うち薬局の患者さんで脚を引きずって、歩くのが非常に辛そうな方がいます。その方の処方内容が以下のものです。
Rp(1)バイアスピリン(100) 1錠
(般)オルメサルタンOD錠(10) 1錠
1日1回 朝食後 30日分
Rp(2) (般)シロスタゾールOD錠(50) 2錠
1日2回 朝夕食後 30日分
処方内容と患者さんの状態からすぐに分かりました。この方は慢性動脈閉塞症です。今まで実際に目の当たりにする機会は少なかったです。今回の記事で慢性動脈閉塞症について解説します。症状や治療薬について知っておいて貰えればと思います。
まず始めに動脈閉塞症とは動脈硬化などが原因となって、血管が閉塞し血流が途絶えてしまう状態です。動脈閉塞症の場合は主に四肢の動脈が閉塞してしまう状態を指します。動脈閉塞症は大きく急性と慢性に分けられます。
まずは急性動脈閉塞症についてです。
これは四肢の動脈が突然詰まってしまい、血流が途絶えてしまう状態です。血管が詰まる原因として血栓症と塞栓症があります。最も多いのは不整脈による心原性塞栓によるもので、心臓でできた血栓が心臓から四肢の動脈に流れて詰まり、血管が急に閉塞することになります。血栓症によるものは動脈硬化で狭くなっていた動脈が急に閉塞して、一気に症状が悪化する状態です。
主な症状は以下のようなものがあり、”5P”と称されます。
・激しい痛み(pain)
・脈拍触知の消失(pulselessness)
・蒼白(pallor)
・知覚の鈍化(paresthesia)
・麻痺(paralysis)
そのままにしておくと患部が壊死することもあるので、早急な処置が必要です。カテーテルによる血栓の除去や、ヘパリンによる血栓の溶解などを行います。
これに対して慢性動脈閉塞症とは動脈硬化や血管の炎症などが原因で、末梢の動脈が慢性的に狭くなり、虚血を生じた状態です。これにより痺れや痛みなど様々な症状が生じます。
急性動脈閉塞症と慢性動脈閉塞症の違いは分かったと思います。
慢性動脈閉塞症にはいくつか疾患がありますが、代表的なものが閉塞性動脈硬化症(ASO)と閉塞性血栓血管炎(TAO)です。この2つについて解説します。
・閉塞性動脈硬化症(ASO)
動脈硬化症が原因で四肢の動脈が慢性的に狭くなり、虚血を生じる疾患です。末梢動脈疾患(PAD)を呼ばれることもあります。初期症状として手足の痺れ、冷感、蒼白があります。その後間欠性跛行が生じるのが特徴です。
※間欠性跛行 歩行により臀部や太ももに痛みや痺れを感じ、休息を取ると痛みは軽減する。再び歩き始めると痛みや痺れが出る。
さらに進行すると安静時にも疼痛を感じるようになり、最終的には潰瘍や壊死が生じます。
ASOなど慢性動脈閉塞症を、症状により進行度を分類したものにFontaine分類があります。
治療もFontaine分類によって組まれることが多く、Ⅰ度では薬物治療、Ⅱ度では薬物治療と歩行訓練、Ⅲ度ではカテーテルによる血栓除去やバイパス手術による血流再建術、Ⅳ度までいき壊疽が進んでしまうと患部を切断することになります。
ASOは動脈硬化が原因となるので、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などが危険因子になります。治療と並行してこれらを取り除くことは必須です。
・閉塞性血栓血管炎(TAO)
バージャー病やビュルガー病ともいい、肘や膝の先の中程度~細い動脈が炎症を起こし、血栓ができたり血管の攣縮が起き、虚血になる疾患です。症状としてはASOと同様に痺れ、冷感、間欠性跛行があり、その他にも灼熱感などの症状が出ることもあります。悪化すると潰瘍や壊疽が生じるのもASOと同様です。
中年の男性に多く、患者のほとんどが喫煙者です。発症しても喫煙を続けると例外なく悪化するので、禁煙は必須と言えるでしょう。(ニコチンは血管を収縮させ、また動脈硬化を悪化させるからですね)
治療内容に関してはASOと同様に行います。
さてここまでで慢性動脈閉塞症について理解できたでしょうか?
冒頭の患者さんは高齢であり、また非喫煙者です。明らかな間欠性跛行が出ているので、Ⅱ度の閉塞性動脈硬化症といったところでしょう。
ここで慢性動脈閉塞症の薬物治療について確認しておきましょう。血管の閉塞による虚血を改善することが目的なので抗血小板薬が中心となります。
・シロスタゾール(プレタール®OD)
・サルポグレラート(アンプラーグ®)
・ベラプロストナトリウム(プロサイリン®、ドルナー®)
・チクロピジン(パナルジン®)
上記の薬においては「慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛、及び冷感などの虚血性諸症状の改善」に適応をもっています。
また以下の薬については「閉塞性動脈硬化症に基づく潰瘍、疼痛、及び冷感などの虚血性諸症状の改善」に適応をもっています。TAOには適応はありませんので気を付けないといけないですね。
・リマプロストアルファデクス(オパルモン®、プロレナール®)
・トコフェロールニコチン酸エステル(ユベラN®)
・イコサペント酸エチル(エパデール®)
なおトコフェロールニコチン酸エステルは「閉塞性動脈硬化症に伴う末梢循環障害」となっており、微妙な言い方の違いがあります。冷感には有効でしょうが、疼痛の改善は期待できないかもしれません。
またプロスタグランジンE1製剤でもアルプロスタジル(パルクス®、リプル®)は注射剤です。注射剤になると「慢性動脈閉塞症に基づく四肢潰瘍、安静時疼痛の改善」になります。内服より効果が高く出るので、Fontaine分類のⅢ度まで有効になるみたいですね。
その他にはカリジノゲナーゼ(カルナクリン®)は「閉塞性血栓血管炎における末梢循環障害の改善」に適応があります。これは血管拡張作用によるものですね。※なぜかASOには適応がありません
以上で慢性動脈閉塞症における薬物治療は理解できたでしょうか?実際には探してみるとまだまだ出てくると思いますが、前述したメジャー所を覚えておけば十分でしょう。
さて冒頭の紹介した患者さんですが、あまりに歩くのが辛そうなので、介護申請をするようお勧めしました。それまでは杖を使ってなんとか歩いて来ていました。後日要支援2が認められ、現在は電動カートを使って来るようになりました。もちろん全然歩かなくなると残存機能が失われ、本当に歩けなくなるので、定期的に歩行訓練も受けるようにしています。
たんに治療内容を見るだけでなく、薬物治療以外の選択肢も知っておくことが必要です。結果として介護保険を使い、少ない自己負担で日常生活の負担を減らせました。薬剤師の本業は薬ですが、それ以外にも見聞を広げて、介護保険などの社会保障制度もよく知り、また他の専門家に頼ることもしないといけないですね。社会保障制度についてはサブブログの方で取り扱っていきます。
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