現在アメリカやヨーロッパで原因不明の子供の急性肝炎の報告が相次いでいます(最多はイギリスの114例)。そして4月25日についに日本でも同様の症例が1例発見されました。現在までに確認されている169例中、74例でアデノウイルスが検出されています。日本での症例では検出されなかったようですが、小児に発症していること、半数近くの症例でアデノウイルスが検出されていることから、アデノウイルスによる可能性は否定しきれないかもしれません。
※現在肝炎ウイルスはA型、B型、C型、D型、E型の5種類が確認されていますが、今回の原因不明の肝炎では、このどのウイルスも検出されていないようです。
そのため今回の記事ではアデノウイルスについて知ってもらい、感染対策も知ってもらえればと思います。
アデノウイルスは多くの型をもつ2本鎖DNAウイルスです。
感染部位は眼、咽頭、腸管などがあり、感染部位によって様々な疾患を生じます。アデノウイルスの血清型は51ありますが、疾患によって原因となる型が異なります。(52以降は全塩基配列をもとにした遺伝型として報告されています)
主な疾患を見ていきましょう。
・呼吸器感染症
いわゆる風邪であり、咽頭炎、扁桃炎、咳、鼻水、発熱、結膜炎などの症状を起こします。咽頭炎の症状が最も強く出て、頻度も多い傾向があります。
主に3型、7型、21型が原因となりますが、7型の場合は肺炎を起こし重症化しやすいです。
・咽頭結膜炎熱
プール熱ともいい、プールの水を介して感染することが多いですが、正確には眼から出た分泌物を介して感染が広がります。39℃以上の急な発熱、咽頭炎、結膜炎が顕著にでます。目ヤニが出るため、眼をこすってしまい、その手が感染が広がる原因となります。
学校保健安全法上における学校感染症の一つであり、主要な症状がなくなった後も2日間登校禁止となります。
主な原因になるのは3型です。
・流行性角結膜炎(EKC)
はやり目ともいい、著しい結膜の充血、大量の目ヤニがでます。耳の前下部のリンパ節の炎症による熱も出ますが、咽頭結膜炎熱ほど強くありません。角膜に傷がつくと角膜混濁(黒目の濁り)になったり、瞼の裏に偽膜ができることがあります。
※偽膜 炎症性の白い膜のことです。分泌物に線維素が多い場合にできます。
伝染力が非常に強く、学校保健安全法上における学校感染症の一つであり、伝染の恐れがなくなるまで登校禁止となります。
主な原因になるのは8型、19型、37型です。
・胃腸炎
乳幼児期に多く、腹痛、下痢、嘔吐といった症状を起こします。発熱も起きますが、そこまで高熱にはなりません。下痢が長期間続き、ウイルスの排出期間が長いのが特徴です。そのため周囲へ感染する恐れのある期間が長くなります(便から飛散したウイルスを吸い込むことで感染します)。
主な原因になるのは31型、40型、41型です。
・出血性膀胱炎
出血を伴う膀胱炎のことであり、血尿の他に排尿痛、残尿感、頻尿、尿意切迫感などの症状があります。通常の膀胱炎は細菌感染によるものが多いですが、出血性膀胱炎はウイルスや薬剤、放射線が原因となることが多いです。血尿以外の症状は2~3日程度でおさまりますが、血尿は10日程度続きます。
主な原因になるのは11型、21型です。
さてここまでアデノウイルスによる主な疾患を紹介しました。
アデノウイルスは今回の記事の冒頭で紹介した肝炎の原因になりうるのでしょうか?国立感染症研究所の報告では
「現時点(2022年4月25日時点)でアデノウイルスのサーベイランスシステムからは異常な傾向は認められない。肝炎全体の中でのアデノウイルスの位置付けは、肝炎をもともと起こしうる病原体であるが、その大半は免疫不全患者で健常児では稀である。ただし肝炎の原因ウイルスとして必ずしも探索されていないため、その実際の頻度は不明である。」
としています。国立感染症研究所の2021年4月20日の「アデノウイルス肝炎について」では
「肝炎はアデノウイルス感染症の中では比較的稀な疾患であるが、臓器移植や抗がん剤治療を受ける患者、免疫不全疾患、 HIV感染症など免疫能低下が著しい患者で発症し, しばしば重篤化し致命的になる」
と記載しています。稀ではあるが、免疫力の落ちた状態ではアデノウイルスが肝炎の原因になりうるということでしょう。
さてここまでアデノウイルスについて見てみました。ここからはアデノウイルス感染症のための対策を見ていきましょう。
まず薬物治療についてですが、アデノウイルスに有効な抗ウイルス薬は存在しません。前述した疾患の治療は対症療法となります。その他にも咽頭結膜炎熱、流行性角結膜炎では細菌による2次感染を防ぐために抗生物質の点眼液、角膜混濁や偽膜が生じている時にはステロイドの点眼液を用いたりします。
そうなるとアデノウイルスによる感染症を防ぐには、感染する前にアデノウイルスを殺菌することが必要となります。アデノウイルスは感染力が強いですが、その感染経路は接触感染と飛沫感染です(空気感染はしません)。そのためコロナウイルスのように、対策すればある程度感染が防げるでしょう。
ウイルスの殺菌というとアルコールを思い浮かべますが、残念ながらアデノウイルスにアルコールは効きません。アデノウイルスはノンエンベロープウイルスだからです。ノンエンベロープウイルスはアルコールに対して抵抗性を示すため、効果が期待できません。そのためアデノウイルスなどのノンエンベロープウイルスを殺菌するには次亜塩素酸ナトリウムが必要になります。
次亜塩素酸ナトリウムはドアノブやテーブルなど手に触れる場所は0.02%、嘔吐物や糞便の処理には0.1%に希釈して用います。
身の回りの塩素系商品を用いた希釈液の作り方は、分かりやすい表が高松市のHPで紹介されていましたので共有します ⇒ 高松市HPより 消毒液の作り方
咽頭結膜炎熱、流行性角結膜炎ではタオルを介した感染経路が多いです。そのためタオルの共用はせず、感染者の利用したタオルは次亜塩素酸ナトリウムでつけ洗いするのが良いでしょう。(この場合は0.1%でよいと思います)
胃腸炎になった場合は、アデノウイルスはウイルス排出期間が長いので、同居する家族への感染対策で最も重要なのはトイレでしょう。感染者が利用したトイレは、希釈の必要が無い医療施設用泡洗浄ハイターやジアフォームクリーナー1000といった商品で除菌してから使うようにしましょう。
詳しくは過去記事を確認して下さい ⇒ 感染性腸炎 家庭内感染を防ぐために
次亜塩素酸ナトリウムは皮膚や粘膜にダメージを与えるので人体には使えません。そのため手指の殺菌にはアルコールを使いたいところですが、前述したように一般的なアルコールはノンエンベロープウイルスには効果が期待できません。しかしノロパンチや手ピカジェルプラスなどの酸性アルコールならそこそこの効果が期待できます。
詳しくは過去記事を確認して下さい ⇒ アルコール除菌、使うなら酸性でしょ
そしてどの疾患にたいしても最も有効なのは手洗いでしょう。石鹸は皮膚についたものを泡で包んで、浮かせて流すので、ウイルスでも細菌でも原虫でも何でも洗い流せます。最も単純にして最も有効な感染対策です。今回の原因不明の肝炎がアデノウイルスによるものかは不明ですが、ウイルスの特徴を正しく知れば感染リスクを大きく下げることが出来ます。色々学んで身の回りの危険から自身を守っていきましょう。
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