9月12日にイコサペント酸エチル製剤の新薬としてエパデールEMカプセルが発売されました。内容としては結構いいものだと思います。今回の記事では従来のイコサペント酸エチル製剤であるエパデールSの復習と、その違いについて解説したいと思います。
まず初めに従来のエパデールSについて復習しましょう。
エパデールSの有効成分はイコサペント酸エチルです。魚油に多く含まれるイコサペント酸をエステル化したもので、2つの薬理作用を有します。
まず1つは血小板凝集抑制効果です。
生体ではホスホリパーゼA2により、細胞膜に存在するリン脂質からアラキドン酸が生成します。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼが作用することによって、プロスタグランジンG2(PGG2)、PGH2を経てトロンボキサンA2(TXA2)が生成します。このTXA2がTP受容体に作用します。TP受容体はGq共役型の受容体なので、これが作用することにより血小板凝集、血管収縮、気管支収縮などの生理作用が生じるわけです。
イコサペント酸エチルはアラキドン酸と同様に、シクロオキシゲナーゼによって代謝され、最終的にTXA3を産生します。つまりシクロオキシゲナーゼによるアラキドン酸の代謝を競合的に阻害するわけですね。そして産生されたTXA3はTXA2に比べて血小板凝集作用や血管収縮作用が非常に弱くなっています。つまりイコサペント酸エチルを投与することにより、TXA2の血小板凝集作用や血管収縮作用が弱くなるわけですね。
もう1つの作用が脂質低下作用です。
イコサペント酸エチルは脂肪酸とトリグリセリドの産生を抑制します。また核内受容体であるPPARαの発現量を増加します。PPARαはmRNAに結合し、リポタンパクリパーゼを産生します。このリポタンパクリパーゼがトリグリセリドの分解を促進するわけですね。
以上の2つの薬理作用を有するのでイコサペント酸エチル製剤であるエパデールSは以下のような適応を持つわけですね。
さてこのイコサペント酸エチルですが、これは不飽和脂肪酸であるため、単体では水に溶けません。そのため溶解には胆汁酸が必要となります。胆汁酸は食事によって胆嚢から分泌されます。そのため胆汁酸が最も分泌される食直後に服用する必要があるわけですね。
ここまででイコサペント酸エチルの薬理作用、服用の仕方は理解できたでしょうか?
つづいて今回の記事のエパデールEMカプセルについて見てみましょう。以下のような特徴があります。
・自己乳化製剤である
エパデールEMカプセルはイコサペント酸エチルの新剤形医薬品です。製剤中にイコサペント酸エチルと一緒に界面活性剤を含有しています。これにより腸管内でカプセルが崩壊すると、界面活性剤と反応し溶解します。
※このように溶質が溶媒で共に液体として存在し混ざり合っているのをエマルションまたは乳化といいます
そのため胆汁酸には依存せずに乳化するので自己乳化製剤というわけですね。
ただし服用方法は食直後です。自己乳化できるようになってはいますが、やはり胆汁酸がないと吸収が不十分のようです。
※添付文書にも以下の記載があります。
「健康成人男性に本剤2g又は4gを1日1回、朝空腹時又は朝食直後に単回経口投与したときのEPAのCmax及びAUC0-72hrは、食直後投与と比較して、空腹時投与で、本剤2g投与ではそれぞれ30%及び28%、本剤4g投与ではそれぞれ34%及び26%減少した」
・1日1回の服用である
前述したようにエパデールEMカプセルは自己乳化製剤なので、吸収が非常によくなっています。そのため服用方法が1日1回ですみます。エパデールSは1日2回ないしは3回なので、エパデールSに比べると格段に使い易くなったと言えるでしょう。
・適応は高脂血症のみ
エパデールSは前述したように、「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛及び冷感の改善」と「高脂血症」の2つに有効です。一方エパデールEMカプセルの適応は「高脂血症」のみです。閉塞性動脈硬化症に効かないわけないと思うのですが、現在は適応がありません。そのうち追加されるのではと思います。
・規格は2gのみ
エパデールSは300㎎、600㎎、900㎎と3つの規格がありますが、エパデールEMカプセルは2gのみです。ここでそれぞれの高脂血症に用いる用法・用量を見てみましょう。
エパデールEMカプセル:2gとエパデールS:1800㎎が同等と見てよいでしょう。
エパデールS600㎎を1日3回、ないしは900㎎を1日2回で服用している人は、エパデールEMカプセル2gを1日1回に替えるだけなので、切り替えは簡単です。
一方エパデールS900㎎を1日3回で服用している人は、単純にエパデールEMカプセル4g、1日1回とはいきません。エパデールSを1日2700㎎ならエパデールEMカプセル3gと同等になる計算ですからね。医師に相談して、エパデールEMカプセル4gにしても大丈夫か確認が必要です。
以上エパデールEMカプセルについてまとめてみました。
今までに比べて使い易いため、徐々に切り替えが進むでしょう。あとは閉塞性動脈硬化症に対する適応を取ればエパデールSは使わなくなるかもしれません。薬はどんどん進化していきます。常に学び続け、患者さんに最適な治療を提供できるようにしましょう。
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