今日うちにおかかりの癌患者さんが「病院で前立腺の数値が高いと言われた」と言ってきました。いつも検査値を見せてくれるので確認したところ、PSAが3.46と少し高めでした。医師からは「もしもっと高くなったら何とかしてあげるから」と言われたそうです。今回はPSAの説明と、今回の患者さんの状態はどのような状態かを説明したいと思います。
PSAとはProstate-Specific Antigenの略であり、前立腺特異抗原のことです。ヒト前立腺組織に存在し、精液中に分泌されます。正常な状態でPSAが血液中に漏出することは稀ですが、前立腺組織が壊れると血液中に漏出するため血中濃度が高くなります。
この前立腺組織が壊れやすくなる疾患には ・前立腺癌 ・前立腺肥大症 ・前立腺炎 などがあります。つまりPSAが高くなるとこれらの疾患の可能性があるということです。PSAの基準値は以下のようになります。
PSAの正常値:4.0ng/mL以下
ただし年齢によって以下のような基準にすることもあります。
50~64歳:3.0ng/mL以下
65~69歳:3.5ng/mL以下
70歳以上 :4.0ng/mL以下
一般的にPSAが10ng/mLを超えると前立腺癌の可能性が高いと言われていますが、PSAが高い=前立腺癌とは言えません。なぜなら前立腺肥大症や前立腺炎などでも前立腺組織が壊れ、PSAが血中に漏出し、前立腺癌と同程度の数値を示すこともあるからです。そのためPSAだけではこれらの疾患の鑑別診断はできません。
またPSAは絶対的な数値より相対的な数値の方が重要とされています。
・年齢と比較してどの程度か
・前回検査時と比べてどの程度上がったか
・もともとの前立腺の大きさに比べて数値はどうか
などです。これらの情報を総合的に判断して前立腺癌の検査をするかを判断します。
ここで前立腺癌の検査方法を見ておきましょう。
・直腸内触診
肛門から指を入れ、前立腺の大きさや硬さを確認します。肥大していたり硬かったりすると癌の可能性が高いです。
・超音波検査
肛門から超音波探子を直腸に挿入し、前立腺の内部を画像で確認します。
・MRI検査
前立腺の断面を撮影します。癌かどうかだけでなく、場所や大きさ、悪性度などもある程度分かります。前立腺肥大症かどうかの診断にも有効です。
・前立腺針生検
前立腺癌の確定診断です。肛門から前立腺に向けて針を刺して、前立腺組織を採取します(複数個所から採取します)。直腸に超音波探子を挿入し、前立腺の画像を見ながら行います。採取した前立腺組織を顕微鏡で見て癌細胞があるか確認します。
さて今回の患者さんの事例を見てみましょう。
この患者さんは71歳、大腸癌で3週間おきに受診しており、毎回血液検査をしています。MRIによる診断は3ヶ月に1回行っており、先月もMRIを撮ったばかりです。
MRIは癌の大きさの確認と、転移が無いかを確認しています。MRIで癌の肥大や転移が確認できないこと、70歳でPSAが3.46ということから前立腺癌の可能性は低いでしょう。特に別の検査も進められておらず、経過観察です。年齢からしても前立腺が肥大してきている可能性があります。
患者さんにはPSAの意味、そして可能性が無いとは言えないが、現時点では前立腺癌の可能性は低いであろうこと、そして前立腺肥大症の可能性もあるので、
・尿の勢いが弱い
・尿のキレが悪い
・尿を出す時に力まなくてはならない
・残尿感がある
・頻尿になった
などの症状があれば医師に必ず伝えるように言いました。前立腺肥大症でも前立腺癌でも早期発見には患者の協力が必要です。今回のように血液検査で異常が見られたら、可能性のある疾患の所見がないか注意するよう促すのがよいでしょう。
今後も受診の度に血液検査をするので、その後の経過を見守りたいと思います。
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