4月から新卒薬剤師がうちの薬局に配属されました。現在は私が中心となり色々教えている段階ですが、まじめで一生懸命な人なので、早く一人前になって働いてもらうのが待ち遠しいです。教えることは沢山ありますが、現在は処方内容に問題ないかをちゃんと確認できることを重点的に訓練しています。過去の記事でも何度か紹介していますが、腎機能による処方内容が正しいかを確認することは薬剤師にとって重要な任務だと思っています。ちょうど公益財団法人 日本医療評価機構の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業にいい例があったので、これを用いて腎機能による薬用量の確認をしたいと思います。
【事例の詳細】
エリキュース錠5mg 1回1錠1日2回を継続服用している、非弁膜症性心房細動の患者の処方箋を応需した。前回来局時から今回までの間に、患者は80歳になっていた。薬剤師が患者に気になる症状がないか確認したところ、紫斑が出現していることを聴取した。さらに、現在の体重は42kgであること、血清クレアチニン値は0.66mg/dLであることを確認した。患者の年齢および体重が、エリキュース錠の減量基準に該当するため、処方医へ疑義照会を行った結果、エリキュース錠2.5mg 1回1錠1日2回に減量になった。
【推定される要因】
主治医は、患者の年齢と体重が変化したことにより、エリキュース錠の減量基準に該当していることに気付かなかった。
【薬局での取り組み】
エリキュース錠が処方されている患者の年齢・体重・腎機能の検査結果を継続的に確認する。
過去に何度か紹介していますが、腎機能を評価する際に有効なものにeGFRとクレアチニンクリアランス(以下CCr)があります。eGFRとCCrについては過去の記事を読み直してもらえればと思います。
参照記事 ⇒ 腎機能の検査値① クレアチニン、eGFR 腎機能の検査値② クレアチニンクリアランス
・腎機能の指標 eGFR、クレアチニンクリアランスの活用
eGFRは患者の年齢、血清クレアチニン値、CCrは年齢、体重、血清クレアチニン値が分かれば計算できます。年齢は処方箋を見ればすぐに分かりますし、体重は患者本人に聞けば分かります。血清クレアチニン値については採血の結果を見せてもらうしかないでしょう。
そのため外来患者では採血や健診を受けた人にはなるべく検査結果を確認するようにしています。そしてその結果は必ず薬歴に残しておくようにします。現在ほとんどの電子薬歴で検査項目を入力する機能があるでしょう。これらの情報をもとにeGFRとCCrを算出します。
新人薬剤師に教えていますが、eGFRやCCrの計算式を暗記する必要など全くありません。年齢、体重、血清クレアチニン値を元に近似的に算出していることが分かれば十分です。実際に算出するには計算サイトを用いましょう。私がよく使ってるサイトを自分の使う薬歴端末にブックマークしておくように言っています。
腎機能の計算サイト ⇒ ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト 腎機能推定計算
※日本腎臓病学会のHPでも計算できますが、身長も入れないと計算してくれないので使い辛いです。
こうして計算したeGFRやCCrは出来ればサマリーなど、薬歴を開いて1番初めに目につく箇所に記載しておきましょう。せっかく記録しても見落としては意味がないです。
そもそもなぜeGFRとCCrの2つを記録しておく必要があるか、それは薬用量の調節はeGFRで行うものと、CCrで行うものが存在するからです。実際にどんなものがあるか見てみましょう。腎機能で調節する薬は沢山ありますが膨大な量になるので、今回は新卒薬剤師に教えている、使用頻度の高い薬を紹介します。
・抗凝固薬
抗凝固薬はCCrによって調節するのがほとんどです。これは基本的な知識として覚えておきましょう。その他にも年齢、併用薬、既往歴で調節することもあるので注意が必要ですね。
・バラシクロビル
腎機能によって用量の調節が必要な代表的な抗ウイルス薬といえるでしょう。適応によって通常量も、調節量も異なるので注意が必要です。
※腎機能による調節は小児では通常あり得ないので、小児薬用量は割愛します
バラシクロビルはCCrによって調節します。
過去に腎機能を割り出し、バラシクロビルを調節した事例があるので参考にして下さい。
参照記事 ⇒ 腎機能低下患者への投薬 わずかな情報から、他の検査値を算出
・レボフロキサシン
抗生剤で最も使用頻度の高いものと言っても過言ではないでしょう。高齢者にも頻繁に使われます。しかしこれも腎機能で調節が必要なので気をつけてください。
・バクタ®配合錠・ミニ配合錠・配合顆粒
最近は膀胱炎で頻用されています(レボフロキサシンの耐性菌の増加に伴う)。通常量も調節量も表現が分かりにくいですが、落ち着いてみれば大丈夫です。
・メトホルミン
eGFRで用量の調節が必要となります。ただし1日最高用量の目安なので、具体的に”1回〇〇mgにする”ではないので注意が必要です。
eGFR<30では禁忌になります。
・ツイミーグ®錠
これまではeGFR<45mL/min/1.73m2の場合は投与が推奨されていませんでした。しかし2025年4月8日に添付文書が改訂され、使用できる範囲が広がりました。
今回紹介した薬は腎機能によって用量の調節が必要な薬のほんの一部です。実際にはもっと沢山あります。ですが少なくとも今回の記事で紹介した薬は確実に覚えておいて欲しいと思います。どの薬局でも使う薬ですからね。なお高齢者はそもそも腎機能が低下しているのが当たり前です。そのため高齢者の腎機能は定期的にチェックしておくのが当たり前にしなくてはなりません。新卒薬剤師を育てるのは自分自身が初心にかえるいいきっかけになります。これを機に薬局全体が若返ればいいと思います。

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