前回の記事でヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠について学びました。今回の記事では実際にこの取り違えがあった事例を紹介します。結論から申し上げますと一般名処方における取り違えです。実際にあったものは一般名処方でヤーズフレックス®配合錠で調剤すべきところを、ヤーズ®配合錠の後発品で調剤してしまったようです。これについて確認します。
・ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠の一般名処方
ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠はともにドロスピレノンとエチニルエストラジオールの合剤です。2つの違いは前回の記事で紹介したようにプラセボ薬があるかどうかです。
一般名処方の標準的な記載は
【般】+「一般的名称」+「剤形」+「含量」です。※【般】は必須ではありません
となります。つまり成分、剤形、含有量が同じなので、区別がつかないことになります。そこでヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠の区別をつけるために、販売元のバイエル薬品製薬株式会社はプラセボの有無の記載、あるいは製品名の併記を推奨しています。
【般】ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(プラセボ無)
【般】ドロスピレノン・エチニルエストラジオール錠(ヤーズフレックス®配合錠)
などと記載されていれば、取り間違えも起きないでしょう。
実際に社内で取り間違えがあった事例で、処方箋にどのように記載されていたのか分かりませんが、この2剤の一般名処方の書き方に統一されたルールはありません。
※厚生労働省の一般名処方マスタではヤーズ®配合錠の一般名処方の標準的な記載は「【般】ドロスピレノン・エチニルエストラジオール配合錠・プラセボ錠」となっております。ヤーズフレックス®配合錠は後発品が存在しないので、記載がありません。
実際に使われている一般名処方を探してみたところ、プラセボ無、プラセボ有の記載のないものや、
ドロスピレノン・エチニルエストラジオール ベータデクス錠(1)⇒ヤーズ®配合錠
ドロスピレノン・エチニルエストラジオール ベータデクス錠(2)⇒ヤーズフレックス®配合錠
なんてものも存在しました。病院側のレセコンの関係でプラセボの有無、あるいは製品名の併記が無かった場合は、念のため疑義照会しておくべきでしょう。
なおヤーズ®配合錠には後発品はドロエチ®配合錠「あすか」の1つだけ存在し、ヤーズフレックス®配合錠には後発品が存在しません。これも一緒に覚えておきましょう。
・ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠の取り違えによる有害事象
さてヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠を取り違えるとどのような不具合が起きるか見てみましょう。既に紹介しているようにヤーズフレックス®配合錠にはプラセボが無く全て実薬です。これにより長期間月経を起こさないことが可能です。どうしても月経が起きると困るような状況がある場合、あるいは子宮内膜症で可能な限り月経が来ない状況にしないと辛い患者さんはヤーズフレックス®配合錠を服用します。
しかしここで誤ってヤーズ®配合錠を使ってしまったらどうでしょう?ヤーズ®配合錠は24日間の実薬のち、4日間のプラセボを服用することになります。つまりプラセボを服用している期間に消退出血が起きることになります。薬を服用していないケースより多少マシになっているとはいえ、月経困難症や子宮内膜症の症状が起きることは十分に考えられます。
このようにヤーズフレックス®配合錠で調剤すべきところをヤーズ®配合錠で調剤してしまった場合は不具合が大きいと入れるでしょう。
逆にヤーズ®配合錠で調剤すべきところをヤーズフレックス®配合錠で調剤した場合は、本来なら休薬期間に起きるはずの消退出血が起きないことになります。事前に消退出血が起きる旨を聞かされていた場合は不安になるでしょう。
・共通する副作用
最後にヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠の両方に存在する副作用について確認しておきましょう。最も重要なものは血栓症です。
ヤーズ®配合錠、ヤーズフレックス®配合錠はどちらもエストロゲン製剤を含有しています。肝臓では血液凝固因子が作られており、肝臓でのエストロゲン受容体刺激作用は血液凝固因子の産生を促進し、血栓を生じやすくなります。そのため血栓症を起こすリスクがあります。
※プロゲステロンには血液凝固因子の産生はありません。そのためプロゲステロン単剤のノルレボ®錠に血栓症の副作用の記載はありません。
血栓症には静脈が詰まる静脈血栓症(深部静脈血栓症や肺静脈血栓症)、動脈が詰まる動脈血栓症があります。血栓症が疑われる症状があったらすぐに救急医療機関を受診してください。
主な症状には突然の手足の痛み・脱力・麻痺、胸の痛み・息切れ、激しい頭痛・しゃべりにくい、突然の視力障害があります。また血栓症を防止するために、水分をしっかり摂る、体を適度に動かすなども必要です。
そして喫煙により血栓症のリスクが増加します。服用する人は禁煙が必須と言えるでしょう。
※ニコチンは血管を収縮させ、さらに動脈硬化も起こしやすくなります。
頻度が多い副作用は頭痛、悪心、不正出血です。ヤーズ®配合錠では頭痛41.0%、悪心29.8%、不正出血25.4%、ヤーズフレックス®配合錠では頭痛43.8%、悪心30.1%、不正出血23.7%です。これらの副作用はホルモンの変動が原因と言われています。場合は2~3ヶ月の服用でおさまることがほとんどです。服用を継続することでホルモンが安定していくからですね。
前回の記事と今回の記事でヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠の違い、一般名処方で注意が必要な事、どのような問題が起きるかが理解できたでしょうか?ヤーズ®配合錠とヤーズフレックス®配合錠の取り違えは2023年の薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業でも紹介されています。 ⇒ 共有すべき事例 剤形の選択間違え
また販売元のバイエル薬品株式会社にも2022年の時点で55件もの問い合わせがあります。それだけ間違えも多く、また理解していない人も多いのでしょう。この記事を読んでくれている方は2つの違いをよく理解し、1件も過誤を起こさないことにつながってくれたら嬉しいです。
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