アジンマ静注用1500

血液系の薬

2024年3月26日に先天性血栓性血小板減少性紫斑病治療薬のアジンマ®静注用1500の製造販売が承認されました。先天性血栓性血小板減少性紫斑病の治療は、現在は新鮮凍結血漿輸注によるADAMTS13酵素補充方法しかありませんが、これが発売されれば今後の治療は大きく変わります。今回の記事ではアジンマ®静注用1500の紹介をするとともに、血栓性血小板減少性紫斑についてもセットで理解してもらいたいと思います。

まず初めに治療の対象となる血栓性血小板減少性紫斑について学びましょう。
血栓性血小板減少性紫斑病(以下TTP)とは血小板凝集が促進されることにより、血小板血栓が多発し、血管を閉塞する疾患です。この病態を理解するために、まずは止血のメカニズムから確認します。

・止血のメカニズムについて
血管が損傷すると損傷部位を塞ぐためにフォン・ヴィレブランド因子(以下VWF)と血小板が凝集します。まず初めに損傷した血管壁のコラーゲンにVWFが結合します。するとVWFは活性化し、GPIb/Ⅸ/Ⅴ複合体を介して血小板と結合します。VWFに結合した血小板は活性化し、ATP、ADP、セロトニン、Ca²⁺、TXA₂などの血小板凝集因子を放出します。これにより血小板がさらに集まってきて凝集します。
※血小板同士はGPⅡb/Ⅲa複合体を介して結合します
こうして形成されるのが血小板血栓です。ここまでの過程を一次止血といいます。


一次止血が行われると、止血をより強固なものにするため血液凝固因子が反応します。
血管の損傷により内皮細胞に陰性荷電をもつ異物が露呈し、これに第Ⅻ因子が接触することによって血液凝固が始まります。血液凝固のきっかけが血管内にあるので内因系と呼ばれます。
また血管の損傷により、その損傷部位に存在する大量の組織因子(第Ⅲ因子であるトロンボプラスチン)が血管内に流れ込み、血液凝固が始まります。組織因子は血管外から流れ込むため外因系と呼ばれます。

最終的に内因系も外因系も同じ経路をたどってフィブリン血栓を形成し、血液が凝固します。これを二次止血といいます。


このように一次止血、二次止血が行われることによって完全な血栓が形成され、止血が行われるわけです。
さて前述した一次止血ではVWFが重要な役割を果たしています。VWFは多数の分子が結合した多量体(マルチマー)を形成し、マルチマーが大きいほど血小板凝集効果が強くなっています。VWFの特異的分解酵素のADAMTS13がVWFを適切な大きさに切断することで、その活性を低下させています。


・血栓性血小板減少性紫斑について
VWFマルチマーをADAMTS13が切断してその活性を調節していますが、何らかの原因によりADAMTS13の活性が低下すると、VWFの活性が高くなってしまい、血小板血栓が過剰に形成されてしまいます。これがTTPです。
ADAMTS13の活性の低下の原因が先天的なもの(ADAMTS13を産生する遺伝子の異常など)を先天性血栓性血小板減少性紫斑病(cTTP)といい、後天的なもの(ADAMTS13に対する自己抗体の産生など)を後天性血栓性血小板減少性紫斑病(iTTP)といいます。

ADAMTS13の活性の低下によりVWFが過剰な働きをし、血小板血栓が多発します。これにより様々な症状が起きます。



ここまででTTPが起きる原因、病態については理解できたでしょうか?それでは今回のアジンマ®静注用1500について見てみましょう。
アジンマ®静注用1500の有効成分はアパダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)シナキサダムターゼ アルファ(遺伝子組換え)です。これらはいずれも遺伝子組換えADAMTS13です。つまりADAMTS13の活性が低下しているので、外部から補うわけです。

・効能、効果について
適応は「先天性血栓性血小板減少性紫斑病」です。cTTPにのみ有効で、iTTPには使えないことになります。iTTPでは自己抗体が原因でADAMTS13の活性が低下しているので、この自己抗体を除去しないことには、外部からADAMTS13を補っても効果がないわけですね、

・用法、用量について
用法・用量については以下にようになっています。

1バイアルにつき1590IUが含まれていますが、これは1500IUを採取するために少し多めに充填されています。 ※IU=国際単位
1バイアルから1500IUを採取して添付の溶解液5mLで溶解すると、300IU/mLになります。
体重1kgあたり40IUになので、体重60kgなら 40×60=2400IU になります。つまり8mLの溶解液をゆっくりと静脈内注射するわけです。この場合、注射に少なくとも2分はかかることになります。
基本的には隔週投与ですが、状態が悪かったり効果不十分の時は週に1回になります。急性増悪時には40IU/kg⇒20IU/kg⇒15IU/kgと減薬しながら連日投与ですね。

・副作用について

上記のような副作用が報告されています。悪心や熱感は注射剤ならどれでも起きる可能性はありますね。血小板増加症は、VWFの活性低下により血小板の消費が低下するので理解できますね。高血圧も血小板が増加した影響によるものでしょう。遺伝子組み換えADAMTS13を外部から投与するので、ADAMTS13活性異常が起きるのも分かります。他は特異的な副作用はないですね。

以上でアジンマ®静注用1500について理解できたでしょうか?
冒頭で紹介したようにcTTPの治療は新鮮凍結血漿輸注によるADAMTS13酵素補充方法しか存在しませんでした。しかしアジンマ®静注用1500の登場により治療方針が大きく変わる可能性があります。血漿分画製剤は製造過程でウイルスなどを除去しており、比較的安全性は高いですが、一部のウイルスは完全に不活化・除去することができません。またアレルギー反応や過敏症もあります。しかし血漿分画製剤以外の治療法の登場により感染症やアレルギーのリスクがさらに減少します。今後cTTPの治療がより安全で負担の少ないものになるかもしれません。

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