レベスティブ皮下注用3.8㎎

内分泌・代謝性疾患の薬

先日職場にレベスティブ®皮下注用3.8㎎が新発売されたとのお知らせが届きました。うちの薬局で入荷することはないのですが、たとえ扱わなくても薬剤師である以上勉強しておくことは必須です。今回はレベスティブ®について説明しておこうと思います。

レベスティブ®は短腸症候群(SBS)の治療薬です。まず短腸症候群について解説します。
短腸症候群とは読んで字のごとく、腸が短い疾患です。何らかの原因で腸の大部分を切除した結果、腸が極端に短くなっている状態です。
※腸を切除する原因としてはクローン病、癌、腸捻転、外傷などがあります。
腸を切除すると食べ物の消化と吸収が極端に悪くなります。その結果、下痢を生じることになります。(下痢が酷いため、ロペラミドなどの止瀉薬を使用することもあります)
また栄養の吸収が不十分なため、脱水や体重減少、栄養失調を起こすこともあるため、中心静脈栄養を余儀なくされるケースもあります。(一生涯続ける人もいます)

※静脈からの栄養補給について簡単に勉強しましょう。
静脈からの栄養補給は末梢静脈栄養(PPN)と中心静脈栄養(TPN)があります。
TPNは高カロリー栄養とも呼ばれ、水分の他に糖質、脂質、アミノ酸、ビタミン、電解などが全て含まれています。中心静脈からカテーテルを挿入して、栄養を血管に直接注入します。長期にわたって食事が摂れないなどのケースではTPNが行われることになります。




短腸症候群については何となく理解できたと思います。
さてようやく今回のレベスティブ®について説明していきます。
レベスティブ®は有効成分はテデュグルチドといい、遺伝子組み換えのGLP-2アナログです。GLPとはグルカゴン様ペプチド(Glucagon-Like Peptide)といい、小腸から分泌されます。

※GLPにはGLP-2の他にGLP-1があります。GLP-1については過去に書いた記事を参照して下さい ⇒ 「リベルサス錠」

GLP-2はGLP-1と同様に小腸(主に回腸)のL細胞から分泌されます。
GLP-1は膵β細胞からインスリンの分泌を促進しますが、GLP-2は小腸粘膜の増殖・バリア能の維持、腸管の延長、消化吸収の促進などの作用を示します。
正常な腸では回腸L細胞からGLP-2が分泌されているので、腸管機能は正常に保たれているのですが、短腸症候群では回腸を切除してしまっているので、顕著な消化管機能障害が起きるわけですね。

レベスティブ®はGLP-2を注射によって直接体内に投与することによって、短腸症候群による消化管機能障害とそれに伴う症状を改善します。
GLP-2は天然型はDPP-4によって速やかに分解されてしまいますが、テデュグルチドはN末端のアラニンをグリシンに置換して、DPP-4によって分解されにくくしています。

レベスティブ®についてある程度の事は分かったと思います。次にレベスティブ®の特徴について見てみましょう。

・自己注射が可能
最初のうちは主治医の指導が必要ですが、許可が得られれば自己注射が可能です。
1日1回の注射であり、腹部、太もも、上腕の背部に注射可能です。(ただし上腕背部は家族が注射してくれる場合だけです)
注射は毎回1セットを使い切りです。

・短腸症候群でも使うにはTPNの量が安定してから
レベスティブ®は短腸症候群ならすぐに使えるわけではありません。
腸を大量に切除した場合は以下のような経過を辿ります。
①手術によって腸を大量に切除して短腸症候群になるとまずはTPNによる栄養補給が必須となります。(第1期:術直後期)
②次に消化吸収能力や下痢が改善してきたらTPNを減らし、経腸栄養を併用します。(第2期:回復適応期)
③第2期から数年が経過すると経腸栄養や経口栄養を増やし、TPNからの離脱を目指します。(第3期:安定期)
レベスティブは第2期を経てTPNの量が安定した、あるいはこれ以上減らせない患者さんに使えます。術後すぐに使えるわけではないので注意が必要です。

・注意すべき副作用は腸閉塞、ストーマ閉塞
腸粘膜の増殖作用があるため、腸閉塞を起こす可能性があります。同様にストーマについても穴が小さくなり、閉塞することがあります。(腸管の延長作用で逆にストーマが大きくなることもあります)
※ストーマとは手術によって腸管に穴を空け、腸の一部を体の外に出して作った排泄口です。人工肛門や人口膀胱の出口に使われます。

・最も多い副作用は体液貯留

添付文書を見ると重大な副作用で最も頻度が多いのは体液保留です。
消化管からの水分の吸収が増加するためですね。また電解質の吸収も促進されるため、浸透圧の影響でより水分が体内に溜まりやすくなることは想像できます。体液保留が酷くなるとうっ血性心不全を起こすので、浮腫み、体重増加、息切れなどの症状に注意が必要です。

レベスティブ®について簡単にまとめてみました。
薬局で扱うことはなかなか無さそうですし、いざ使うとなると注射液の溶解の仕方や、注射の手順についてしっかり確認する必要があります。今回のブログ記事だけではレベスティブ®を使いこなすに十分ではありませんが、実際に扱うため勉強し直す際に役立ってくれると嬉しいです。

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