尿タンパク

臨床検査値

前回の記事でアバスチン®の副作用で尿タンパクが生じた例を紹介しました。尿タンパクが陽性=腎臓に問題あり と思っている人は多いです。間違っているわけではないのですが、もう少し詳しく知っておいた方がより体の状態を理解できると思います。
今回はこの尿タンパクについて少し詳しく書いてみようと思います。

血液中のタンパク質(アルブミンなど)は毛細血管の内皮細胞、糸球体の基底膜・上皮細胞により尿中にろ過されないので、通常尿中にタンパク質が出ることはほとんどありません。ごくわずかに濾過されたタンパク質もほとんどが再吸収されます。
しかしこれらのバリア能が何らかの障害を受けたり、腎機能の低下で再吸収がなされない時に、血中タンパク質が尿中にろ過されることがあります。これが尿タンパクが生じるメカニズムです。
尿タンパクが生じるメカニズムは一緒ですが、様々な原因があります。代表的なものをいくつか紹介します。

激しい運動・高熱
一時的に腎機能が低下し、尿中にタンパク質が漏出することがあります。そのため熱がある時に尿検査を受けるのは望ましくありません。

起立性尿タンパク症
生理的タンパク症ともいいます。立ち上がった時に腎静脈が圧迫され、うっ血が生じます。糸球体から血液が流れ出る腎静脈がうっ血したことにより、糸球体で血中タンパク質が尿中に押し出される形になります。学童期に多いですが、腎機能に特に異常はないため治療は必要なく、大人になるとなくなります。

糖尿病性腎症
高血糖が続くことにより、腎血管が損傷します。その結果、血中タンパク質が尿中に漏れ、尿タンパクを生じます。糖尿病性腎症は透析になる原因の1位と言われています。初期の段階は少量の尿タンパクを認める程度ですが、進行すると大量の尿タンパクが生じます。

IgA腎症
糸球体のメサンギウム領域にIgAが沈着します。大量のIgAが沈着した結果、炎症を起こし、糸球体のバリア能を低下させます。尿タンパクだけでなく、血尿も生じます。風邪や胃腸炎などの感染性疾患を患った時は、コーラ色の肉眼的血尿が出ます。

ループス腎炎
全身性エリテマトーデス(SLE)により生じる糸球体の炎症です。
SLEは自己抗体が産生され、これが免疫複合体を形成し、全身の様々な組織に沈着します。この時に糸球体に沈着して生じるのがループス腎炎です。沈着した免疫複合体が炎症性サイトカイン等を放出し、組織障害を起こします。その結果、尿タンパクだけでなく血尿も認められます。

溶連菌感染後急性糸球体腎炎
溶連菌に感染した際に溶連菌由来の抗原が血中に放出され、この抗原が抗原抗体反応で免疫複合体を形成し、糸球体(特にメサンギウム領域)に沈着します。(Ⅲ型アレルギーと同様です) この免疫複合体が補体の活性化を起こし糸球体に障害を生じます。 尿タンパクだけでなく、血尿、浮腫、高血圧が急激に生じます。(血尿は肉眼的血尿が半数です) 治療法はなく、小児では90%以上、成人でも約80%が完治しますが、まれに慢性腎炎や腎不全に移行するケースもあります。

ネフローゼ症候群
特定の病気ではなく、糸球体のバリア能の障害により大量のタンパク質が尿中に排出され、その結果浮腫が起きる疾患の総称です。
大量の血中タンパク質の損失により血管内の浸透圧の低下
   ⇒ 血管内の水分が血管外に漏出し浮腫を生じる
血管内水分の減少により、循環血液量が低下 ⇒ 乏尿
損失したタンパク質(アルブミン)を補うため、タンパク合成が促進
   ⇒ コレステロールの産生も一緒に促進し、高コレステロール血症  

尿タンパクの基準値について見てみましょう。
尿定性試験紙では、尿タンパクは分子量が小さく尿中に漏出しやすいアルブミンを測定します。
尿タンパク濃度によって(-)~(4+)までの判定結果が出ます。

(-):15㎎/dL未満 (±):15~29㎎/dL (+):30~99㎎/dL
(2+):100~299㎎/dL (3+):300~999㎎/dL (4+):1000㎎/dL以上  

-、±は正常とされ、+~4+は異常値とされます。 2+以上になったり、+が続くようなら受診が必要となります。 尿タンパクの量が同じでも、尿量によって濃度が異なります。特に随時尿では濃縮の程度が一般的ではないので、随時尿での基準値は定められていません。そのため随時尿の検査は外来でのスクリーニング検査として用いられます。

早朝尿:早朝の起床直後の尿。    
    濃縮されているため成分が検出されやすく、検査に用いられます。
随時尿(新鮮尿):早朝尿以外の任意の時間帯の尿です。

随時尿では正確な情報は取れませんが、尿中クレアチニン濃度を用いて1日の尿タンパクの量を推定することが可能です。これクレアチニン補正といいます。 尿中に排出されるクレアチニンは筋肉量によって決まるため、単位時間当たりの排出量が安定しています。随時尿での尿タンパク濃度と尿中クレアチニン濃度の比を求めることにより、尿の量・濃度の補正をし、1日当たりの尿タンパクを推定できます。  

尿タンパク/尿クレアチニン=0.15未満が正常値

尿タンパクだけでは疾患を発見したり、確定診断をすることはできませんが、その他の検査値や症状と合わせてスクリーニングすることは可能です。また既に何らかの疾患を患っている人では、疾患の悪化や薬の副作用などを疑うことも可能です。検査値1つでも多くの事が予想できますので、検査値はその意味を1つ1つ理解していきましょう。  
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