腎嚢胞が見つかったとの相談 多発性嚢胞腎について解説

疾病・病態

先日うちの患者さんが「エコーで腎臓に水疱があると言われた。再検査するみたい。大丈夫なか?」と相談に来ました。日頃からよく当薬局を利用してくれている患者さんで、健康診断のデータも把握しています。この患者さんはおそらく腎嚢胞が見つかったのでしょう。今回の記事で腎嚢胞とは何か、腎嚢胞があるとどのような不都合があるのか紹介したいと思います。


腎嚢胞とは腎臓にできる液体のつまった袋です。
腎臓には多数の尿細管がありますが、なんらかの原因で尿細管が圧迫されると一部が膨らんでしまいます。

膨らんだ部分が大きくなると尿細管から切り離され、袋状になって腎臓の外側に出てきてしまうことがあります。こうしてできたのが嚢胞です。

腎嚢胞ができているかはエコー検査で診断が可能です。今回の患者さんもエコー検査で腎嚢胞があることが分かったわけですね。

片方又は両方の腎臓に数個の嚢胞ができている状態では自覚症状も無く、健康被害はありません(この状態を単純性腎嚢胞といいます)。その場合は治療も特に行わず経過観察となります。
しかし嚢胞が大きくなったりすると腹部を圧迫し、圧迫感や腹痛・腰痛を感じることがあります。また嚢胞により腎動脈が圧迫されるとレニンが分泌され、これにより高血圧を生じることがあります。さらに嚢胞が血管を傷つけ、血尿が生じることがあります。
このような場合は局所麻酔をしたのち背中から針を刺し、嚢胞から水分を吸引します。またエタノールを注入し嚢胞壁を癒着させ、再び嚢胞ができないようにします(注入したエタノールは全量を回収します)。これを経皮的腎嚢胞穿刺・エタノール注入療法といいます。

腎臓中央部の尿が流れ込む場所(腎盂)に大きな嚢胞ができてしまうと、尿路を圧迫し尿が腎臓から排泄されにくくなってしまうことがあります。

これを水腎症といいます。水腎症になると尿が腎臓へ逆流し、腹痛・腰痛を生じたり、感染症、腎機能の低下を引き起こすこともあります。軽度の場合は自然治癒しますが、重度の場合は外科的に尿路を圧迫した部分を切除します。

ここまでで腎嚢胞とは、腎嚢胞ができるとどのようなことが起きることがあるか理解できたでしょうか?今回の患者さんはエコー検査で腎臓に水疱(おそらく腎嚢胞)が確認されたので、再検査をしてくれとのことでした。結果はまだ分かりませんが、この患者さんの血圧は正常値、血尿や腹部の違和感などもありません。健診結果を見せてもらったことがありますが、eGFRが56を少し低めですがまだ治療をしなければならないほどではありません。単純性腎嚢胞の可能性が高いでしょう。


再検査をするのは多発性嚢胞腎がないかを確認するのでしょう。
多発性嚢胞腎とは両方の腎臓に嚢胞ができ、加齢とともに嚢胞が増加し、肥大化してしまう疾患です。嚢胞が増加、肥大化することにより腎臓が圧迫され、腎機能が低下してしまいます(60歳で約50%の人が透析になると言われています)。

多発性嚢胞症には常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)常染色体劣性多発性嚢胞腎(ARPKD)があります。
ADPKDは16番目染色体のPKD1という遺伝子または4番目染色体のPKD2という遺伝子の異常により、尿細管の太さの調節異常が生じてしまう疾患です。名前の通り優性遺伝なので、親から遺伝する可能性が高い疾患と言えます(片方の親がもっていると50%の確率で遺伝します)。
ARPKDは6番目染色体のPHKD1という遺伝子の異常による疾患です。PHKD1の異常が嚢胞にどのように影響しているかはまだ不明ですが、集合管の異常により嚢胞ができると考えられています。劣性遺伝なのでADPKDよりは遺伝する確率が少ないと言えます(片方の親が持っていると25%の確率で遺伝します)。

多発性嚢胞腎は根本的な治療がありません。そのため対症療法、保存療法を行うことになります。
高血圧を併発している場合が多いので、その場合はACE阻害薬やARBを使い血圧コントロールをします。多発性嚢胞腎は心筋梗塞や脳動脈瘤といった合併症があるので、血圧コントロールは必須です。
また多発性嚢胞腎は尿路結石の合併症が多いので、これを予防するために水分を多めに摂取します。その他には食事療法や運動療法ですね。

ADPKDはトルバプタン(サムスカ®)が進行を遅らせるのに有効です。
抗利尿ホルモンのバソプレシンはGs共役型のV2受容体に結合して抗利尿作用をしめしますが、V2受容体の刺激により生成されるcAMPが嚢胞を形成、増殖すると考えられています。

トルバプタンがバソプレシンのV2受容体への結合を阻害することで嚢胞の形成や増殖が抑えられるわけです。トルバプタンは利尿薬であるので脱水を防ぐためも、またバソプレシンの分泌を抑制するためにも、多めの水分摂取が必要とされています(1日2~4.5L必要とされています)。
※水分摂取が多くなることで抗利尿ホルモンであるバソプレシンの分泌が抑制されます


腎臓にできる嚢胞とそれによる疾患は理解できたでしょうか?
今回の患者さんはエコー検査で嚢胞が見つかったというだけなので、多発性嚢胞腎なのかは分かりません。たんなる単純性腎嚢胞で特に治療も必要ないことを願っています。多発性嚢胞腎は進行性の病気です、発見が早いにこしたことはありません。治療が早ければその分進行を遅らせられます。健康診断では採血だけでなく、エコー検査なども行い早期発見に努め、また血圧上昇や血尿など、気になる所見があれば早めに受診するのが大切だとあらためて思い知らされます。

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