先日父の血液検査の結果を見せてもらいました。年齢によるものもありますが、それ以前に毎日のように飲酒をしていたせいか、肝臓の数値が思った以上に悪かったです。その中でもPIVKA-Ⅱの数値が基準を大きく上回っていました。肝臓癌の可能性もあり、今後は超音波検査やCTが控えています。肝臓癌の可能性は高いですが、それ以外の原因でもPIVKA-Ⅱは高くなることがあります。今回の記事でPIVKA-Ⅱとは何か、どのようなケースで基準を上回る高値になるのかを紹介したいと思います。
まず血液凝固因子について見てみましょう。
血液凝固因子は肝臓で合成させ、以下のような経路により、最終的にフィブリンにより血液凝固が起きます。
血液凝固因子は第Ⅰ~ⅩⅢ因子までありますが(第Ⅵ因子は欠番)、このうちⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子はビタミンKによりカルボキシ化され、凝固活性をもつようになります。活性化された血液凝固因子にはaをつけて表記します。
このビタミンKが不足するとⅡ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子が活性化されなくなり、凝固活性をもたない前駆体が血液中に流出することになります。
このような凝固活性をもたない異常血液凝固因子をPIVKAといい、第Ⅱ因子のPIVKAをPIVKA-Ⅱといいます。
ビタミンKが不足するとPIVKAが出現することになりますが、この他にも肝細胞に異常があると正常な血液凝固因子が産生できずにPIVKAが出現することになります。肝臓癌では多くの肝細胞が異常をきたしており、血液凝固因子の活性が行われずPIVKAが出現します。特にPIVKA-Ⅱが肝臓癌において高率で増加することから、肝臓癌の腫瘍マーカーとして用いられることになりました。なおPIVKA-Ⅱの正常値は40mAU/mL未満とされています。
ここまででPIVKA-Ⅱについて理解できたでしょうか?
このPIVKA-Ⅱですが、高値になると必ず肝臓癌というわけではありません。肝臓癌以外にもPIVKA-Ⅱが高値になることがあります。それらの原因を見てみましょう。
・ワルファリンの服用
ワルファリンはビタミンKと似た構造をしているため、ビタミンKを競合的に阻害します。そのため第Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ因子の活性化を阻害します。これにより抗凝固能をしめし、血栓塞栓症に効能を発揮します。ビタミンKを阻害するので当然PIVKA-Ⅱが増加するわけですね。
・肝硬変、慢性肝疾患、アルコール性肝障害など
肝臓癌以外にも肝細胞に障害をあたえるような疾患では、凝固因子の活性化が正常に行われずPIVKAが増加することがあります。
肝臓癌の腫瘍マーカーにはPIVKA-Ⅱの他にAFPがあります。肝臓癌に関する特異度はAFPが約60%なのに対し、PIVKA-Ⅱは95%以上と非常に高くなっています。そのため肝硬変など肝臓癌以外の肝疾患ではPIVKA-Ⅱが増加することは稀です。しかしぞれでも肝細胞に障害が起きるこれらの疾患でPIVKA-Ⅱが上昇するケースは存在します。
・胆汁うっ滞
ビタミンKは脂溶性ビタミンなので、吸収するには胆汁に含まれる胆汁酸によるミセル化が必須となります。そのため胆汁うっ滞は脂溶性ビタミンK欠乏症の原因となります。胆汁うっ滞⇒ビタミンKの吸収抑制⇒PIVKA-Ⅱが増加 となるわけですね。
・抗生剤の投与
ビタミンKは腸内細菌によって産生されます。そのため腸内細菌を殺菌してしまう抗生剤の投与によりビタミンKが不足し、結果的にPIVKAが増加することがあります。特にセフェム系抗生物質ではPIVKA-Ⅱが上昇する事例が確認されています。
セフェム系の中でもN-メチルチオテトラゾール基(NMTT基)を持つものは、ビタミンK還元サイクルに必要なビタミンKエポキシドレダクターゼを阻害するので、腸内細菌の殺菌だけでなく、ビタミンKの阻害によりPIVKA-Ⅱが上昇しやすいとされています。
※NMTT基をもつセフェム系抗生物質にはセフメタゾール、セフメノキシム、ラタモキセフなどがあります。いずれも注射剤ですね。
今回の記事でPIVKA-Ⅱとは何か、高値になる原因については分かってでしょうか?
PIVKA-Ⅱが高いという事は肝臓癌である可能性が高いと言わざるをえません。しかし絶対ではなく、他の原因もあります。肝臓癌の原因の約80%はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスです。父は肝炎ウイルスに罹患したことはありませんが、アルコールが原因の肝硬変で肝臓癌に移行することもあります。結果はまだ出ていませんが、癌ではないことを祈りつつ、もし癌だったとしたら何をしてあげるべきかなどを今のうちに考えておこうと思います。
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