私事ですが、月曜から酷い下痢に襲われ苦しんでいました💦下痢と腹痛以外の症状はなかったのですが、水様性の下痢が1日中幾度となく襲ってきて、結構辛い思いをしました。翌日には治ったので病院には行きませんでしたが、どうみても感染性腸炎でしょう。日曜に刺身を食べたのでこれが原因かもしれません。今回は感染性腸炎についておさらいしておきたいと思います。
感染性腸炎は細菌、ウイルス、原虫などが原因となって小腸か大腸、あるいはその両方の腸管に炎症を起こすものです。症状は原因菌、重症度などによって様々ですが、下痢、嘔吐、腹痛、発熱などがあり、場合によっては血便や痙攣を起こすこともあります。
原因について少し詳しく見てみましょう。
夏場に多いのは圧倒的に細菌性ですね。腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、大腸菌、カンピロバクターなどがあります。(細菌性腸炎の原因菌として最も多いのはカンピロバクターのようです)
感染性腸炎を防ぐために最も重要なのは、食物の過熱により原因菌を殺菌することです。細菌の多くは熱で殺菌できるので当然ですが、実はこれは万能ではありません。
細菌性腸炎の原因菌には毒素を産生するものがあります。
食物内で毒素を産生するものとして黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌などがあり、生体内で毒素を産生するものには腸管出血性大腸菌(O157)、ウェルシュ菌などがあります。一方 腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、カンピロバクター は生体内で増殖することで感染症を起こしますが、毒素は産生しません。
加熱処理によって殺菌するのは最も基本ですが、これで完全に防ぐことはできないことは知っておいた方がいいです。
黄色ブドウ球菌の毒素(エンテロトキシン)は熱に対して耐性を持っています(黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いです)。食物中に毒素が入ってしまうと失活させるのは困難です(100℃30分加熱でも失活しない)。そのため黄色ブドウ球菌が食物に入るのを防ぐのが最優先になります。手指の化膿創や髪の毛からの汚染が多いので気を付けましょう。
ウェルシュ菌の作り出す毒素は熱に弱いですが、ウェルシュ菌自身は芽胞を形成するので耐熱性を持ちます。そしてウェルシュ菌は生体内で毒素を作り感染するので、食品中のウェルシュ菌を殺菌しきれないと、生き残って腸管内に侵入した菌によって感染性腸炎が引き起こすことがあります。
ボツリヌス菌は産生する毒素も熱に弱いですが、ボツリヌス菌自体は芽胞を形成するので耐熱性です。しかしボツリヌス菌は食品内で毒素を産生するので、食品を十分に加熱すればある程度は防げるでしょう。
冬場はウイルス性の感染性腸炎が多いですね。
代表的なものにノロウイルスがありますが、他にもロタウイルスなどがあります。
どちらも極めて感染力が強く、接触感染(ウイルスの付着した手から口に感染)、経口感染(ウイルスに汚染された食べ物の摂取で感染)、飛沫感染(空気中に飛散したウイルスを吸い込んで感染)のいずれでも感染します。
どちらも下痢、嘔吐が主な症状ですが、ノロウイルスは嘔吐、ロタウイルスは下痢がやや強めな傾向にあります。ノロウイルスは発熱しても37℃台で済むことが多いですが、ロタウイルスは39℃を超えることもあり、さらには痙攣を併発し、合併症を引き起こすこともあります。
ロタウイルスは乳幼児に多く、ほとんどの子が感染するとされています。何度か感染するとある程度抗体ができるので、大人の感染症では症状が出ないことが多いです。
なおロタウイルスは予防接種が任意で出来ます。
原虫によるものは主にクリプトスポリジウムとランブル鞭毛虫です。
どちらも小腸に感染し、水様性下痢を引き起こします。その他には赤痢アメーバがあり、これは大腸に感染し、粘血便や発熱を引き起こします。肝膿瘍(肝臓に膿が溜まった状態)や脳、肺に膿瘍を形成したりすることもあるので注意が必要です。
感染性腸炎の原因と特徴についてザっと書いてみました。
次に治療について説明します。基本的にはほとんどが対症療法になり、脱水に気を付けつつ、下痢や嘔吐によって原因菌が体外に排泄されるのを待つのですが、このブログはあくまで薬剤師の視点で書いているので、薬物療法についてふれておきます。
細菌性腸炎の治療ではニューキノロン系薬物やホスホマイシンが使用されることが多いですね。
ホスホマイシン(ホスミシン®)はブドウ球菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、カンピロバクターに有効です。クラビット®に代表されるニューキノロン系は ブドウ球菌、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌、腸球菌、チフス菌その他多くの細菌に有効です。しかしどちらも安易な使用は耐性菌の原因になるので、本当に抗菌剤治療が必要な時に用いるべきでしょう。その他にもST合剤(バクタ®)なども用いられます。
ウイルス性腸炎に有効な抗ウイルス剤は残念ながらありません。
原虫における治療としてはランブル鞭毛虫、赤痢アメーバにはメトロニダゾール(フラジール®)が用いられます。クリプトスポリジウムには有効ではないので、対症療法で対処します。
薬物療法全体的に共通して使われるのは整腸剤ですね。整腸剤は何にでも使えるので当たり前かもしれません。しかし効果はどうかと言われると微妙な気もします。整腸剤は腸の環境が悪くなる前に使うことで本来の力を発揮するので、下痢などの症状を起こしてからではどこまで効果があるのかは分かりません。無くはないのかもしれませんが、気休め程度ってとこでしょう。
その他には下痢に対する処方としては柴苓湯や五苓散が処方されるケースもあります。
一般的に感染性腸炎では止瀉薬は用いない方がいいです。原因菌の体外への排出が遅くなってしまうからですね。しかし柴苓湯や五苓散などは腸管の動きを抑制するのではなく、脾胃の機能を改善し水分の吸収を促進し、下痢を改善します。そのため感染性腸炎でも使い易いのでしょう。
治療で最も大切なのは脱水を防ぐことにあります。
今回は水様性下痢を何度も繰り返し、自分で体が脱水気味になることを実感できるほどでした。脱水を防ぐためには水を飲むことはお勧めしません。下痢によって大量の電解質(ナトリウム、カリウム)が失われます。こんな時に水を飲んでも吸収が悪く、また吸収しても体液が薄まっていくだけでしょう。やはりOS-1やスポーツドリンクなどの電解質を含んだものをお勧めします。
OS-1は普段ではどうしても美味しいとは言えませんが、脱水気味の時に飲むとそれなりに美味しいです。やはり人間は不足しているものを摂取すると美味しく感じるようです。
※余談ですが昔、二日酔いで吐いている同僚がOS-1が美味しいと言っていました。嘔吐によっても大量の電解質が失われるからですね。
なお経口補水液はスポーツドリンクに比べて塩分が多く、糖分が少なめです。スポーツの時はエネルギー消費に対応するべく糖分が多い必要がありますが、下痢や熱中症などによる脱水防止のためにはOS-1などの経口補水液の方が優れていることは間違いないでしょう。
書いていたら意外に長くなってしまいました。
刺身などの生ものが好きな人は要注意ですね。私は生牡蠣も好きですが、毎回ノロウイルスに感染しないかビクビクしながら食べています💦胃腸炎なんてなくなればいいのに・・・。
次の記事で胃腸炎になった時の家庭内感染の防止について書いてみようと思います。
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