ジンタス錠が製造販売承認 ノベルジンとの違い

電解質に対する薬

2024年3月26日にジンタス®錠の製造販売が承認されました。これは低亜鉛血症の治療薬です。今まで低亜鉛血症の治療薬はノベルジン®くらいしかありませんでしたが、今後は治療の選択肢が広がります。また低亜鉛血症においてはノベルジン®より明らかに優れているので、今回の記事で紹介しようと思います。

まず初めに低亜鉛血症とは何か、治療薬は何があるかを見てみましょう。

・低亜鉛血症と現在の治療薬について
低亜鉛血症とはその名の通り、体内の亜鉛が不足した状態を指します。亜鉛は体内で合成できない必須微量ミネラルです。
※1日必要量が100mg以上のミネラルを必須ミネラルといい、1日必要量が100mg未満のものを必須微量ミネラルといいます
亜鉛は酵素に対する触媒因子として、様々な酵素を活性化する働きをもちます。
代表的な働きにインスリンの活性化、カルボキシペプチダーゼ、炭酸脱水素酵素、スーパーオキシドジスムターゼ、アルコールデヒドロゲナーゼといった酵素の活性化があります。

亜鉛の摂取量不足、吸収障害、需要増大(妊婦や授乳婦)、薬剤の使用、慢性疾患(肝疾患、腎疾患、糖尿病、炎症性腸疾患など)により亜鉛が不足することで低亜鉛血症となります。
低亜鉛血症の症状は以下のようなものがあります。


現在の低亜鉛血症治療薬は酢酸亜鉛水和物(ノベルジン®錠・顆粒)です。
体外から亜鉛を補給することによって低亜鉛血症を改善します。またノベルジン®ウィルソン病にも有効です。※ウィルソン病は体内に銅が蓄積し、臓器障害を起こす疾患です。
ノベルジン®に含まれる亜鉛が、腸管粘膜上皮細胞においてメタロチオネインというタンパク質の生成を誘導します。生成されたメタロチオネインは多くのSH基を持つため腸管における銅とキレートを形成し、銅の吸収が阻害されます。そのためメタロチオネインと結合した銅は糞便中に排泄されることになります。

このノベルジン®ですが、空腹時に投与すると悪心・嘔吐などの胃腸障害を起こしやすいという欠点があります。そのため低亜鉛血症に用いる際は食後に服用します。
ウィルソン病に用いる時は空腹時に投与します。亜鉛は食物中の繊維によって吸収が阻害されてしまうためです。胃腸障害の副作用が起きやすくなりますが、ウィルソン病は命にかかわるので、治療効果を優先しています。

ここまでで低亜鉛血症とその治療薬について理解できたでしょうか?続いて今回の記事となるジンタス®錠について見てみましょう。

・ジンタス®の特徴
ジンタス®錠の有効成分はヒスチジン亜鉛水和物です。これはヒスチジン2分子が亜鉛と錯体を形成したものになります。

※錯体とは金属イオンに配位子と呼ばれるイオンや分子が結合した複合体です。
亜鉛による胃腸障害は遊離した亜鉛イオンが原因とされています。ノベルジン®は亜鉛イオンが遊離しやすく、そのため胃腸障害が起きやすくなっています。
これに対してヒスチジン亜鉛水和物は錯体が安定構造をしており、消化管内で遊離する亜鉛イオンが少ないため、胃腸障害が生じにくくなっています
また亜鉛の吸収も向上されるとされています。錯体になることで脂溶性が上がるからでしょう。

・効能、効果について
ジンタス®錠の適応は低亜鉛血症のみです。ノベルジン®と違いウィルソン病には適応はありません
前述したようにノベルジン®は亜鉛がメタロチオネインの生成を誘導することでウィルソン病に効果を発揮します。
メタロチオネインはタンパク質中のSH基が遊離した亜鉛イオンと結合しています。ヒスチジン亜鉛水和物は安定した錯体なので、遊離した亜鉛イオンが少なく、メタロチオネインに上手く結合できないのでしょう。

・用法、用量について
用法・用量は以下のようになっています。
「通常、成人及び体重30kg以上の小児では、亜鉛として、1回50~100mgを開始用量とし1日1回食後に経口投与する。なお、血清亜鉛濃度や患者の状態により適宜増減するが、1日1回150mgを超えないこと。」

ノベルジン®と同様、食後投与であることは変わりません。しかしノベルジン®が1日2回(ウィルソン病の場合は3回)に対して、1日1回と服用しやすくなっています。
これについては前述したように、亜鉛が錯体になることによって吸収が増大しているからでしょう。
なお錯体になることによってどの程度吸収が増大するかのデータは見当たりませんでした。添付文書に記載されている血中濃度のデータは、ジンタス®錠は高脂肪食摂取後のデータであり、ノベルジン®のは絶食時のデータなので比較できません。

ただジンタス®錠の添付文書によると絶食時と高脂肪食摂取後のAUCは、絶食時の方が約50倍もあります。この事を加味すると、ノベルジン®に比べて明らかに吸収はよいといえるでしょう。

・副作用について
1%以上のものとして貧血、浮動性めまい、下痢、悪心、腹部不快感、血中銅減少、リパーゼ増加、アミラーゼ増加、肝機能検査値異常があります。
また重大な副作用として銅欠乏症があります。これはノベルジン®の添付文書に記載れているので、同様に記載されただけと思われます。前述したようにヒスチジン亜鉛水和物は遊離した亜鉛イオンが少ないため、メタロチオネインの誘導が期待できません。本当に銅欠乏症が起きるのかは不明です。「頻度不明」となっており、「銅欠乏症を起こすおそれがある」との記載です。

また副作用の項目には記載されていませんでしたが、亜鉛を投与している以上、亜鉛の過量投与になる可能性もあります。他の亜鉛製剤であるグルコン酸亜鉛の過量投与で重度の悪心・嘔吐、浮動性めまいが、硫酸亜鉛の過量投与で腎不全、高血糖昏睡を伴う出血性膵炎が報告されています。
この場合は胃洗浄をして未吸収の亜鉛を除去するか、キレート剤を用いて亜鉛を除去します。キレート剤にはジメルカプロール(パル「AFP」®筋注)があります。


今回の記事でジンタス®錠について理解できたでしょうか?
ノベルジン®と同じ亜鉛製剤ですが、錯体にすることで副作用を軽減し、また服用回数も減らしています。ちょっとした違いでアドヒアランスが大きく向上する可能性があります。ジンタス®錠が販売されたら低亜鉛血症の治療薬はノベルジン®から完全に切り替わることでしょう。

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