アセトアミノフェンの禁忌の緩和 NSAIDsと比較して内容を理解

調剤業務

2023年10月12日、アセトアミノフェン含有製剤の添付文書が改定され、禁忌が大幅に減少しました。改定前と改定後の禁忌の違いは以下のようになります。

従来の禁忌はNSAIDsの禁忌をそのままあてはめていた形になります。これが適切な薬物治療の妨げになるとして、日本運動器疼痛学会が禁忌解除の要望を厚生労働省に提出したことで実現しました。今回の記事では元となっていたNSAIDsの禁忌がなぜそうなっているか、アセトアミノフェンではどう違うのかを解説したいと思います。

・NSAIDsの禁忌について
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(以下COX)を阻害することで痛みの原因となるプロスタグランジン(以下PG)の生成を阻害します。これにより痛みの原因となるPGE2などの生成が阻害され、鎮痛効果を示すわけです。しかしPGE2は痛みの原因物質であると同時に、胃粘膜を保護する作用をもちます。つまりCOX阻害作用によりPGE2の産生が抑制され、胃粘膜を保護する物質が失われてしまうことになります。

NSAIDsの副作用に消化管穿孔・出血・潰瘍があるのはこのためですね。
消化性潰瘍のある患者に禁忌

またPGの多くは血管拡張作用をもちます
※PGD2、PGE2、PGI2は血管拡張作用をもちますが、PGFは血管収縮作用をもちます
腎臓は非常に細い腎血管が沢山存在していますNSAIDsの長期使用はPGの産生抑制により、細い腎血管の収縮が起きることで腎臓が虚血になり、腎機能の低下につながるわけです。
重篤な腎障害のある患者に禁忌

また腎血流が低下すると腎細動脈の糸球体濾過速度が低下します。さらに腎血流が低下すると近位尿細管での再吸収が代償的に促進されます。これらのメカニズムで体内への水の貯留が進み、血圧の上昇や浮腫を生じることになります。
重篤な心機能不全のある患者に禁忌

NSAIDsのCOX阻害作用によりPGだけでなく、トロンボキサンA2(以下TXA2)の産生も抑制されます。TXA2は血小板凝集作用をもちます。TXA2の産生が抑制されることで血小板凝集が抑制されるわけです。
一方COX2選択的阻害薬はTXA2の産生はあまり阻害せず、血小板凝集抑制作用のあるPGI2の産生を阻害します。

このように血小板凝集の抑制と促進の両方の作用により血小板機能障害が生じるわけです。
その他にもメカニズムは不明ですが、好中球の減少や再生不良性貧血の原因になることもあります。
重篤な血液の異常のある患者に禁忌

さきほどPGが産生される過程を説明しましたが、アラキドン酸からはPGだけでなくロイコトリエン(以下LT)も産生されます。COX阻害作用によりPGの産生が抑制されると、その分リポキシゲナーゼにより代謝されるアラキドン酸が増え、結果的にLTの産生が促進されます。LTは気管支収縮作用をもつため、これにより喘息を誘発するわけです。これをアスピリン喘息といいます。

NSAIDsを服用している患者全員にアスピリン喘息が起こるわけではありませんが、一部の人はNSAIDsにより喘息を生じてしまいます。
アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に禁忌


薬物性肝障害は薬物またはその代謝物が肝毒性をもつ中毒性と、アレルギー反応により肝障害を発症するアレルギー性特異体質代謝酵素の遺伝的素因で代謝物が肝毒性をもってしまう代謝性特異体質があります。
ジクロフェナクナトリウムにおいて代謝性特異体質による肝障害が確認されており、また件数は少ないですがロキソプロフェンナトリウムでも報告されています。全てのNSAIDsで確認されているわけではありませんが、使用頻度の高いNSAIDsで確認されているので、NSAIDs全般で禁忌にしてるのでしょう。
重篤な肝機能障害のある患者に禁忌

以上の説明でNSAIDsにおける禁忌、そのメカニズムについては理解できたでしょうか?なお「本剤成分に過敏性のある患者」に禁忌なのは説明するまでもないですね。
それではアセトアミノフェンではどうか見てみましょう。

・アセトアミノフェンの場合
まず結論から言うとアセトアミノフェンはCOX阻害作用は認められていますが非常に弱いです。そのため抗炎症作用はほとんどありません。
解熱効果については視床下部の体温調節中枢に作用して血管を拡張させ、熱を放散させます。
鎮痛効果については視床と大脳皮質に存在する痛覚の閾値を高めることで、痛みを感じにくくさせます。
※どちらも具体的な作用機序は分かっていません
COX阻害作用がほとんど無いのでPGの産生をほとんど阻害しません。その結果PGの不足が原因で生じる消化菅粘膜障害、腎機能障害、浮腫、血小板機能障害、アスピリン喘息は起きにくいわけです。

一方、肝障害は禁忌のままです。
アセトアミノフェンは肝臓でグルクロン酸抱合され尿中に排泄され、アセトアミノフェンがチトクロームP450により代謝されたN-アセチルベンゾキノンイミン(以下NAPQI)はグルタチオン抱合されます。NAPQIは肝毒性がありますが、グルタチオン抱合により無毒化されます。

アセトアミノフェンの服用量が過剰であったり、肝機能が悪くグルタチオン抱合による無毒化が低下しているとNAPQIが蓄積し、肝機能障害を生じます。そのため重篤肝障害の患者は禁忌のままなわけです。

アスピリン喘息の禁忌が外れたことは前述しましたが、用量に規制があります。アスピリン喘息又はその既往歴の患者に用いる場合は、1回の服用量は最大300mgまでとなります。COX阻害作用もわずかにはありますので、これ以上用いると影響が出るのでしょう。カロナール®錠(500)は使えないので注意が必要ですね。
またアセトアミノフェンの合剤も注意が必要です。カフコデN®配合錠は1錠あたりアセトアミノフェンは100mgなので、1回2錠の服用は問題ありません。
トラムセット®配合剤は1錠あたりアセトアミノフェンは325mgです。抜歯後疼痛では1回2錠になります。そのため抜歯後疼痛に使う場合は禁忌になります。
非がん性慢性疼痛での使用量は1回1錠、症状によって適宜増減し1回2錠までです。前述したようにアスピリン喘息又はその既往歴の患者には1回300mgまでですが、添付文書には「アスピリン喘息又はその既往歴のある患者に対して本剤を投与する場合は、1回1錠とすること。」と記載されています。1回1錠でも300mgを超えますが、僅かに超えている程度なので許容されているようです。


以上の説明でNSAIDsの禁忌とそのメカニズム、アセトアミノフェンでは大丈夫な理由、アセトアミノフェンの禁忌について理解できたでしょうか?アセトアミノフェンはNSAIDsの禁忌がそのまま用いられてきましたが、ようやく意味のない禁忌が緩和され使いやすくなりました。他にも合理的な理由もなく禁忌が存在する薬はあります。ここ最近添付文書の改訂が頻繁に起き、禁忌の一部が削除されるケースが逆に追加されるケースが目立ちます。常に最新の情報を入手して、適正な薬物治療が行えるように努めましょう。

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