シックデイにおける血糖降下剤の使い方

内分泌・代謝性疾患の薬

以前うちで糖尿病の治療をしている患者さんが胃腸炎になりました。胃腸薬の投薬時に話を聞くと、食事があまり摂れなかったようですが、普段使っている血糖降下剤をどうするかは医師から聞いていなかったようです。こちらの判断で勝手に決めるわけにはいかなったので、医師に問い合わせて、食事が摂れるようになるまでは血糖降下剤を中止してもらうことになりました。糖尿病患者はシックデイにおける対応を普段から医師と話し合っておく必要があります。今回の記事では血糖降下剤のシックデイルールについて紹介します。

シックデイ(sick day)とはつまり”病気の日”を意味しますが、この場合は糖尿病患者が急性疾患にかかったことを意味します。風邪や胃腸炎、外傷などです。糖尿病患者が急性疾患になるとどうなるのでしょうか?それは血糖値が乱れやすくなります。その原因について見てみましょう。

理由の1つにストレスがあります。感染症や外傷などは多くのストレスが生じるため、ストレスホルモンであるコルチゾールやカテコールアミン(アドレナリンなど)が上昇します。これらはいずれも血糖値を上昇させる働きを持ちます。また炎症を生じるとインターロイキン(IL)やTNFαなどのサイトカインが生じますが、これらのサイトカインはインスリンの分泌を抑制し、またインスリン抵抗性を増大します。つまり血糖値が上昇してしまうことになります。
胃腸炎になった場合はどうでしょう?胃腸炎になると普段通りの食事が摂れなくなることが多いです。この状態で正常時と変わらない量の薬を服用すると血糖値が低下し、低血糖を生じることがあります。一方下痢や嘔吐を繰り返すと脱水を起こし、結果として血糖値が上昇するケースもあります。

いずれのケースでも血糖値が乱れやすくなるというのは間違いありません。そのため主治医とどのような症状の時は薬をどうするか、食事はどうするかなどの事前に聞いておくことが必要となります。(これをシックデイルールといいます)
当ブログは薬剤師視点で書いたものなので、シックデイの時の血糖降下剤の使用について確認しておきましょう。
※急性疾患の種類、その時の状態は人によって様々であるため、これから書く内容は全員に当てはまるわけではありません。あくまで一般的な解釈になりますので、最終的は判断は主治医と相談して決めて下さい。

・インスリン注射の場合
食事が摂れない時に通常通りインスリン注射をするのは低血糖を起こし、危険な気がします。しかり基本的にはインスリン注射は中止しないことが多いです。なぜならインスリン注射は1型糖尿病患者や、2型糖尿病患者で極めて血糖コントロールが不良の人が使うからです。これらの患者がインスリン注射を中断すると高血糖を起こし、ケトアシドーシスを生じてしまうリスクが極めて高いです。
ここでインスリン注射について確認しておきましょう。インスリンには基礎インスリン追加インスリンがあります。基礎インスリンは常に分泌されているインスリンであり、これによって代謝による血糖上昇を抑えています。これに対応するインスリン製剤はランタス®注やレベミル®注などの持続型インスリン製剤ですね。一方食事をすると血糖値が急上昇するので、それを抑えるためにさらにインスリンが分泌されます。これが追加インスリンです。これに対応するインスリン製剤は速効型や超速効型インスリン製剤ですね。

持続型インスリン製剤は基礎インスリンに対応するため、変わらず使用することになります。一方速効型や超速効型インスリン製剤は食事が摂れない時は単位を減らして使用することがあります。この辺は主治医としっかり相談しておく、あるいは受診や電話をして現在の熱や、食事がその程度とれるかを伝え判断してもらう必要があるでしょう。

・SU剤(グリニド系含む)の場合
SU剤は膵β細胞から無理やりインスリンを分泌させる作用機序です。そのため食事が摂れない状態で通常量を服用するのは危険です。糖尿病療養指導ガイドブックによると以下のような基準になっています。
・食事量が通常の半分以上  ⇒ 通常量
・食事量が通常の半分程度  ⇒ 通常の半分量
・食事量が通常の1/3以下 ⇒ 中止


・αグルコシダーゼ阻害薬の場合
基本的に中止になります。αグルコシダーゼ阻害薬は食事からのグルコースの吸収を抑制するものであるため、食事が摂れない時はそもそも服用する必要がありません。血糖降下作用も緩徐なため、休薬による血糖値の急上昇はありません。また急性疾患時には下痢などの副作用が強く出る傾向にあります。いずれの理由からも服用する必要がないことから中止となるわけです。

・DPP-4阻害薬
DPP-4阻害薬はグルコース依存的に、つまり食事を摂って血糖値が上がった時だけ効果を発揮する作用機序です。そのため食事摂れるなら服用し、食事が摂れないなら中止となります。食事が摂れないなら服用しても意味がないわけですね。ただし食事を摂れない時に誤って服用しても低血糖になるリスクは極めて低いでしょう。


・GLP-1受容体作動薬の場合
GLP-1アナログの注射やリベルサス®などですね。最終的な作用機序はDPP-4阻害薬と一緒なので、同様の考えでよいでしょう。嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が強い時は使用を中止するとされています。この具体的な理由が書かれてものは見当たりませんでした。GLP-1受容体作動薬は膵α細胞からグルカゴンの分泌を抑制による食欲抑制効果が生じます。おそらく消化器症状のある時に食欲抑制効果があるのは望ましくないためでしょう。

ビグアナイド系(メトホルミン)の場合
速やかに中止します。メトホルミンの作用機序はAMPキナーゼを活性化し、骨格筋でのグルコースの取り込み促進、肝臓での糖新生の抑制です。この糖新生の抑制により乳酸が上昇し、乳酸アシドーシスを起こすことがあります。これはメトホルミンの最も重大な副作用ですね。

そして脱水により乳酸アシドーシスの頻度が上昇する可能性があります。感染症による発熱や胃腸炎による下痢や嘔吐はいずれも脱水を引き起こすので、中止した方がいいわけです。

チアゾリジン系(ピオグリタゾン)の場合
ピオグリタゾンの作用機序はインスリン抵抗性の改善です。ピオグリタゾンは中止してもしばらく効果が持続するため、休薬による急な血糖上昇はありません。そのため中止して問題ないことになります。食事摂れない時は中止すべきでしょう。

・SGLT2阻害薬の場合
速やかに中止します。SGLT2阻害薬は近位尿細管でのグルコースの再吸収を抑制しますが、一緒にナトリウムの再吸収も抑制します。そのため利尿効果を生じます。
※過去記事参照 ⇒ ジャディアンス錠 慢性心不全での使用について
特に胃腸炎の場合は脱水のリスクが上昇します。またグルコースの排泄を促進することにより、エネルギーとして利用されるグルコースが少なくなります。すると脂肪が分解され、それにより生じた脂肪酸がエネルギーとして利用されることになります。脂肪酸はβ酸化され、最終的にケトン体になります。ケトン体が増えることによってケトアシドーシスを起こすリスクが上昇します。食事が摂れないとなおさら脂肪酸がエネルギーとして利用されるため、ケトアシドーシスのリスクが上昇します。いずれにしても中止した方が良いでしょう。

ここまで血糖降下剤のシックデイにおける取り扱いについて書きましたが、迷わず受診すべき基準も定められていますので、ぜひ覚えておいて下さい。

・強い下痢や嘔吐が続く
・食事が摂れない、または著しく少ない
・38度以上の高熱が続く
・自己測定血糖で350㎎/dL以上が続く
・インスリン注射や経口血糖降下薬の量をどうしたらいいのか分からない


一通りの血糖降下剤のシックデイにおける使用について書いてみました。
前述したようにあくまで一般的なものになりますので、普段から主治医と話し合っておかなくてはなりません。また自己血糖を測定できるとより正確な判断が可能となります。血圧計と同じくらい、自己血糖測定器も使われるべきなのかもしれませんね。

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