最近社内でヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠の取り間違えによるアクシデント報告がありました。内容としては一般名処方における取り間違えだったようです。たんにアクシデントの内容を紹介するだけでは取り間違えによってどのような不利益があるかが理解できないと思います。また男性にはこのような女性ホルモン製剤はどうしても理解しにくい傾向があります。そのため今回の記事でヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠について詳しく解説します。中身の違い、対象となる疾患についても理解してもらえると嬉しいです。
ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠はともにドロスピレノン・エチニルとエストラジオールの合剤です。ドロスピレノンはプロゲステロン(黄体ホルモン)です。エチニル・エストラジオールは合成エストロゲン(卵胞ホルモン)です。
ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠は低用量の卵胞ホルモン、黄体ホルモンの配合剤です。そのため低用量エストロゲン・プロゲステロン配合剤(LEP製剤)といいます。
LEP製剤は子宮内膜症、月経困難症、不妊治療における排卵誘発の調節に使用します。
これらの効能を理解するために、まずはそれぞれの病態から見てみましょう。
・子宮内膜について
子宮内膜症は本来は子宮の内側に存在する子宮内膜組織が、卵巣や卵管、腹膜など別の組織で増殖や剥離を起こす病気です。
子宮内膜組織が増殖すると炎症や出血を起こし、プロスタグランジンが分泌されます。プロスタグランジンは痛みの原因となりますが、これが子宮内膜症のある様々な場所から分泌されるので月経痛や腹痛、性交痛などが酷くなります。また子宮外で増殖した子宮内膜組織は臓器同士の癒着を起こします。これにより卵巣や卵管などの異常が起き、不妊の原因にもなります。
卵巣や卵巣周辺の組織に子宮内膜症ができると、出血が卵巣内にたまり、古くなるとチョコレートのようになります。これをチョコレート嚢胞といいます。
チョコレート嚢胞は大きくなり骨盤内の他の臓器と癒着を起こし、激しい痛みを生じます。また卵巣と卵管が癒着すると排卵しにくくなったり、卵管が卵子を取り込みにくくなります。そのため不妊の原因となります。
・月経困難症について
月経期間中に生じる下腹部痛、腰痛、腹部膨満感、頭痛、気分の落ち込みなどの病的症状をいいます。月経の終了とともに消失するのが特徴です。
子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症などの器質的な原因疾患があるものを器質性月経困難症、原因疾患がないものを機能性月経困難症といいます。
大部分は機能性月経困難症ですが、この原因はプロスタグランジンと考えられています。プロスタグランジンは子宮内膜に含まれていますが、月経時には子宮内膜のプロスタグランジン産生が増加します。プロスタグランジンが痛みの原因となり、また子宮筋を収縮させるため月経痛が悪化します。機能性月経困難症の人はプロスタグランジンの産生量が多いとされています。
※気分の落ち込みなどの精神症状は女性ホルモンの変動が原因と考えられています
子宮内膜症、月経困難症の病態が分かったところでLEP製剤の働きについて見てみましょう。
・LEP製剤の働き
前述したようにどちらも低用量の卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤です。まず女性ホルモン(卵胞ホルモン、黄体ホルモン)と子宮内膜について確認しましょう。
視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、これにより下垂体から性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン、黄体形成ホルモン)が分泌されます。
卵胞刺激ホルモンは原始卵胞を成熟させ、黄体形成ホルモンは排卵を誘発します。
卵胞からは卵胞刺激ホルモン(エストロゲン)が分泌され、黄体からは黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。
エストロゲンは子宮内膜を増殖し、LHサージ(大量のLHが分泌されること)の引き金になります。
プロゲステロンは増殖した子宮内膜を受精卵が着床しやすいようにします。またプロゲステロンは体温を上げるので、排卵後は基礎体温が上昇します。
ここに低用量のエストロゲン、プロゲステロンを投与するとどうなるでしょうか?エストロゲン、プロゲステロンはそれぞれ視床下部にnegative feedbackをかけてLHRHの分泌を抑制します。結果的にFSH、LH、エストロゲン、プロゲステロンの分泌が抑制されます。
エストロゲンは子宮内膜を増殖させるので、エストロゲンの分泌抑制により子宮内膜の増殖が抑えられます。黄体ホルモンは子宮内膜の増殖を抑制し、維持ます。つまりエストロゲン、プロゲステロンの分泌が抑えられることにより、子宮内膜は増殖せず、月経量も減少します。
⇒子宮内膜症に有効
子宮内膜の増殖が抑えられ月経量が減り、また子宮内膜の増殖抑制によりプロスタグランジンの産生も抑えられ、月経痛も軽減します。また女性ホルモンの変動がなくなります。
⇒月経困難症に有効
LEP製剤の服用中は子宮内膜は増殖しないため、月経は起きず出血はありません。
このように服用期間中は月経が起きないため、月経が来てほしくない日まで服用することで、月経をコントロールできるわけです。
なお休薬すると消退出血が生じます。
※消退出血とはエストロゲンとプロゲステロンの低下により子宮内膜が剥がれ落ちるため起きる出血です
月経が起きて欲しい日の前(約3~5日前)に服用を中止することで、意図的に出血を起こさせ、月経を早めることも可能です。
⇒調節卵胞刺激の開始時期の調節に有効
ここまででLEP製剤の働きについて理解できたでしょうか?
次に今回の記事の対象であるヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠について見てみましょう。
・ヤーズ®配合錠について
ヤーズ®配合錠は1シート28錠中24錠は実薬、4錠はプラセボです。
※実薬部分は淡赤色で「DS」の識別コードが、プラセボ部分は白色で「DP」の識別コードが刻印されています。
まず初めに24日間実薬を服用します。この間は子宮内膜の増殖が抑えられ月経量、プロスタグランジンの分泌が減り、さらに女性ホルモンの変動が抑えられます。その後4日間のプラセボを服用することで消退出血が起きます。つまり意図的に月経と同じ状態を起こしているような状態です。この休薬期間に月経困難症の症状が出ることがありますが、通常の月経に比べて症状は軽めです。
このように休薬期間を設ける使い方をするので、適応は月経困難症のみです。
※実薬を服用している期間は卵巣の活動はほとんど停止していますが、休薬により卵胞が成熟しようと活動が再開します。このように卵巣の機能を正常に保つために休薬を行っています。
・ヤーズ®フレックス配合錠について
ヤーズフレックス®配合錠は1シート28錠中のすべてが実薬です。
※淡赤色で「DS」の識別コードが刻印されています。
つまり服用期間中は月経が起きないことになります。連続して最大120日まで服用可能です。※120日日間服用した後は4日間休薬します
ヤーズ®配合錠と同様の理由で月経困難症に有効です。また長期間に渡って子宮内膜の増殖が抑えられるので子宮内膜症にも有効となります。※正確に言うと”子宮内膜症に伴う疼痛の改善”です
ヤーズフレックス®配合錠はこの他にも”生殖補助医療における調節卵巣刺激の開始時期の調整”にも有効です。生殖補助医療とは不妊治療のことをいいます。人工授精、体外受精、代理懐胎などですね。
通常体外受精では排卵前に調節卵巣刺激(COS)を行います。卵巣から卵子は毎月1個排卵されます。しかし効率的に体外受精を行うためには複数の卵子を採取する必要があります。そこで排卵誘発剤を投与し、卵巣を刺激することで複数の卵胞を発育させ、そこから卵子を採取するわけです。これが調節卵巣刺激です。
ヤーズフレックス®配合錠を服用した後、中断すると3日目頃から消退出血が始まり、月経が始まります。卵胞刺激は月経開始直後より開始するものから、月経周期のいつからでも開始できるものもありますが、卵胞刺激をおこにないたい日に合わせて月経を調節することが可能となります。
最後にヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠の違いをまとめておきますね。
今回の記事でヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠の違い、どのようにして効果を発揮するか分かったでしょうか?この2つの取り違えによるアクシデント事例に関しては次回の記事で紹介しますので、少々お待ちください。
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