レクビオ皮下注300mgシリンジ 作用機序からじっくり解説

内分泌・代謝性疾患の薬

11月22日にノバルティスファーマから新たなLDLコレステロール低下薬のレクビオ®皮下注300mgシリンジが発売されました。PCSK9の阻害によりLDLコレステロール低下作用を示しますが、既に発売されているPCSK9阻害薬のレパーサ®皮下注と異なり、なかなか複雑な作用機序をしています。それなりに勉強して人に説明できるようにしたので、今回の記事で紹介したいと思います。

まずは脂質異常症について確認しておきましょう。
脂質異常症は脂質の種類によって高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症に分類することができます。今回注目するのは高LDLコレステロール血症です。

コレステロールにはLDLコレステロールとHDLコレステロールがあります。LDLコレステロール(以下LDL-C)は肝臓で作られたコレステロールを血管を通して全身に運ぶ役割をもっており、一般的には悪玉コレステロールといわれています。
細胞膜表面には細胞膜1回貫通型のLDL受容体が発現しており、LDL受容体に結合したLDL-Cは細胞内に取り込まれます。特に肝臓に発現するLDL受容体によりLDL-Cは肝臓内に取り込まれます。
※肝臓に取り込まれたLDL-Cは胆汁酸と一緒に便中に排泄されたり、再び全身を循環したりします。
LDL受容体はLDL-Cと結合し、細胞内に取り込まれたのち再利用されます。

しかしこの時PCSK9というタンパク質がLDL受容体に結合するとLDL受容体の分解が促進されてしまうことが分かっています。

つまりこのPCSK9によりLDL受容体の分解が促進され、細胞内へのLDL-Cの取り込みが抑制され、血中LDL-Cが増加してしまうわけです。

続いてPCSK9の産生について見てみましょう。
DNAにはこのPSCK9を発現する遺伝子であるPSCK9遺伝子が存在します。PSCK9遺伝子領域がmRNAに転写、翻訳されてPCSK9が発現するわけですね。

しかし生体には遺伝子発現を調節する働きがあります。これをRNA干渉(RNAi)といいます。
遺伝子領域以外のDNAからもRNAが転写されています。ここで転写されたRNAをmiRNAといいます。転写されたmiRNAは2本鎖が1本鎖になり、さらにタンパク質と結合し複合体(RISC)を形成し、RISCが同一の塩基配列をもったmRNAに結合します。mRNAに結合したRISCはmRNAを分解したり、翻訳を阻害します。これがRNA干渉です。このRNA干渉によって遺伝子から様々なタンパク質が産生さる(遺伝子発現)のを調節しているわけです。


RNA干渉について理解出来たらレクビオ®皮下注シリンジ300mgの有効成分である、インクリシランについて見てみましょう。
インクリシランはPCSK9遺伝子のmRNAと同じ配列をしており、これがRNA干渉をすることでPSCK9の合成を阻害します。つまり目的とするmRNAと同配列のRNAを外部から投与することで、RNA干渉を起こさせてしまうわけです。インクリシランは短い2本鎖RNAなので低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれています。

実際の作用機序を見てみましょう。インクリシランは2本鎖RNA構造ですが、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)というタンパク質と結合させています。GalNAcが肝細胞表面に発現するアシアロ糖タンパク受容体(ASGPR)に結合し、エンドサイトーシスにより肝臓に取り込まれます。細胞内に取り込まれたインクリシランはAgronauteというタンパク質と複合体を形成し、これがPCSK9遺伝子のRNA干渉を行います。つまりPCSK9の合成が抑制されるわけです。


ここまでの説明でインクリシランの働きは分かったでしょうか?従来の抗コレステロール薬と全く異なり、よくもまあここまで複雑な作用機序の薬を作ったものだと感心します。続いてレクビオ®皮下注300mgシリンジの特徴について見てみましょう。

・適応について
添付文書では以下のように記載されています。
「家族性高コレステロール血症、高コレステロール血症 ただし、以下のいずれも満たす場合に限る。
・心血管イベントの発現リスクが高い
・ HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分、又はHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない」


※家族性高コレステロール血症とはLDL受容体遺伝子変異により、LDL受容体が欠損することで肝臓にLDL-Cが取り込まれず、若くして動脈硬化などのリスクを生じる疾患です。

ファーストチョイスのスタチン系を使っても効果が無く、心筋梗塞などのリスクが高い場合に用いられることが分かります。

・用法、用量について
「通常、成人にはインクリシランナトリウムとして1回300mgを初回、3ヵ月後に皮下投与し、以降6ヵ月に1回の間隔で皮下投与する。」
となっています。レクビオ®皮下注は1本が300mgなので初回に1本注射し、次回は3ヶ月後になります。それ以降は6ヶ月に1回の注射で大丈夫なので、受診間隔が長く患者の負担は非常に少ないといえます。なおレパーサ®皮下注と違い自己注射できません。通院して病院で注射してもらう必要があります。


・原則スタチン系と併用
「用法及び用量に関連する注意」にHMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用することと記載されています。HMG-CoA還元酵素阻害薬つまりスタチン系薬物と併用が原則になります。
これについての具体的な理由が書かれた資料は見つかりませんでしたが、そもそもレクビオ®皮下注300mgシリンジを使う対象となる患者は”心血管イベントの発現リスクが高い”患者です。特に冠血管のアテロームによる動脈硬化の防止にはスタチン系が有効なので、スタチン系を使いつつレクビオ®皮下注300mgシリンジでLDL-Cを下げるのが良いのでしょう。

・副作用、その他
5%以上の副作用に注射部位反応(注射部位疼痛、注射部位紅斑、注射部位発疹等)、5%未満の副作用に肝機能障害の記載がありますが、それ以外の記載はありません。
注射部位反応は注射剤なら当たり前ですし、特異的な副作用はないようですね(まだ使用経験が少ないので見つかっていないのかもしれませんが)。

その他に妊婦には有益投与ですし、腎機能障害・肝機能障害の患者への投与のデータがありますが、いずれもLDL-Cの低下率の差を示したものであり、特に使ってはいけないような記載はありません。現時点では比較的安全性は高いと言えるでしょう。


以上の説明でレクビオ®皮下注300mgシリンジについて理解できたでしょうか?
難しい作用機序で理解し辛い薬ですが、LDL-Cを低下させる効果は強く、また半年に1回の受診ですむことから患者負担も小さいです。しかし薬価が1本で443548円と非常に高いです。もっと薬価が安くなり、スタチン系で効果不十分という縛りが取れれば脂質異常症の治療が相当楽になるかもしれないですね。またレクビオ®皮下注が自己注射できるようになる日がくると嬉しいです。

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