見落としに注意!術中虹彩緊張低下症候群を起こしやすい薬

疾病・病態

先日以下のような処方を受けている患者さんを投薬したら、来月に白内障の手術を予定しているとのことでした。

Rp(1)(般)タムスロシン塩酸塩口腔崩壊錠0.2㎎ 1錠
     1日1回 朝食後  28日分
Rp(2)ベオーバ錠 1錠
     1日1回 夕食後  28日分

医師に現在服用中の薬を伝えているかと確認したら、どうだったかよく覚えていないようなので、必ず服用中の薬を伝えるように話しました。理由としては術中虹彩緊張低下症候群になる可能性があるからです。今回の記事で術中虹彩緊張低下症候群のメカニズムと、原因となる薬について紹介します。今後白内障手術を予定している患者さんを対応した時は、今回の記事を思い出して活用してもらえたらと思います。


まず初めに眼に分布している筋肉について確認しましょう。
眼球の中で色がついている部分を虹彩といいます。さらに虹彩の中にある通称”黒目”と呼ばれている部分を瞳孔といいます。瞳孔は光を通す役割をしており、瞳孔が拡張したり縮んだりすることで目に入る光の量を調節しています。


瞳孔の周りには瞳孔散大筋瞳孔括約筋という2つの筋肉が存在します。
瞳孔散大筋は虹彩の中に分布している筋肉です。瞳孔散大筋が収縮すると、瞳孔は外に引っ張られ大きくなります。

瞳孔括約筋は瞳孔を輪状に取り巻くように分布している筋肉です。瞳孔括約筋が収縮すると、瞳孔は締め付けられ小さくなります。

眼に分布する筋肉について分かったところで白内障手術について見てみましょう。

・白内障手術について
白内障の手術は散瞳薬と呼ばれる点眼薬を用いて瞳孔を開いて、瞳孔の奥に存在する濁った水晶体を取り除いて行います。水晶体が瞳孔の奥に存在するので、なるべく瞳孔を大きくしなければならないわけですね。(取り除いた水晶体の代わりに人口の眼内レンズを挿入します)

この時に用いられる点眼薬は主にミドリンP点眼液です。ミドリンP点眼液はα1受容体刺激薬のフェニレフリンとM3受容体遮断薬のトロピカミドの合剤です。
瞳孔散大筋はα1受容体の刺激により収縮します瞳孔括約筋はM3受容体の遮断により弛緩します。どちらも瞳孔を拡大させる作用機序になっていますね。これにより瞳孔を開き、白内障を行いやすくしているわけです。


さてここで冒頭で紹介したタムスロシンについて確認しましょう。
タムスロシンはα1受容体遮断薬であり、これは尿道括約筋を弛緩させます(尿道括約筋はα1受容体刺激により収縮)。前立腺肥大症により尿道が圧迫され、排尿障害が起きるのを防いでいるわけです。


・術中虹彩緊張低下症候群とは
タムスロシンのようなα1受容体遮断薬を服用していると、白内障手術の際に瞳孔散大筋のα1受容体まで遮断してしまい、手術時に瞳孔が突然閉じてしまうことがあります。これが術中虹彩緊張低下症候群(以下IFIS)です。IFISは以下の3つを特徴としています。
①灌流液※1による虹彩のうねり
②虹彩の脱出※2・嵌頓※3
③進行性の縮瞳
※1:治療・検査・手術などで臓器や組織の洗浄・形態保持などに使用される液体
※2:虹彩が一時的に創口から眼外に出てしまう状態
※3:挿入した眼内レンズの位置がずれてしまう状態

IFISを起こしやすい薬としては前立腺肥大症治療薬、高血圧治療薬の他にリスペリドン、ハリペリドンなどが挙げられます。
前立腺肥大症治療薬や高血圧治療薬にはα1受容体遮断薬はよく使われていますね。リスペリドンやハリペリドンはD2受容体、5-HT2受容体の他にもα1受容体を遮断する作用があるからですね。
※現在添付文書にIFISの副作用の記載がある成分は以下のものになります。


これらのはα1受容体遮断薬を用いている患者が白内障手術をする場合はどうするでしょうか?通常の感覚だと手術前に服用を中止することが考えられます。しかしはα1受容体遮断薬は民医連新聞の記事によると、α1受容体遮断薬を休薬して1年以上が経過してもIFISが発生したという症例があるとされています。つまり手術前に内服を止めてもIFISを防ぐことはできません
この場合は手術前に事前に医師にα1受容体遮断薬を服用してることを伝えておくことが大切です。その場合、手術の際に虹彩にフックをかけて瞳孔を広げることで対処します。


今回の記事で術中虹彩緊張低下症候群のメカニズムと、その原因となる薬物について理解できたでしょうか?白内障手術は侵襲度が低い手術であり、抗凝固薬や抗血小板薬の中止も必要ありません。そのため手術前に医師に服用中の薬を伝える意識が低くなってしまうのも事実です。白内障手術をする予定の患者さんがいたら服用中の薬を確認し、α1受容体遮断薬を使っていた場合は、その事を医師に伝えているかの確認をした方がよさそうです。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村

記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました