多発性骨髄腫 ②DMPB療法について

癌の薬

前回の記事で多発性骨髄腫の病態について解説しました。今回の記事では薬物療法の中身について紹介したいと思います。

多発性骨髄腫は自家末梢血造血幹細胞移植併用大量化学療法が施行できるかどうかで治療方針が異なります。

※自家末梢造血幹細胞移植併用大量化学療法とは、自らの幹細胞を末梢血から採取し、凍結保存しします。そして抗癌剤の超大量療法を行い、骨髄を含めた体内の全ての腫瘍細胞を死滅させた後、その直後に凍結保存しておいた幹細胞を体内に移植する治療法です。自家末梢造血幹細胞移植併用大量化学療法の対象となる患者は65~70歳が上限であり、内臓機能が正常に保たれている場合に限ります。

自家末梢造血幹細胞移植併用大量化学療法が不可能な場合の薬物療法はダラツムマブがベースになります。ダラツムマブと他剤を組み合わせたレジメンが複数存在します。
主なレジメンには以下のようなものがあります。

DLd療法:ダラツムマブ+レナリドミド+デキサメタゾン
DMPT療法:ダラツムマブ+メルファラン+プレドニゾロン+サリドマイド
DMPB療法:ダラツムマブ+メルファラン+プレドニゾロン+ボルテゾミブ
DCd療法:ダラツムマブ+カルフィルゾミブ+デキサメタゾン

今回の患者さんはDMPB療法でしたので、DMPB療法について解説します。

・ダラツムマブ
ヒト型抗CD38モノクローナル抗体です。骨髄腫細胞の表面には、CD38という抗原が過剰に発現しています。このCD38に抗体が結合することにより、NK細胞や補体が骨髄腫細胞を攻撃できるようになります。主な働きは以下のようなものです。


つまり遺伝子組み換えで作ったCD38の抗体を投与することで免疫細胞や補体に癌細胞を攻撃させるわけですね。
ダラツムマブ製剤は点滴のダラザレックス®点滴静注と、ボルヒアルロニダーゼアルファを配合した皮下注製剤のダラキューロ®配合皮下注があります。
ボルヒアルロニダーゼアルファはヒアルロン酸を加水分解するヒアルロニダーゼを、遺伝子組み換えで人工的に作った酵素です。皮下組織には細胞間に存在するヒアルロン酸の層がありますが、ボルヒアルロニダーゼアルファを投与することで、皮下組織のヒアルロン酸を局所的に分解します。これにより皮下組織のバリア能が一時的に解かれ、ダラツムマブの浸透、分散が促進します。
そのためダラザレックス®点滴静注は3~6時間かけて点滴する必要がありますが、ダラキューロ®配合皮下注は3~5分程度の時間で皮下注射すればよくなっています。

副作用としては点滴や注射なのでインフュージョンリアクションが最多ですね。
※インフュージョンリアクションとは急性輸液反応ともいい、作用機序は明らかになっていませんが、抗体などのタンパク質製剤を投与することによってサイトカインが放出されることがあります。これによって頭痛、発熱、悪心・嘔吐、発疹などの過敏症やアレルギー反応が起き、重症化すると呼吸困難、血圧低下、血管浮腫などが起きることもあります。
インフュージョンリアクションは投与開始24時間以内に起き、初回投与ほど発生頻度が高いとされています。予防策として点滴前に抗ヒスタミン薬やステロイドを投与したり、点滴速度を遅くすることによって発生頻度を下げることが出来ます。


・メルファラン
商品名はアルケラン®といい、錠剤と静注用があります。アルキル化剤であり、DNAをアルキル化することで架橋を形成します。

これにより癌細胞の増殖が抑えられるわけですね。
DMPB療法では錠剤を用います。注射剤は造血幹細胞の移植のための前処理に用います。

副作用としてアルキル化剤は全般的に消化器症状として悪心嘔吐、腹痛などがおきやすいです。また骨髄抑制が強いのも特徴です。骨髄抑制により赤血球、顆粒球、血小板などが減少します。動悸・息切れといった貧血症状がでたり、感染症にかかりやすくなるなどといった症状がでたら要注意ですね。

・プレドニゾロン
ステロイドはリンパ球の産生を抑制する効果があります。そのため形質細胞がガン化する多発性骨髄腫には、抗腫瘍効果が期待できます。

また作用機序は不明ですが、ステロイドは制吐作用があることが知られています。ステロイドはセロトニンの働きを抑制するとされており、セトロニンの働きが阻害されることで制吐作用を起こすと考えられています。
※消化管、化学受容器引金帯(CTZ)にはセロトニン5-HT3受容体が存在し、これをセロトニンが刺激することで催吐作用を生じます。
メルファランによる悪心嘔吐を抑制するのにはいいですね。

・ボルテゾミブ
商品名はベルケイド®注射用といい、これはプロテアソーム阻害薬です。
プロテアソームとは複合タンパク分解酵素の1種です。細胞は図のような細胞周期により分裂し、増殖します。

この細胞周期を回転させる過程で様々なタンパク質が作り出されています。役目を終えたタンパク質は細胞内にゴミとして残ってしまいます。この不要となったタンパク質を分解するのがプロテアソームです。
※不要となったタンパク質にはユビキチンというタンパク質が結合し(ユビキチン化)、このユビキチンが目印となって、プロテアソームに取り込まれるわけです。

このプロテアソームを阻害するのがボルテゾミブです。プロテアソームを阻害することにより不要となったタンパク質が分解されずに、細胞内に蓄積してしまいます。その結果、癌細胞がアポトーシスすることになります。

副作用で最も多いのは末梢神経障害です。手足の痺れ、痛み、感覚がなくなる、力が入りにくいなどの症状がでたら、減薬または休薬といった対処が必要となります。
※第二世代プロテアソーム阻害薬のカルフィルゾミブ(カイプロリス®点滴静注用)はボルテゾミブに比べて末梢神経障害は少なくなっています。


今回の記事ではDMPB療法に用いる薬物の作用機序、副作用について解説しました。ユニークな作用機序によるものが多いので、図を参考にイメージで覚えてもらえれば嬉しいです。
次回の記事でDMPB療法はどのようなサイクルで使うかを紹介したいと思います。

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