8月18日にイグザレルト®錠の新規格である2.5㎎錠が薬価収載されました。従来の10㎎、15㎎とはだいぶ違った使い方になります。実際に薬局に入荷するのはもう少し先でしょうが、徐々に使われていくと思いますので、是非予習しておいて欲しいと思います。
まずイグザレルト®錠について復習しておきましょう。
イグザレルト®の有効成分はリバーロキサバンといい、抗凝固薬です。血液凝固Ⅹa因子を阻害することにより血液凝固を抑制します。
そのため従来のイグザレルト®10㎎、15㎎の適応は以下のようになっています。
・成人
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制
静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制
・小児
静脈血栓塞栓症の治療及び再発抑制
不整脈(非弁膜症性心房細動)における血栓の生成や、静脈血栓塞栓症の治療や再発防止に用いられていたわけですね。
ここで今回低用量の2.5㎎錠が登場したわけです。それでは詳しく見てみましょう。
イグザレルト®(2.5)の適応は「下肢血行再建術施行後の末梢動脈疾患患者における血栓・塞栓形成の抑制」です。
まずはこの疾患を詳しく見てみましょう。
末梢動脈疾患(PAD)は閉塞性動脈硬化症(ASO)ともいいます。四肢において動脈硬化が起こり、動脈が慢性的に狭くなり、虚血を生じる疾患です。
これにより手足の冷感、痺れ、間欠性跛行などの症状が出ます。
※間欠性跛行 歩行により臀部や太ももに痛みや痺れを感じ、休息を取ると痛みは軽減する。再び歩き始めると痛みや痺れが出る。
症状により進行度を分類したものにFontaine分類があり、以下のようになっています。
治療もFontaine分類によって組まれることが多く、Ⅰ度では薬物治療、Ⅱ度では薬物治療と歩行訓練、Ⅲ度ではカテーテルによる血栓除去やバイパス手術による血流再建術、Ⅳ度までいき壊疽が進んでしまうと患部を切断することになります。
ここまでで末梢動脈疾患については分かりましたでしょうか?
イグザレルト®(2.5)は「下肢血行再建術施行後の末梢動脈疾患患者における血栓・塞栓形成の抑制」に用います。
下肢血行再建術とはバイパス手術(閉塞部位を迂回して新たな血管を移植することにより血流を再建する手術)や血栓内膜摘除術(硬くなった血管の内膜を取り除く手術)、カテーテルなどにより、血流を元に戻す手術です。
Fontaine分類によればⅢ度のあたりで下肢血行再建術を行うことになります。
ここまでをまとめると末梢動脈疾患がFontaine分類でⅢ度くらいまで進行し、下肢における血行再建術が必要になり手術をしたのち、再び血栓や塞栓が形成されるのを抑制するために用いられるわけですね。
続いてイグザレルト®(2.5)の特徴を見てみましょう。
・アスピリンとの併用が必要
用法及び用量に関連する注意に「アスピリン(81~100mg/日)と併用すること」と書かれています。つまりバファリン®(81)やバイアスピリン®(100)と併用することになり、原則単剤では用いません。ただし「患者の状態に応じて本剤又はアスピリンの中断等を考慮すること」とされており、出血傾向がみられた場合はこの限りではないようです。
なお服用方法は2.5㎎錠を1日2回になります。
・クロピドグレルと併用することもある
「下肢血行再建術施行後の初期治療において抗血小板剤2剤併用療法が必要な場合は、アスピリンとクロピドグレルを使用すること。クロピドグレルの使用期間は必要最低限にとどめること」と書かれています。
末梢動脈疾患ガイドラインにおいて抗血小板療法としてアスピリン、クロピドグレル、シロスタゾールのエビデンスが認められています。イグザレルト®(2.5)との併用はアスピリンが基本ですが、必要に応じてクロピドグレルも可能のようです。ただし当然出血のリスクは高くなるので、使用期間は最小限となるようですね。
目立った特徴は上記2点ですかね。その他の併用禁忌や併用注意、腎機能障害患者への投与などは10㎎、15㎎と一緒です。
しかし今回イグザレルト®(2.5)が末梢動脈疾患における血栓・塞栓の抑制に適応をとったのは意味が大きいと思います。基本的には動脈血栓の防止には抗血小板薬、静脈血栓の防止に抗凝固薬が用いられます。動脈血栓の防止に抗凝固薬は用いられませんでした。
例えば末梢動脈疾患ガイドラインにおいて、抗凝固薬のワルファリンについて
「PAD(下肢 /頸動脈 /鎖骨下動脈)において抗血小板薬単剤と抗血小板薬・ワルファリン(PT-INR 2~3)併用療法を比較したRCTでは,併用群では脳・心血管イベント抑制効果の改善なく出血リスクだけが高まった。また下肢バイパス術後のLEADを対象としたRCTでも,アスピリン単剤と比較し,アスピリン・ワルファリン(PTINR 1.4~2.8)併用療法では死亡と出血イベントが多く,バイパス開存の改善効果は細径人工血管の場合に限られた。これらに基づき,2016年AHA/ACC PADガイドラインは,抗凝固薬は二次予防の目的では用いないとした。」
との記載があります。従来の抗凝固薬では出血リスクを高めるだけで、血栓防止の効果はなかったわけです。それが今回のように低用量の抗凝固薬が登場したことによって、抗血小板薬だけの処方以上の効果を発揮する可能性があります。あくまで血栓・塞栓の抑制に用いるので、使って良くなったなどの実感は得られないでしょうが、いずれ血栓・塞栓の形成が優位に低下したなどのデータが出てきて欲しいですね。
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