wearing off現象の患者さん オンジェンティス錠の効果

疾病・病態

過去の記事でパーキンソン病でwearing off現象が疑われる患者さんの事例を紹介しました。
⇒ 症例検討 wearing off現象が疑われる事例
この記事を書いた時点ではwearing off現象の可能性が高かったとはいえ、確証は得られなかったので、一旦起床時の服用を朝食後にずらして様子を見ようとなりました。これは起床時に服用したマドパー®配合錠L100が往診の時間帯には効果が切れている可能性があるので、少し遅い朝食後に服用させることによって、往診の時間帯にはマドパー®配合錠L100の効果が残っているかを確認するためのものです。今回の記事でその後どうなったかを紹介して、パーキンソン病治療薬をより詳しく理解できればと思います。


・マドパー®配合錠を起床時⇒朝食後に変えた結果
マドパー®配合錠L100の起床時の分を朝食後にずらした結果、往診時(11時前後)にはぐったりはしているものの、何と受け答えくらいは出来る程度になっていました(それまでは寝ていて受け答えもできない状態)。やはりwearing off現象が起きている可能性が大です。そのため処方内容を変える必要性がでてきたので、カンファレンスの結果、一度専門医に診てもらい意見をもらうことにしました。

専門医を受診してもらった結果、やはりwearing off現象が起きていることのことで、専門医の提案した処方内容は以下の2つうちどちらかと言うことでした。
①オンジェンティス®錠の追加投与
②ハルロピ®テープの追加投与
この2つの薬について解説します。

・オンジェンティス®錠について
有効成分をオピカポンといいCOMT阻害薬です。
wearing off現象はドパミンの再取り込み・再利用がされないため作用時間が短くなっているので、ドパミンを分解する酵素であるCOMT(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ)を阻害することで、ドパミンの分解が抑制され、レボドパ製剤の効き目が長くなります。

COMT阻害薬は他にエンタカポン(コムタン®錠)がありますが、1日1回投与で済むオンジェンティス®錠が圧倒的に使いやすいでしょう。※コムタン®錠は1日1~8回投与

・ハルロピ®テープについて
有効成分をロピニロールといい、ドパミンD2受容体刺激薬です。
パーキンソン病治療薬はレボドパ製剤が基本となります。レボドパ製剤は体内で代謝され活性体のドパミンになり、これがパーキンソン病を改善するからです。これに対してロピニロールは直接ドパミンD2受容体を刺激します。パーキンソン病そのものを治療するだけでなく、wearing off現象の時間短縮効果もあります。1日1回の貼付剤なので、これも使いやすいでしょう。


さてこの2つのどちらを使うかをカンファレンスで検討します。wearing off現象が起きていることを発見した手前、処方提案は私主導で行われることになりました。処方提案は以下のことを重視して行いました。

①効果の得られやすさ
せっかく処方変更をするのですから効果が出ないと意味がありません。オンジェンティス®錠、ハルロピ®テープのどちらもそれなりの効果がありそうなので、ここは比較が難しいです。

②手軽さ
患者に服用させるのは施設の職員の方になります。常日頃から忙しい方たちなので、なるべく負担を減らさなくてはなりません。そのため1日1回投与が望ましいでしょう。オンジェンティス®錠、ハルロピ®テープのどちらも1日1回ですが、手軽さはオンジェンティス®錠に軍配が上がるでしょう。

オンジェンティス®錠は規格は25mgのみです。一方ハルロピ®テープは8mg、16mg、24mg、32mg、40mgと5つの規格があり、症状に応じて増量していくことになります。看護師の方が経過観察を行い、医師に報告しながら増量するのは負担が大きいといえます。

③副作用の起きやすさ、対処のしやすさ
どちらもドパミンの効果増強による副作用が考えられます。最も多いのはドパミンの効きすぎによるジスキネジアでしょう。ジスキネジアとは不随意運動のことをいい、自分の意志と無関係に体の一部が勝手に不規則な動きする現象です。 主に顔に出ることが多く、顔をすぼめたり、口をモグモグさせたり、舌をだしたり、あるいは手足が勝手にくねくね動いたりします
その他の副作用として代表的なものは突発的な睡眠があげられます。
こられの症状が出た時はレボドパ製剤の減量、あるいは本剤の中止を行います。この患者さんの場合は、マドパー®配合錠L100を1日4回服用しているので、1日3回に減らしたり、あるいはオンジェンティス®錠、ハルロピ®テープの中止を行います。副作用発現時の対処の手間はどちらも同じ程度です。

またパーキンソン病では自律神経症状として消化管障害が発生し、経口薬は消化管障害の影響を受ける可能性があります。しかし経皮吸収型のハルロピ®テープは消化管障害の影響は受けません。

どちらも副作用が起きる可能性があり、メリットもデメリットもありますが、総合的に見ればオンジェンティス®錠の方が可能性が少ないのではとの結論になりました。オンジェンティス®錠が作用するのは末梢です。末梢で作用することで中枢に移行するレボドパの量を多くします。一方ハルロピ®テープは中枢に直接作用します。中枢に直接作用する分、ハルロピ®テープの方が副作用が起きやすいかもしれないとの結論になりました。


以上のことから今回のケースではオンジェンティス®錠を追加投与することになりました。
服用するタイミングは就寝前になりました。オンジェンティス®錠はレボドパ製剤の投与前後1時間以上、食事の前後1時間以上空けて服用することとなっています。
理由としてはレボドパ製剤と間隔を空けるのはwearing off現象が起きる時間を短くするためです。レボドパ製剤とずらして服用した方が、レボドパの分解が抑制されている時間が長くなり、結果としてwearing off現象が起きにくくなるわけですね。
また食後の服用は空腹時の服用に比べてCmax、AUCが低下することが知られています。食事により吸収が低下するようですね。

現在この患者さんは朝食後、昼食後、15時、夕食後にマドパー®配合錠L100を服用しています。そのため今回のケースでは就寝前が最も適しているだろうとなりました。

・オンジェンティス®錠服用後の変化
小野薬品の担当者からオンジェンティス®錠を服用して効果が出てくるのは1週間くらいだろうと聞いていました。実際に最初の1週間は効果はあまり見られなかったようです。その間に顔をすぼめたり、舌を出したりといった症状が起きていないか注意してもらうようにしました。
翌週あたりから効果が出てきました。今までは昼頃になるとぐったりしてベッドに横になっていましたが、翌週からは日によって違いはあるものの起きていることが多くなり、調子のいい時は笑顔で職員に手を振ってくれたりといった行動もあったようです。

しかしいいことばかりではありません。今までに比べて便秘が酷くなったようです。酷い時は3~4日ほどでないこともあったようです。実際に添付文書には便秘は5%以上の副作用として記載されています。
レボドパ製剤はドパミンに代謝されますが、ドパミンはアセチルコリンと競合することが知られています。そのためアセチルコリンによる蠕動運動が抑制され、便秘が起きると考えられています

オンジェンティス®錠を続けるかは効果によるメリット、副作用のデメリットを天秤にかけて決める必要があります。便秘の副作用については下剤の量を増やすことで対処することになり、オンジェンティス®錠は続けることになりました。


今回の記事でパーキンソン病およびwearing off現象の復習、オンジェンティス®錠の効果について理解できたでしょうか?これは教科書に書かれているものだけでなく、実際に体験してきたものです。外来業務と異なり、医師、看護師、ケアマネージャーも含めて話し合って処方を決め、実際に患者さんがどうなったかを紹介したものです。パーキンソン病患者に携わっている人がいましたら、是非参考にして治療に役立てて頂けたらと思います。

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