ラジカット内用懸濁液2.1%

神経系の薬

久しぶりに新薬の紹介をしたいと思います。筋萎縮性側索硬化症の機能障害の進行抑制薬であるラジカット®は注射剤しかありませんでしたが、2023年3月15日に内用懸濁液が薬価収載し、4月17日より発売されました。これにより今まで病院でしか使えなかったラジカット®が自身で飲めるようになります。今回の記事ではラジカット®内用懸濁液2.1%について紹介しますので、筋萎縮性側索硬化症の病態とセットで理解して頂けると幸いです。


まず初めに筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)についておさらいしましょう。
ALSは運動ニューロンの変性によって生じる神経変性疾患です。筋肉そのものではなく、骨格筋を動かす運動ニューロンの変性で脳や脊髄からの筋肉に対する神経伝達が正常に行われなくなり、全身の筋力低下、筋委縮が生じます。
※運動ニューロン以外は変性しませんので、内臓や感覚器に異常は生じません。
運動ニューロンは大脳皮質の運動野から上位運動ニューロンによって脊髄前角へ運動指令が伝達され、脊髄から骨格筋へは下位運動ニューロンによって伝達されます。

ALSは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両方が変性する疾患です。
※上位運動ニューロンのみ変性するのは原発性側索硬化症、下位運動ニューロンのみ変性するのは脊髄性筋萎縮性といいます。
上位運動ニューロンに変性が起きると腱反射の亢進や筋緊張を高めたりします(手足が突っ張る、歩きにくいなど)。
下位運動ニューロンの変性は四肢で起きると手足の筋力低下、筋委縮が起き、舌やのどで起きると話すことや嚥下が困難になります。

一般的に易疲労、筋力低下など軽微な症状から発症します(指先など四肢の末端に力が入りにくいなど)。その後話しにくい、嚥下がしにくいといった症状も発症します。数年をかけて徐々に進行し、最終的には呼吸筋の麻痺により自立呼吸ができなくなります。人工呼吸器を使わないと生存期間は3~5年と言われています。
一方で眼筋麻痺や感覚障害は起こりにくく、認知障害は伴いません。(症状の進行した患者さんとは眼球運動を利用してコミュニケーションを取ります)

以上でALSの病態については分かりましたでしょうか。今まではALSの治療薬はリルゾール(リルテック®錠)が唯一の治療薬でした。(正確には病態の進行抑制です)
※リルゾールはグルタミン酸分泌阻害・グルタミン酸受容体拮抗薬です。神経細胞の変性の原因としてグルタミン酸NMDA受容体の過剰刺激が考えられています。リルゾールがグルタミン酸の分泌を阻害し、受容体を遮することにより効果を発揮します。

2015年よりエダラボン(ラジカット®)の注射剤が使われるようになりました。ここでエダラボンの作用機序を見てみましょう。
エダラボンはフリーラジカルを消去する脳保護薬(フリーラジカルスカベンジャー)といいます。
フリーラジカルは不対電子(対になっていない電子)をもつ原子や分子のことです。フリーラジカルにはヒドロキシラジカル(・OH)やスーパーオキシド(⁻・O2)などがあります。これらは不対電子を持っているため極めて反応性が高く、DNAやタンパク質を傷害したり、脂質に結合して過酸化脂質を作り出します。

フリーラジカルは体内で通常作られる分には問題ありませんが、偏食、ストレス、過度の運動、喫煙、放射線、薬物などにより過剰に生成されてしまい、多くの細胞を傷つけてしまいます。フリーラジカルの過剰生成が老化、認知症、癌などの原因となりますが、ALSの原因にもなっているわけですね。

つまりエダラボンがフリーラジカルを消去することでALSの進行の抑制が可能になるわけです。
※エダラボンがフリーラジカルを消去する詳しい作用機序は不明です
エダラボン製剤はラジカット®注・点滴静注バッグと注射剤しかありませんでした。しかし2023年4月より内服用剤が発売され、使い勝手が良くなったわけですね。それではラジカット®内用懸濁液2.1%の特徴を見てみましょう。

・効能効果について
「筋萎縮性側索硬化症における機能障害の進行抑制」です。リルテック®と同様に治癒ができるわけではなく、あくまで進行の抑制になります。

・用法用量について
 添付文書によると以下のようになっています。

「通常、成人に1回5mL(エダラボンとして105mg)を空腹時に1日1回経口投与する。通常、本剤投与期と休薬期を組み合わせた28日間を1クールとし、これを繰り返す。第1クールは14日間連日投与する投与期の後14日間休薬し、第2クール以降は14日間のうち10日間投与する投与期の後14日間休薬する。」

ラジカット®内用懸濁液2.1%は35mLまたは50mLのボトルに入っています。これを専用のシリンジで測り取って服用することになります。

※懸濁液なので使用前にボトルを逆さまにし、30秒間振とうさせなくてはなりません。
シリンジで5mLを測り取り、これを直接口に注入して服用することになります。なお経口投与が困難な場合は、経鼻胃管や胃瘻チューブからの投与も可能です。

用法用量に関連する注意として以下のような記載があります。

まず初めに服用前に8時間は絶食しなくてはなりません。そのため服用は起床時が最も適しているでしょう。また服用後は少なくとも1時間は水以外の飲食はできません。
そのため朝起きてすぐに朝食を摂るような生活は出来ませんね。なるべく早起きし、朝食までに時間のゆとりがある生活が必須となります。

また1クール目は最初の14日間は毎日服用し、その後14日間の休薬となりますが、2クール目以降は14日間のうち10日間のみ服用し、その後14日間休薬することになります。

2週目以降は誤って多く飲んでしまわないように注意が必要ですね。

・副作用について
重大な副作用として急性腎障害、ネフローゼ症候群、劇症肝炎、DIC、横紋筋融解症などがありますが、いずれも「頻度不明」です。いずれにしても腎機能や肝機能に異常値が出たり、疑わしい症状がある時は服用を中止すすることになります。
最も多い副作用は下痢です(頻度としては1.5%です)。そして下痢による脱水は腎障害のリスクが上昇します。
また添付文書で特定の背景のある患者に関する注意として、以下のような記載があります。

腎機能障害がある患者で脱水を生じた場合は致命的な経過をたどる例が多く報告されていると書かれています。腎機能が悪い患者で乏尿など脱水を疑わせる所見がある場合は、速やかに使用を中止し受診が必要と言えます。
※重篤な腎機能障害では使用できません。腎機能障害の重症度の判定基準は過去記事を参考にして下さい ⇒ 腎機能の検査値① クレアチニン、eGFR


以上の説明でラジカット®内用懸濁液2.1%の概要は分かってでしょうか?
ALSは治療薬はまだ進行抑制しかできず、まだまだ十分とは言えません。しかし内服薬がリルテック®錠しかなかったのに対し、新たな選択肢ができただけでも喜ばしいことでしょう。ラジカット®内用懸濁液2.1%はリルテック®錠とも併用が可能です。薬が1個増えただけでも治療の選択肢の増加、QOLの向上につながる可能性もあります。いつ処方箋が来ても大丈夫なように十分勉強し、適切な治療に携われるようにしましょう。

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