2024年12月27日に尿路上皮癌治療薬としてFGFR阻害薬のバルバーサ®錠の製造販売が承認されました。過去にもFGFR阻害薬のリトゴビ®錠について解説したこともありますが、今後はこのような細胞増殖因子をターゲットとした抗がん剤がますます増えていくことでしょう。今回の記事でバルバーサ®錠について解説しますが、細胞増殖因子の働きやPD-1などについて包括的に学んで欲しいと思います。
バルバーサ®錠は初の遺伝子異常に基づく尿路上皮癌の治療薬です。まず初めに尿路上皮癌について確認します。
・尿路上皮癌とは
腎臓(腎盂)、尿管、膀胱、尿道を尿路と総称します。尿路はその一部が上皮細胞によって覆われています。この上皮細胞に癌ができたものを尿路上皮癌といいます。※最も多いのは膀胱癌です
・尿路上皮癌の化学療法
尿路上皮がんの一次治療は長らくゲムシタビン+シスプラチンのGC療法でした。
2024年9月からは局所進行または転移性尿路上皮癌の一次治療として「エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ併用療法」が承認されました。
・エンホルツマブ ベドチン(パドセブ®点滴用静注)
癌細胞の表面に存在する接着蛋白であるNectin-4の抗Nectin-4ヒト型IgG1モノクローナル抗体と、チューブリン阻害作用をもつモノメチルアウリスタチンE(MMAE)を結合させた抗体薬物複合体(ADC)です。
・ペムブロリズマブ(キイトルーダ®点滴静注)
ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれます。
PD-1とは活性化T細胞の細胞表面に発現する受容体の1つです。
がん細胞はPD-L1という物質を過剰発現させています。活性化されたT細胞上にはPD-1というPD-L1の受容体が発現しており、PD-L1がこの受容体に結合すると、T細胞の増殖・サイトカイン産生・細胞障害といったT細胞の機能が阻害され、T細胞の働きが抑制されてしまいます。
つまりPD-L1を発現したがん細胞はT細胞に攻撃されにくいわけですね。
PD-L1に対するモノクローナル抗体を投与するとPD-L1に結合することで、PD-L1がT細胞のPD-1に結合することを阻害します。これによってT細胞の抑制が起きず、T細胞が本来の力を発揮し、がん細胞を攻撃するわけです。
前置きが長くなりましたが、尿路上皮癌とその化学療法について理解できたでしょうか?
それでは今回の記事のバルバーサ®錠について解説します。
バルバーサ®錠の有効成分はエルダフィチニブといい、FGFR阻害剤です。FGFおよびFGFRについては過去の記事で紹介したこともありますが、まずはこのおさらいをします。
・FGF、FGFRについて
FGFとは線維芽細胞増殖因子のことをいい、こFGFの受容体をFGFRといいます。FGFとはその名の通り細胞の分化や増殖、遊走に関与する因子です。(血管新生や創傷の治癒などの働きをします)
FGFはFGF受容体(FGFR)に結合すると、FGFRは2量体を形成します。FGFRはチロシンキナーゼ内蔵型受容体であり、このチロシンキナーゼが活性化します。チロシンキナーゼの働きにより様々なシグナル伝達が行われ、細胞の分化、増殖、遊走が行われることになります。
染色体にはFGFRを作り出す遺伝子情報が存在しますが、FGFR遺伝子が何からの原因で他の遺伝子と結合してしまうことがあります。このようにして出来た遺伝子を融合遺伝子といいます。
FGFR融合遺伝子から合成される異常なFGFRをFGFR融合タンパクといい、リガンド非依存的に2量体化します(つまりFGFがなくても2量体を形成します)。
これによりシグナル伝達が異常活性し、細胞の癌化の原因となったり、癌細胞の成長や増殖を促進します。
FGFRは1~4のサブタイプがありますが、様々な癌でFGFR1~4遺伝子の異常が関与している報告がされています。FGFR1の異常 ⇒ 小細胞肺癌、非小細胞肺癌
FGFR2の異常 ⇒ 胃癌、胆道癌
FGFR3の異常 ⇒ 子宮頸癌
FGFR4の異常 ⇒ 膵臓癌
ここまででFGF、FGFRについて復習できたでしょうか?
FGFR阻害剤であるエルダフィチニブはFGFRのチロシンキナーゼを阻害することで、FGFRによるシグナル伝達を阻害し、抗腫瘍効果を示します。
同じFGFR阻害剤のフチバチニブ(リトゴビ®錠)は、FGFR融合タンパクのATP結合部位を不可逆的に阻害することでチロシンキナーゼを抑制します。
エルダフィチニブが具体的にどの部位に結合するかまでの情報はありませんでしたが、おそらくフチバチニブとほぼ一緒でしょう。
FGFR阻害剤の作用機序について確認できたところで、バルバーサ®錠について見てみましょう
・効能、効果について
バルバーサ®錠の効能・効果は以下のようになっています。
「がん化学療法後に増悪したFGFR3遺伝子変異又は融合遺伝子を有する根治切除不能な尿路上皮癌」
エルダフィチニブはFGFR1~4のいずれも阻害しますが、保険適応されるのはFGFR3の遺伝子変異や融合遺伝子による癌のみです。
また「効能又は効果に関連する注意」には次のような文言があります。
「PD-1/PD-L1阻害剤による治療が可能な場合にはこれらの治療を優先すること。」
「十分な経験を有する病理医又は検査施設における検査により、FGFR3遺伝子変異又は融合遺伝子が確認された患者に投与すること。」
前述したように尿路上皮癌の一次治療は「エンホルツマブ ベドチン+ペムブロリズマブ併用療法」です。あくまでPD-1/PD-L1阻害剤を使っても効果のない場合に限られます。
またそもそもFGFR3に異常がないと効果がありません。そのためFGFR3遺伝子に変異があるか、融合遺伝子が認められた場合でなくてはなりません。
・用法、用量について
「通常、成人にはエルダフィチニブとして1日1回8mgを2週間経口投与し、それ以降は1日1回9mgを経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する」
バルバーサ®錠の規格は3mg、4mg、5mgです。最初の2週間は4mg錠を2錠または3mg錠+5mg錠、それ以降は3mg錠を3錠または4mg錠+5mg錠となります。
ただし副作用が起きた場合は減薬することになります。減薬の目安は以下のものです。
・副作用について
重大な副作用として、頻度の高いものから順に高リン血症(78.5%)、手足症候群(30.4%)、網膜剥離(12.6%)、角膜障害(5.2%)、急性腎障害(3.0%)があります。その他の副作用が下痢(54.8%)、口内炎(45.9%)、爪甲剥離症(23.0%)、脱毛症・皮膚乾燥・爪甲脱落症・ALT増加が20%以上です。
こうしてみると粘膜に対する副作用が多いのが分かります。FGFRは皮膚、粘膜、網膜に多く存在しているからですね。また高リン血症は約8割にも及びます。
※高リン血症になるとリンが血管に沈着し血管の石灰化、骨のカルシウムが溶け出して脆くなったり、リンが骨以外の組織に沈着する異所性石灰化を生じます。
副作用が起きた場合の休薬・減薬の基準は以下に従って行います。
今回の記事でバルバーサ®錠について理解できたでしょうか?
まだ販売されていませんが遺伝子異常に基づく尿路上皮癌の初の治療薬が登場した形です。尿路上皮癌のうち遺伝子異常によるものは約20%程度と言われています。他の癌も遺伝子異常によるものが沢山あるでしょう。今後はこのような遺伝子異常に基づく癌に対する治療薬が多く登場するでしょう。まだまだ副作用が多くて使いやすいとは言えませんが、どんどん改良されたものが登場するといいですね。

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