施設内で疥癬が流行 疥癬の基礎知識と治療法の確認

疾病・病態

先日うちの薬局が担当している施設から臨時処方箋がきました。内容は以下のものです。

Rp(1)スミスリンローション 30g
    1日1回 頸部から下全体に塗布 12時間以上経過のち洗い流す
Rp(2)スミスリンローション 30g
    Rp (1)が終わった1週間後に同様に使用
Rp(3)スミスリンローション 30g
    Rp(2)が終わった1週間後に同様に使用

この患者さんは疥癬です。翌日以降も同様の処方箋が同じ施設から数枚きました。老人ホームに入居している方は高齢で免疫力も低下しているので、このように施設内流行が起きることもあります。今回の記事で疥癬とその治療薬について紹介したいと思います。

・疥癬について

疥癬とはヒゼンダニ(疥癬虫)というダニによる皮膚感染症です。角質層でヒゼンダニが増殖することで激しい痒みを生じます。疥癬には感染力の弱い通常疥癬と、感染力の強い角化型疥癬があります。

疥癬の感染経路は接触感染です。通常疥癬は寄生するヒゼンダニの数が少なく、感染力も弱いため、感染する可能性は低いといえます。これに対して角化型疥癬はヒゼンダニが多いため、肌の直接的な接触の他に、寝具や衣服を介した感染や、剥がれ落ちた角質、鱗屑にも大量のヒゼンダニが含まれているので、これに付着することで感染するケースもあります。

疥癬についてある程度理解できたでしょうか?
それでは実際に疥癬になってしまった場合、どのような治療があるでしょうか?
疥癬の治療に対しては日本皮膚科学会から疥癬診療ガイドラインが出ています。ガイドラインによると治療の推奨度A(行うよう強く勧められる)なのはスミスリン®ローションとストロメクトール®錠です。この2つについて見てみましょう。

・スミスリン®ローション
有効成分をフェノトリンといい、殺虫剤などに用いられるピレスロイド系薬物です。神経細胞のNaチャネルに作用し、Naチャネルの閉塞を遅らせます。これにより過剰な脱分極が生じ、殺虫作用を示します。ヒトはピレスロイド系薬物を分解できますが、昆虫やダニは分解能力を持たないため選択毒性を示します。

使い方は以下のようになっています。
「通常、1週間隔で、1回1本(30g)を頸部以下(頸部から足底まで)の皮膚に塗布し、塗布後12時間以上経過した後に入浴、シャワー等で洗浄、除去する。」
スミスリン®ローションは1本が30gです。つまり1回で1本使い切ります。頸部(首)から足裏までまんべんなく塗布し、12時間以上経過したのちに洗い流します。たいていの場合は入浴後に全身に塗布し、翌日にシャワーで洗い流します。
”用法及び用法に関連する注意”に「ヒゼンダニを確実に駆除するため、少なくとも2回の塗布を行うこと。」と書かれています。これは1回目はヒゼンダニそのものを駆除するのに使い、2回目は卵から孵った幼虫の駆除に用いるためです。卵がかえるのに3~5日を要するため、2回目は1週間程度あけて使うことになります。”用法及び用法に関連する注意”に「2回目塗布以降は1週ごとに検鏡を含めて効果を確認し、再塗布を考慮すること。」と書かれていますが、うちで対応した施設では最初から3週間分処方されていましたね。

・ストロメクトール®
有効成分をイベルメクチンといい、疥癬の他に線虫の駆除にも用いられます。
イベルメクチンは神経細胞のClチャネルを活性化することにより、動きを麻痺させるとされています。完全に解明されたわけではないので、シナプス前膜からGABAの放出を促進するという考えもあるようです。あるいはそのどちらかもしれません。いずれにせよ抑制性神経を活性化することにより、線虫やビゼンダニの動きを麻痺させ、殺傷するようです。人間などの哺乳類に対しては中枢神経に浸透しません。これにより選択毒性を生じるわけですね。

使い方は体重1kgあたり200μgを1回、空腹時に服用します。例えば体重60kgの人の場合、200×60=12000μg⇒12mgを1回服用します。ストロメクトール®錠の規格が3mgなので、1回4錠ですね。添付文書に用量の簡易表が載ってるので、これに従うといいでしょう。

イベルメクチンは脂溶性物質であるため、高脂肪食の後に服用すると過度に吸収され血中薬物濃度が上昇する可能性があります。そのため空腹時の服用となります。

基本は1回のみの服用となりますが、角化型疥癬の場合は服用後1~2週間以内に効果を確認し、場合によっては2回目の服用をする場合もあります。

・その他の治療薬
ガイドラインには他にもイオウカンフルローションなどのイオウ製剤や安息香酸ベンジルなどが記載されていますが、いずれも根拠に乏しく、推奨はされていません。
クロタミトン(オイラックス®クリーム)は推奨度:C1(行うことを考慮してもよいが、十分な根拠がない)ですが、実際には現場でよく使われます。冒頭に記載したように疥癬は激しい痒みを伴います。そのため痒み止めが必要になるケースが多いですが、外用ステロイドは免疫力を低下させてしまうため使えません。そのため非ステロイドのオイラックス®クリームが使われるケースが多いわけですね。
なおオイラックス®クリームは保険適用外ですが、社会保険診療報酬支払基金から「原則としてクロタミトンを疥癬に処方した場合、当該使用事例を審査上認める」との通知が出ています。


以上の説明で疥癬およびその治療法について分かったでしょうか?
うちで担当している施設では現在数人の疥癬患者が確認されましたが、患者はいずれも隔離されてはいません。おそらく通常疥癬だったのでしょう。しかし疥癬は接触感染ですので、他の入居者の方と皮膚が触れれば感染が広がる可能性もあります。そのため施設内を自由に移動、食事も他の入居者の方と一緒でしたが、接触防止のためのガウンは着ていました。

多少窮屈そうでしたが、施設内感染を防止するためには仕方ないかもしれませんね。今回の施設で初めて疥癬の流行を経験しましたが、スミスリン®ローションが処方された際に薬局に在庫が無くて、急遽他の薬局に分けてもらいました。施設調剤を行っている薬局ではスミスリン®ローションとストロメクトール®錠は少しでも持っておいた方がいいかもしれません。施設内でいつ様々な感染症が流行した際にも対応できるようにするのも薬局の役割かもしれません。

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