといいヒトIL-4受容体、IL-13受容体のモノクロナール抗体ですIL-4受容体、IL-13受容体にはIL-4Rαという共通のサブユニットがあるのですが、これにデュピルマブが結合することにより、IL-4、IL-13の作用を阻害します。
※デュピクセント®には皮下注シリンジと皮下注ペンがあります。

IL-4、IL-13はヘルパーT細胞によるB細胞の活性化を阻害します。B細胞は形質細胞に分化するので、IL-4、IL-13の作用を阻害することで抗体産生が抑制されることになります。これによりアレルギーの原因となるIgE抗体の産生が抑制されます。

※IL-4はその他に線維芽細胞に作用し皮膚や粘膜の線維化、血管内皮細胞に作用し接着因子を産生します。(好酸球は接着因子により血管内皮細胞に接着し、血管内から遊走する)

作用機序から見て分かるように、アレルギーに対して有効性を持ちます。
現在デュピクセント®皮下注シリンジ・皮下注ペンの効能効果は以下のようになっています。
・アトピー性皮膚炎
・結節性痒疹
・特発性の慢性蕁麻疹
・気管支喘息
・鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎

・水疱性類天疱瘡について
類天疱瘡は皮膚の基底膜に対する自己抗体ができてしまい、これによって皮膚や粘膜に異常をきたす疾患です。人間の皮膚は表皮と真皮の間に基底膜という膜があり、これが表皮と真皮を結合しています。

この基底膜に存在するBP180、BP230といったタンパク質に対して自己抗体(IgG)ができてしまい、この自己抗体がBP180、BP230を攻撃し、基底膜を損傷します。基底膜で炎症ができることにより、表皮下で水疱ができることになります。
※自己抗体ができる原因については不明です

類天疱瘡はいくつかのタイプに分類されます。水疱性類天疱瘡は類天疱瘡のなかの1種です。
・水疱性類天疱瘡
類天疱瘡の中で最も多いタイプです。BP180とBP230に対して自己抗体が生じることで、体中に緊張性水疱(水ぶくれの中でもパンパンに張ったもの)、痒みを伴う浮腫性紅斑、びらんなどが生じます。高齢者に好発します。

・粘膜性類天疱瘡
眼粘膜や口腔粘膜、のど、鼻、陰部、肛門といった粘膜部分にびらんができるものです。びらんは治癒した後も瘢痕を残すことがあります
BP180の他にラミニン332といったタンパク質に対して自己抗体が生じます。

・後天性表皮水疱症
臨床的症状は水疱性類天疱瘡とそっくりです。基底膜の表皮結合部分のⅦ型コラーゲンに対する自己抗体が原因となっているのが、水疱性類天疱瘡と異なるところです。
※抗Ⅶ型コラーゲン抗体の検出で水疱性類天疱瘡と鑑別可
肘や膝など四肢の外力がかかる部分を中心に水疱やびらんを生じます。


ここまででデュピクセント®と水疱性類天疱瘡について理解できたでしょうか?
現在、水疱性類天疱瘡の標準治療はステロイドです。プレドニゾロンの経口投与やクロベタゾールプロピオン酸エステルなどの抗炎症作用の強い外用ステロイドを用います。
その他にも軽症~中等症ではドキシサイクリンやミノサイクリンいったテトラサイクリン系抗生物質とニコチン酸アミドの併用療法が用いられることもあります
テトラサイクリン系抗生物質には皮膚に対する抗炎症作用があり(好中球の遊走の抑制による)、また皮膚の損傷による細菌感染を防止するからですね。
ニコチン酸アミドはビタミンB3であり、皮膚粘膜の修復と正常化の効果があります。詳しい作用機序は不明ですが、肥満細胞の脱顆粒の抑制、好中球の遊走の抑制効果があるとされています。
また重症例では血漿交換療法が用いられます。自己抗体を含有する血漿成分を取り除くわけですね。

デュピクセント®の場合はどうでしょうか?
前述したように、類天疱瘡の原因が皮膚基底膜に存在するタンパク質に対する自己抗体が原因です。デュピルマブがIL-4、IL-13受容体を阻害することにより、結果として抗体産生が抑制されます。そのためデュピクセント®はおそらく有効でしょう。
これの申請が承認されれば従来とは異なる作用機序により類天疱瘡を治療できることになります。

デュピクセント®が有効な可能性が分かったところで副作用について見てみましょう。

・副作用について
最も多いのが注射部位の紅斑であり、重篤なものはアナフィラキシーショックになります。これは注射剤なので当然でしょう。
サノフィ株式会社のHPを参照に見てみると目立ったものは感染症でした。B細胞の分化を阻害するので当然と言えます。2型免疫応答(Th2細胞による免疫応答)は寄生虫感染に対する免疫反応なので、寄生虫に感染した患者は完治するまでデュピクセント皮下注の使用は中止しなくてはなりません。
その他には皮膚障害、眼障害が多いです。免疫抑制反応も上手く働けばアレルギーを抑えるが、予想通りに働かないと皮膚や粘膜に障害を起こすようです。
実際に私の周りでアトピーに使っている人がいます。通院してデュピクセント®皮下注シリンジを使っていますが、注射したらしばらくの期間、必ず結膜炎になるようです。そのためその期間は目薬も処方され使っています。しかし皮膚症状については、全くと言っていいほど痒みがなくなるようです。普段は常に痒みに悩まされていたので、結膜炎が起きても使う価値があると言っていました。


今回の記事で水疱性類天疱瘡とデュピクセント®について復習できたでしょうか?水疱性類天疱瘡に限らずアレルギー性疾患は患者にとってはとても辛い疾患です。特に皮膚症状は見た目が悪くなるだけでなく、耐え難い痒みに悩まされることもあります。生物学的製剤は時にステロイド療法以上の効果を発揮することがあります。今後どんどん生物学的製剤が登場するのを待ち望んでいます。

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