レキサルティがエビリファイよりアカシジアが起きにくい理由 キチンと説明できるように

神経系の薬

先日うちの患者さんでエビリファイ®錠を使っていた患者さんにアカシジアが出てしまい、一旦休薬しました。アカシジアがおさまった後、再び治療を再開することになったのですが、薬がレキサルティ®錠に変更になりました。うちの薬剤師にその理由が分かるか聞いても理解しておらず残念でした。今回の記事でアカシジアについて、レキサルティ®がエビリファイ®より発生頻度が低い理由を解説します。

まず初めにアカシジアについて確認しておきましょう。
アカシジアは静座不能症ともいい、下肢のムズムズ感、下肢が絶え間なく動く、座ったままじっとしていられず動き回る、下肢の灼熱感などの症状を起こします。また不安、不眠、パニック、躁などの精神症状を併発するとされています。

アカシジアはほとんどが薬剤誘発性です。原因はハッキリ解明されたわけではありませんが、ドパミン神経の障害によるとする仮説が有力です。
※中枢ではドパミン神経は運動に対して抑制的に作用、アセチルコリン神経が促進的に作用している。ドパミン神経の障害によりアセチルコリン神経が優位になり、運動障害を生じる。

ドパミン神経の障害なので、当然ドパミンD2受容体遮断作用を有する抗精神病薬の使用で生じやすいことになります。抗精神病薬以外にもメトクロプラミドなども同様ですね。
※ドンペリドンは末梢性であり、中枢への移行が少ないので頻度は低めです。


ここで脳で運動調節、認知機能、学習機能に関与する黒質-線条体の神経系を見てみましょう。

線条体は大脳皮質から運動機能に関わる神経伝達を受けており、この信号を淡蒼球内節に伝えています(淡蒼球内節は運動刺激の大きさに応じて随意運動を抑制します)。このとき黒質はドパミン神経により線条体の働きを抑制しています。

このドパミン神経の障害により黒質からの線条体の抑制が低下することによって、運動機能障害が起きることになります。これが錐体外路症状(以下EPS)です。
※錐体外路症状とはパーキンソニズム、アカシジア、ジストニア、遅発性ジスキネジアなどを総称して呼びます。



またセロトニン神経がどのような影響を与えているか見てみましょう。
ドパミン神経はGABA神経により抑制されています。このGABA神経にセロトニン神経が作用しています。セロトニン神経は5-HT2A受容体を介し、GABA神経を刺激しています。
※5-HT2A受容体はGq共役型の受容体です。一般的にGq共役型受容体はCa²⁺の流入を起こし、興奮シグナルを伝達します。
つまりセロトニン神経はドパミン神経の働きを抑制していることが分かります。

このようにドパミン神経の働きを抑制することでアカシジアが生じやすくなります。このセロトニン神経の働きを阻害することでアカシジアの発生頻度を減らすことが可能です。セロトニン神経は5-HT2A受容体の刺激でGABA神経を刺激しているので、5-HT2A受容体の遮断によりアカシジアが起きにくくなります。

ここで今回の記事で登場しているエビリファイ®(アリピプラゾール)とレキサルティ®(ブレクスピラゾール)についてみてみましょう。
アリピプラゾールはドパミンD2受容体の部分遮断薬です。D2受容体を遮断しますが受容体の生理活性を完全に止めません。そのためクロルプロマジンやレボメプロマジンなどの定型抗精神病薬に比べてD2受容体遮断効果は弱いです。そのためEPSは起きにくくなっています。

ブレクスピラゾールはアリピプラゾールと同様にドパミンD2受容体の部分遮断作用を発揮します。しかしこの他にもセロトニン5-HT2A受容体の遮断薬として作用します。そのためセロトニン・ドパミンアクティビティモジュレーター(SDAM)といいます。
アリピプラゾール、ブレクスピラゾールはどちらもD2受容体の部分遮断作用の他に5-HT2A受容体の遮断作用をもちます。しかしブレクスピラゾールの方がより強い5-HT2A受容体遮断作用をもちます。そのためブレクスピラゾールの方がEPSが生じにくいわけです。

※なおアリピプラゾールは非定型抗精神病薬の中ではアカシジアが多いことが知られています。この原因に関しては不明ですが、アリピプラゾールが他の非定型抗精神病薬に比べてD2受容体への結合力が強いためと考えられています。

複雑なメカニズムですが理解できたでしょうか?抗精神病薬はどれを使ってもEPSが起きる可能性があります。しかし薬の作用機序を正しく理解すれば起きやすいもの、起きにくいものが何となくではありますが見えてきます。
今回の記事では作用機序の違いでアカシジアを含むEPSの起こりやすさを比較しましたが、ドパミンD2受容体遮断作用が高力価のものほどEPSを起こしやすいのも事実です。D2受容体遮断作用の力価を比較するためにクロルプロマジン換算量も載せておきます。作用機序と力価換算の両方の視点からEPSが起きる可能性が高いかを考察するようにしましょう。

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