甲状腺に関する検査値 疾患別に確認

臨床検査値

最近は門前医院で健康診断を受ける人が多く、患者さんに検査値を見せらせることが多くなりました。過去に何度も検査値に関する記事をあげていますが、先日珍しく甲状腺ホルモンの数値を見せられることがありました。この患者さんは普段からチラーヂンS錠を服用しているので、甲状腺ホルモンの数値を確認しておく必要があったわけですね。薬剤師ならFT4は当然理解していると思いますが、たまにTSHは理解していない人もいました。今回の記事では甲状腺ホルモンに関する検査値を甲状腺疾患別に解説します。数値が高くなる理由、低くなる理由も含めて理解してもらえればと思います。


まず甲状腺ホルモンが分泌される仕組みを確認しておきましょう。
甲状腺ホルモンはその名の通り甲状腺から分泌されますが、それには視床下部からTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、TRHの刺激を受けた下垂体前葉がTSH(甲状腺刺激ホルモン)を放出します。TSHは甲状腺を刺激し、甲状腺ホルモンが分泌されます。

分泌された甲状腺ホルモンは視床下部、下垂体前葉にnegative feedbackをかけ、TRH、TSHの分泌を抑制します。

甲状腺ホルモンはチロキシン(T4トリヨードチロニン(T3がありますが、多く分泌されるのはT4です。T4は末梢組織でT3に代謝されます。T4は生理活性が弱く、T3は生理活性が強くなっています。

なおT4、T3ともにほとんどがTBGやアルブミンといったタンパク質と結合しており、タンパク結合したものは生理活性をもちません。タンパク結合していない遊離型のみ生理活性をもち、遊離型のT4、T3をFT4、FT3と表します。

ここまでで甲状腺ホルモンについては分かりましたでしょうか?
それでは甲状腺疾患におけるこれらの数値についてみてみましょう。

・甲状腺機能亢進症の場合
甲状腺機能亢進症は甲状腺ホルモンの過剰な分泌です。代表的なものにバセドウ病があります。これはTSH受容体に対する自己抗体が産生されることで、TSH受容体を刺激し続け、T4、T3が過剰に分泌されることによります。
そのためT4、T3が多くなり、これによるnegative feedbackによりTSHは低値を示します。なおT4、T3はいずれも遊離型を測定します。タンパク結合型は生理活性をもたないからですね。

なおこれらの基準値は以下のようになります。
FT4:0.8~1.6(ng/dL)
FT3:2.2~4.0(pg/mL)
TSH:0.3~5.0(μIU/mL)


バセドウ病以外の甲状腺機能亢進症に亜急性甲状腺炎があります。
これはウイルスにより甲状腺が破壊されるために生じるものです。甲状腺が破壊される影響で、一時的にT4が甲状腺から血中に流入し、高値を示します。その結果T4によるnegative feedbackでTSHは低値を示します。

T4は一時的に上昇しますがその後は低下し、TSHは上昇します。この時に甲状腺機能低下症を生じることもあります。


・甲状腺機能低下症の場合
先天的な甲状腺機能低下症をクレチン病といいます。甲状腺そのものが無かったり、あるいは非常に小さかったりして、甲状腺ホルモンが十分に作られない状態です。
(成人になって甲状腺ホルモンが極端に低下し、症状が進行しているものを粘液水腫といいます)
そのためFT4、FT3の分泌が低下します。その結果FT4、FT3によるnegative feedbackも抑制され、TSHは高値を示します。

後天的な甲状腺機能低下症で代表的なものは橋本病です。これは甲状腺に対する自己抗体が作られることにより、甲状腺が慢性的な炎症を生じ、徐々に甲状腺が破壊されていくものです。
FT4、FT3、TSHなどはクレチン病や粘液水腫と同様になります。


・ヨウ素を過剰摂取した場合
チロキシン、トリヨードチロニンの構造式を見れば分かりますが、甲状腺ホルモンはヨウ素を含んでいます。このヨウ素を過剰に摂取すると甲状腺疾患を生じることがあります。
ヨウ素はイソジンなどのヨウ素性うがい薬や海藻類(特に昆布)に多く含まれています。これらを過剰に摂取すると甲状腺内でのヨウ素の有機化が阻害され、甲状腺ホルモンの合成が阻害されます。
通常であればヨウ素の過剰摂取で甲状腺機能低下症になることはないですが、甲状腺の切除をしていたり、慢性甲状腺炎(橋本病)を生じている場合は、甲状腺機能低下症を生じることがあります。この場合はFT4、FT3は低下し、TSHは上昇しますね。
※ただしヨウ素の過剰摂取をやめれば元に戻ります。
 

以上で疾患別の甲状腺ホルモンに関する検査値がどうなるかは分かりましたでしょうか?
患者さんから健診結果におけるFT4やTSHについて聞かれることは滅多にないでしょう。しかし橋本病やバセドウ病の診断を初めて受ける人はこれらの数値を診察で指摘されます。その際にこれらが何を意味するか理解できていない人がほとんどです。患者さんに聞かれた時になるべく分かりやすく説明できるためにも、薬剤師もこれらの検査値が何を意味するか、どうして高くなったり低くなったりするか十分理解しておきましょう。

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