ターゼナカプセル

癌の薬

2024年1月18日にターゼナ®カプセルの製造販売が承認されました。リムパーザ®錠に続くPARP阻害薬です。適応は限られておりBRCA遺伝子変異を伴う癌にのみ有効になります。適応は以下のようになります。

今回ターゼナ®カプセルについて紹介するとともに、なぜBRCA遺伝子変異を伴う場合にのみ有効なのか、DNAの修復はどのように行われているのか、その辺を総合的に学べればと思います。

・作用機序 適応となる癌について
ターゼナ®カプセルの有効成分はタラゾパリブといい、PARP阻害薬です。PARPとはどのようなものなのか、正常細胞の癌化の要因となる分子にはどのようなものあるか、詳しく見ていきましょう。

PARPとはポリADP-リボースポリメラーゼのことであり、DNAを修復する酵素です。DNAは2本鎖ですが、そのうちの1本鎖が切断された際にPARPがそれを認識し、修復します。


この他にもDNAの損傷を修復する酵素としてBRCAがあります。BRCAはDNAの2本鎖が切断された際に修復する働きをもちます(この時の修復の仕方を相同組み換え修復といいます)。なおBRCAにはBRCA1とBRCA2が存在します(どちらもDNAの2本鎖の修復を行います)。


DNA1本鎖が切断されるとPARPによって修復が行われますが、この修復が正常に行われないとDNAは2本鎖ともに切断されてしまいます。しかしDNAの2本鎖が切断させれてもBRCAが正常に働いていればDNAは修復します。
ところがBRCAを発現するBRCA遺伝子に変異があると、BRCAによるDNAの相同組み換え修復が正常に機能しません。そのためBRCA遺伝子に変異がある場合はPARPの阻害をすることで、細胞死を誘導できることになります。

そのため冒頭で紹介したようにターゼナ®カプセルはいずれもBRCA遺伝子変異陽性の癌になっていることが分かります。

続いてHER2についても確認しておきましょう。
HERはヒト上皮細胞成長因子といい、細胞膜に分布しています。HERは1~4のサブタイプがありますが、乳癌細胞では特にHER2が多く発現しているケースがあります。これがHER2陽性乳癌です。

HER2にリガンドが結合すると、HER2は2量体を形成します。HER2はチロシンキナーゼ内蔵型受容体であり、このチロシンキナーゼが活性化します。チロシンキナーゼの働きにより様々なシグナル伝達が行われ、細胞の増殖が行われることになります。※現在HER2のリガンドが何であるかは不明です

HER2が過剰に発現しているとリガンドが結合していなくても2量体を形成してしまい、細胞増殖が制御できなくなり、癌化してしまいます。
HER2を作りだすHER2遺伝子(ERBB2遺伝子とも言います)に変異が生じることで、HER2の過剰発現が生じるとされています。

ここまでをふまえてターナゼ®カプセルの適応を再度確認してみましょう。

〈ターゼナカプセル0.1mg〉
 BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌
〈ターゼナカプセル0.25mg〉
 BRCA遺伝子変異陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺癌
 がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
〈ターゼナカプセル1mg〉
 がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌

PARP阻害薬でDNA1本鎖が切断されたものが修復されるのを阻害しても、BRCAが正常に機能していると修復されてしまいます。そのためBRCA遺伝子に変異があり、DNA2本鎖の修復が正常に行われない場合でないと細胞死を誘導できません。そのためBRCA遺伝子に変異があることが必須となります。
BRCA遺伝子の変異は乳癌、前立腺癌のリスクになることが知られています。そのため適応対象となる癌は乳癌、前立腺癌です。
またHER2が過剰発現していると細胞増殖が異常になり、癌化してしまいます。この場合ではPARPを阻害したところで癌化は抑えきれません。そのためHER2陰性の乳癌になっているわけですね。

・用法、用量について
用法・用量については前立腺癌、乳癌によって異なっています。

前立腺癌についてはエンザルタミド(イクスタンジ®錠)との併用になります。また遠隔転移を有する去勢抵抗性の前立腺癌です。
前立腺癌はホルモン依存性腫瘍ですが、ホルモン療法は数年続けていると、効果が減弱してきてしまいます。※がん細胞内でアンドロゲン受容体の数が増加したり、受容体の感受性が増加するなどの原因
このようにホルモン療法が効かなくなった前立腺癌を、去勢抵抗性前立腺といいます。
またがん細胞は血管やリンパ管に入り込むと、血液やリンパ液にのって他の組織に転移し、そこで増殖します。これを遠隔転移といいます。
このようにホルモン療法に抵抗性を示し、さらに遠隔転移も有する場合で、かつBARC遺伝子変異があるものに使えます。
ビカルタミド⇒エンザルタミド⇒エンザルタミドとタラゾパリブの併用 といったように、前立腺癌の
進行によって治療が変わっていきます。ターゼナ®カプセルを使うのは最後の方でしょう。

乳癌については特に他剤との併用の記載はありません。
しかし「がん化学療法歴のあるBRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌」とあるように、既に化学療法を行った場合でなくてはなりません。このがん化学療法とはアントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤、タキサン系抗悪性腫瘍剤による治療をさします。
アントラサイクリン系とはトポイソメラーゼⅡ阻害薬の一部であり、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシンなどです。
タキサン系は微小菅阻害薬であり、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセルなどがあります。
これらで治療した経験があり、それでなお手術不能か再発した場合に用いられるわけです。

また腎機能がeGFRで30以上、60未満の場合は開始用量が少なくなります。eGFRは処方箋や患者さんの採血の結果にも記載されていることが多いので分かりやすいですね。
※重度腎障害(eGFR<30)の場合は可能な限り避けると記載されていますが、禁忌ではないようです
前立腺癌、乳癌における減量の目安は以下のようになっています。
・前立腺癌の場合

・乳癌の場合


また0.1mgカプセル、0.25mgカプセル、1mgカプセルの生物学的同等性は示されていません
そのため前立腺癌の治療の場合、0.5mgは0.25mgを2カプセルで調節し、0.1mgを5カプセルにはしてはいけません。乳癌の治療の場合、1mgは必ず1mgを1カプセルにし、0.25mgを4カプセルにしてはいけません。この辺は注意しましょう。

・副作用について
骨髄抑制が起きるので血球の減少が生じます。添付文書に以下のように記載されています。
貧血(57.3%)、好中球減少(35.0%)、血小板減少(24.6%)、白血球減少(20.3%)、リンパ球減少(7.8%)、赤血球減少(1.6%)、汎血球減少(0.3%)
貧血が非常に高頻度で生じます。その他にも疲労・無力感(43.8%)、悪心(24.5%)と記載があります。食欲減退、脱毛症も10%以上となっています。
いずれの副作用も頻度が高めです。特に貧血、疲労・無気力などは骨髄抑制によるものなので、如何に骨髄抑制が起きやすいかが分かると思います。

以上の説明でターゼナ®カプセルについて分かりましたでしょうか?
近年新たに登場する抗がん剤は分子標的治療薬がほとんどになります。化学療法薬に比べて細胞の分化・遊走・増殖に関連する分子、その働き方を覚えなくてはならないので、理解するのが大変です。また別の抗がん剤を紹介する際に、関連する分子の働きからじっくり解説し、なるべく理解しやすい記事にできるよう頑張っていきます。

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