先日社内での調剤事故でオルケディア®錠を本来より少ない用法・用量で調剤してしまった事例がありました。この患者さんは高カルシウム血症を生じ入院治療をしたようです。詳細はまだ不明ですが、血清カルシウム値に影響を及ぼす薬は多いですし、それらの薬によるミスで重大な事故につながりかねません。今回の記事でオルケディア®錠の働きと高カルシウム血症について紹介しますので、是非詳しく学んでいただければと思います。
まずオルケディア®錠について学びましょう。
初めにパラソルモン(PTH)について確認します。パラソルモンは副甲状腺から分泌される、血中カルシウム濃度を調節するホルモンです。
副甲状腺とはのどぼとけの少し下にある、甲状腺の背面に存在する組織です。米粒ほどの大きさの組織が、甲状腺の背面の上下左右の4ヶ所に存在します。
パラソルモンの働きは血中カルシウム濃度を調節することにあります。人体のカルシウムの99%は骨に貯蔵されており、血中カルシウム濃度は9~10mg/dLに保たれています。
血中カルシウム濃度が低下すると副甲状腺から放出されたパラソルモンは骨からカルシウムを遊離させます(骨吸収)。
またカルシウムの腸管からの吸収にはビタミンD3が必要ですが、ビタミンD3は肝臓、腎臓で活性化されることでカルシウムを吸収できるようになります。パラソルモンは腎臓でのビタミンD3の活性化を促進することで、腸管からのカルシウムの吸収を促進し、血中カルシウム濃度を上昇させます。
以上がパラソルモンの働きです。パラソルモンがずっと働いてしまうと血中カルシウム濃度が上昇し続けてしまいます。そのため血中カルシウム濃度が上昇すると副甲状腺のカルシウム受容体(CaSR)にカルシウムが結合し、パラソルモンの分泌を抑制します。
このように血中カルシウム濃度が低下すると副甲状腺からパラソルモンが分泌され、血液中にカルシウムを取り込み、カルシウム濃度が上昇するとパラソルモンの分泌が抑制されることによって、血中カルシウム濃度が一定に保たれているわけですね。
なお骨からカルシウムが遊離される時にリンも一緒に骨から溶出します。またパラソルモンにより活性化されたビタミンD3は腸管からリンの吸収も促進します。その一方で活性ビタミンD3は尿細管からのリンの再吸収を抑制し、尿中への排泄を促進します。リンに対しては吸収と排泄の両方の作用をもちます。
さてオルケディア®錠の有効成分であるエボカルセトは副甲状腺のCaSR結合し刺激します。そのため副甲状腺からパラソルモンの分泌が抑制され続けることになります。つまりエボカルセトはパラソルモンの分泌を抑制し、血中カルシウム濃度を低下させる効果があることになります。
ここでオルケディア®錠の効能・効果を見てみましょう。
透析を行っている場合や慢性腎不全では腎臓がほとんど機能していません。そのためビタミンD3の活性化もされないことになり、腸管からのカルシウムが吸収できず、尿細管へのカルシウムの排泄も促進されます。これにより低カルシウム血症を生じます。また活性化ビタミンD3によるリンの尿中排泄が抑制されるため、高リン血症を生じます。
これらを補うためパラソルモンが過剰に分泌されてしまいます。これを二次性副甲状腺機能亢進症といいます。
二次性副甲状腺機能亢進症ではパラソルモンの過剰分泌により骨吸収が活性化し、骨がもろくなる線維性骨炎や、骨から溶かし出したカルシウムとリンが骨以外のところに沈着する異所性石灰化が生じます。
二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬は活性化ビタミンD3とカルシウム作動薬です。つまりオルケディア®錠が有効なのが分かりますね。
原発性副甲状腺機能亢進症は何らかの原因で副甲状腺が腫大し、パラソルモンが過剰分泌されてしまう疾患です。前述した二次性副甲状腺機能亢進症は他の疾患が原因で機能が亢進してしまう疾患ですが、原発性副甲状腺機能亢進症は副甲状腺そのものの異常による機能亢進です。根本的な治療は副甲状腺の摘出ですが、摘出不可能だったり、術後再発してしまった場合は薬物療法を行うことになります。
副甲状腺癌はその名の通り副甲状腺の中にできる腫瘍であり、腫瘍によりパラソルモンが過剰分泌されます。こちらの治療も原発性副甲状腺機能亢進症と同様に、副甲状腺の摘出か薬物療法になります。
いずれの場合もパラソルモンの過剰分泌を抑制するため、オルケディア®錠が有効なのは分かりますね。
さて今回の事故の詳しい内容はまだ分かりませんが、処方箋に記載された量よりオルケディア®錠を少ない用量で服用するよう説明して渡してしまったようです。この場合、パラソルモンの分泌抑制効果が十分得られず、高カルシウム血症になってしまうことになります。
高カルシウム血症になるとどのような症状が起きるか見てみましょう。
高カルシウム血症の初期症状は消化器症状です。悪心・嘔吐、腹痛、便秘、食欲不振などです。そして多くのケースで脱水を伴います。
利尿薬の作用機序をみると分かりますが、尿細管では上記のようにNa⁺が再吸収されています。しかし高カルシウム血症になると血管側のCa²⁺が多くなり、Na⁺の再吸収が抑制されてしまいます。水はNa⁺と一緒に動くので、Na⁺の再吸収の抑制で尿量が多くなり、脱水が起きやすくなるわけですね。
血清カルシウム値が15mg/dLを超えたあたりになると、精神症状を起こし情緒不安定、めまい、昏睡といった状態になります。このような状態を高カルシウム血症クリーゼといいます。
※クリーゼとは生命に危機がおよぶ状態をさします
また高カルシウム血症は急性膵炎の原因にもなります。急性膵炎は強烈な痛みを訴えることもあり、重症化すると死に至る可能性のある恐ろしい病気です。急性膵炎を起こす2大原因はアルコールと胆石ですが、高カルシウム血症も原因の1つになりうることは忘れないようにしないといけません。
今回の調剤事故は処方箋の読み間違えで用法・用量を誤った方法で渡してしまった単純な内容ですが、高カルシウム血症を起こしうる疾患やその治療薬を服用中の事例では、細心の注意が必要だという事が改めて思い知らされました。また高カルシウム血症は活性化VD3製剤とカルシウムを含むサプリメントやドリンクとの併用でも起こりえます。
参考記事 ⇒ ヒヤリ・ハット分析 エディロール服用中の患者がカルシウムを摂取
何気なく薬局業務を行っていても、ちょっとしたミスで大きな事故につながることもあります。重大な事例はよく読み込んで、頭の片隅に必ず置いておくようにしましょう。ちょっとした気づきが事故防止につながります。
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