炎症性腸疾患 I know IBDプロジェクト

免疫系の薬

先日友人の薬局で「I know IBD」のステッカーが送られてきたと聞きました。IBD患者さんにトイレを提供していますよと周知させるためのツールです。
※詳しくはアッヴィのHPを参照 ⇒ I know IBDプロジェクト
今回はいい機会なのでIBDについて解説します。IBD患者さんの困りごとなどを知ってもらい、何が出来るか考えて頂けると幸いです。


IBDとは炎症性腸疾患のことであり、腸に炎症を生じる疾患の総称です。細菌感染や薬剤など原因がはっきりしているものを特発性腸疾患といい、原因が不明なものを非特発性腸疾患といいます。しかし狭義のIBDは非特発性腸疾患のことをさし、この記事でもIBDは狭義を用います。
狭義のIBDは主にクローン病と潰瘍性大腸炎のことをいいます。それではクローン病と潰瘍性大腸炎について学んでいきましょう。

クローン病も潰瘍性大腸炎もどちらも消化管に原因不明の慢性的な炎症が生じる疾患です。この慢性的な炎症によって、下痢や腹痛、発熱、体重減少といった症状が生じます。どちらも寛解と再燃を繰り返す傾向にあります。この2つの疾患の違いは炎症のできる部位によります。

クローン病は炎症が口腔から肛門までの消化管全体に生じます(回盲部に好発)。
※炎症はまばらで非連続性です。

炎症は腸管壁全体に及ぶため、穿孔を生じることもあります。また炎症が消化管以外にも広がることもあるため口内炎、関節炎、虹彩炎などの合併症を生じます。

潰瘍性大腸炎は炎症が大腸に局在しています。直腸に好発し、これが口腔側に広がっていき、大腸全体に及ぶことがあります。炎症は連続性です。

炎症の範囲は消化管粘膜に留まるため、穿孔を生じるのは稀です。大腸(特に直腸)の粘膜に炎症が生じるため、粘液が便に付着して出てくる粘血便が多いのが特徴です。(クローン病では少なめ)
また炎症の急激な悪化で大腸の動きが停止し、大腸内部にガスや毒素が溜まり、大きく膨らんでしまう中毒性巨大結腸症を生じることがあります。

2つをまとめると以下のような感じですね。

この2つの疾患で共通する症状に下痢があります。消化管の慢性的な炎症により消化不良が起きるので当然ですね。アッヴィのホームページを見ると分かりますが、かなりの患者さんが外出先のトイレの場所を気にしているようですね。
薬局も社会貢献の一環としてIBD患者さんにトイレを提供し、そしてその旨を周知してもらい、安心して外出できるようになってもらいたいです。うちの会社でも採用して欲しいですね。


最後にこのブログは薬剤師や薬学生、その他医療従事者向けの内容なので、IBDの薬物治療について紹介しておきます。いずれも消化管の炎症を抑制することを目的としています。

・5-ASA製剤
中心となるのが5-アミノサリチル酸(以下5-ASA、メサラジンともいう)製剤です。いずれも軽症~中等症に用います。5-ASAは活性酸素の除去作用と、リポキシゲナーゼ阻害によるロイコトリエンB4産生抑制作用があります。

ペンタサ®(錠剤、顆粒)は5-ASAをエチルセルロースフィルムでコーティングし、小腸から大腸にかけて徐々に放出されるように設計されています。その他にも坐剤や腸注液があります。
いずれの剤形も潰瘍性大腸炎に有効ですが、クローン病に有効なのは錠剤だけです。

同様の5-ASA製剤のアサコール®錠、リアルダ®錠はpH依存的に5-ASAを放出します(pH7以上のアルカリ下でフィルムが崩壊)。そのため大腸でしか5-ASAが放出されないので、適応は潰瘍性大腸炎のみです。

サラゾスルファピリジンも5-ASA製剤です。
サラゾスルファピリジン(サラゾピリン®錠、坐剤)は5-ASAとスルファピリジンが結合したプロドラックで、腸内細菌によって5-ASAとスルファピリジンに分解され、5-ASAが効果をしめします。
クローン病、潰瘍性大腸炎の両方に有効です。
※なおサラゾスルファピリジン製剤のアザルフィジンEN錠は関節リウマチに用います。関節リウマチにはサラゾスルファピリジンそのものが炎症性サイトカインの産生抑制作用、破骨細胞の産生抑制作用をしめすことによって効果を発揮します。

・ステロイド剤
消化管の炎症を抑制するのにはステロイドも有効です。プレドニゾロン、ベタメタゾンが用いられます。錠剤、散、注射はクローン病、潰瘍性大腸炎の両方に有効です。坐剤(リンデロン®坐剤)は潰瘍性大腸炎のみです。
※これらの添付文書の適応には限局性腸炎、潰瘍性大腸炎と書かれています。限局性腸炎とはクローン病のことです。
いずれも中等症~重症の寛解導入に用います。

・免疫抑制剤
ステロイドを用いてIBDの治療をして症状が寛解しても、減量すると再燃する場合があります。これをステロイド依存性といいます。ステロイドは長期使用で多くの副作用が生じるので、なるべく減量しなくてはなりません。その際に免疫抑制剤を用いることで、ステロイド依存性IBDの再燃を防ぎ、寛解導入、寛解維持が可能となります。
添付文書上の適応は「ステロイド依存性のクローン病の寛解導入及び寛解維持並びにステロイド依存性の潰瘍性大腸炎の寛解維持」です。
アザチオプリン(アザニン®、イムラン®)、タクロリムス(プログラフ®)が用いられます。
アザチオプリンはクローン病、潰瘍性大腸炎の両方に有効ですが、タクロリムスは潰瘍性大腸炎のみです。

・抗TNF-α抗体製剤
IBDでは腸管粘膜で炎症が生じているのは前述した通りですが、この炎症を生じるカスケードではTNFαが重要な役割を果たしています。マクロファージがTNFαを放出し、このTNFαが好中球を活性化し、さらに好中球が活性酸素を産生します。

このTNFαを抑制できれば炎症反応を抑えられるわけですね。
抗TNFα製剤にはインフリキシマブ(レミケード®)、アダリブマブ(ヒュミラ®)、ゴリムマブ(シンポニー®)があります。いずれも中等症~重症に用います。
ゴリムマブは潰瘍性大腸炎のみですが、インフリキシマブ、アダリブマブはクローン病、潰瘍性大腸炎の両方に有効です。
※いずれも関節リウマチにも有効です。インフリキシマブ、アダリブマブは乾癬にも有効。

使用方法がそれぞれ異なります。
レミゲート®は8週間おきに病院で点滴、ヒュミラ®は2週間おきに自己注射、シンポニー®は4週間おきに病院で皮下注射です。この辺はその人のライフスタイルに合わせて選ぶとよいでしょう。


IBDの病態とその治療薬については分かりましたでしょうか?
IBDは難病ですが、その患者数は非常に多いです。私も現在の勤務している薬局と、過去に勤務したいずれの薬局でも潰瘍性大腸炎の患者がいました。それだけ多くの人が日常生活を送るうえで何らかの困り事があります。薬局も出来る限りの協力はしていきましょう。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村

記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。

301 Moved Permanently

サブブログもよろしくお願いします。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました