リトゴビ錠を細かく解説

癌の薬

久しぶりに新薬の記事を書こうと思います。2023年6月26日に胆道癌治療薬のリトゴビ®錠の製造承認がされました。薬価収載や販売はまだですが、作用機序だけでなく、対象となる癌の種類など学ぶことが多いので紹介します。是非販売に備えて予習して下さい。

リトゴビ®錠の有効成分はフチバチニブといい、作用機序はFGFR阻害薬です。
FGFとは線維芽細胞増殖因子のことをいい、こFGFの受容体をFGFRといいます。FGFとはその名の通り細胞の分化や増殖、遊走に関与する因子です。(血管新生や創傷の治癒などの働きをします)

FGFはFGF受容体(FGFR)に結合すると、FGFRは2量体を形成します。FGFRはチロシンキナーゼ内蔵型受容体であり、このチロシンキナーゼが活性化します。チロシンキナーゼの働きにより様々なシグナル伝達が行われ、細胞の分化、増殖、遊走が行われることになります。


染色体にはFGFRを作り出す遺伝子情報が存在しますが、FGFR遺伝子が何からの原因で他の遺伝子と結合してしまうことがあります。このようにして出来た遺伝子を融合遺伝子といいます。

FGFR融合遺伝子から合成される異常なFGFRをFGFR融合タンパクといい、リガンド非依存的に2量体化します(つまりFGFがなくても2量体を形成します)。
これによりシグナル伝達が異常活性し、細胞の癌化の原因となったり、癌細胞の成長や増殖を促進します。

FGFRは1~4のサブタイプがありますが、様々な癌でFGFR1~4遺伝子の異常が関与している報告がされています。

FGFR1の異常 ⇒ 小細胞肺癌、非小細胞肺癌
FGFR2の異常 ⇒ 胃癌、胆道癌
FGFR3の異常 ⇒ 子宮頸癌
FGFR4の異常 ⇒ 膵臓癌

さて今回の記事にあるフチバチニブはFGFR融合タンパクのATP結合部位を不可逆的に阻害します。これによりFGFRのチロシンキナーゼ活性が抑制され、シグナル伝達が阻害され、抗腫瘍効果を示すわけですね。


ここまででフチバチニブの作用機序は理解できたでしょうか?
それではリトコビ®錠について見てみましょう。

・適応について
リトゴビ®錠の適応は以下のようになっています。

「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」

前述したように胆道癌はFGFR2の遺伝子異常が関与しています。フチバチニブはFGFR1~4のいずれにも作用しますが、現在効果が確認されているのはFGFR2融合タンパクによる癌のようですね。胆道癌でもFGFR2融合遺伝子が存在しない場合には効果がありません。そのため遺伝子検査によりFGFR2融合遺伝子の有無を確認しなければなりません。
※検体を提出してから結果が出る前、2~3週間の時間がかかるようなので、早い段階からFGFR2融合遺伝子があるかの検査を始めておく必要があります。

また胆道癌の薬物療法のファーストチョイスにはなりません。治癒切除ができず、化学療法を用いても増悪してしまった場合に限られます。

・用法用量について
「通常、成人には、フチバチニブとして1日1回20mgを空腹時に経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。」
となっております。リトゴビ®錠の規格は4㎎なので1回5錠です。なお服用タイミングは空腹時です。食後に服用すると吸収が低下するようですね。


・副作用について
重大な副作用に漿液性網膜剥離、網膜色素上皮剥離があります。どちらも1%程度です。FGFR2は網膜に多数発現します。そのためFGFR2の働きを阻害することで網膜に障害を起こしやすいのですね。
※他のFGFRも同様に発現するため、FGFR阻害薬では共通の副作用ですね
日頃から霧視、飛蚊症、視野欠損、光視症、視力低下がないか注意しなくてはなりません。

また高リン血症が91.3%と非常に高確率で生じます。これはフチバチニブがFGFR2だけでなく、FGFR1~4のいずれも阻害するためです。
FGF23は骨細胞で産生され、近位尿細管でリン輸送体の産生を抑制します。その結果リンの再吸収が抑制、また腸管でのリンの吸収を抑制し、血中リン濃度を低下させます。FGF23はFGFR1に結合し、薬理作用を生じます。

つまりFGFR1の阻害をすることで、FGF23の働きが阻害され、血中リン濃度が上昇してしまうわけです。
高リン血症は多くの場合は無症状です。しかし過剰なリンはカルシウムと結合し、カルシウムの正常な骨以外の組織への石灰化(異所性石灰化)を起こし、動脈硬化や臓器障害の原因になります。また低カルシウム血症を誘発する場合があります。また高リン血症の長期間持続した場合は、二次性副甲状腺機能亢進症を起こすこともあります。(カルシウムがリンと結合して石灰化し、低カルシウム血症になるため、それを補おうと副甲状腺機能亢進症が生じる)

なおリトゴビ®錠で高リン血症が生じた場合は炭酸ランタン水和物が有効です。ただし先発品のホスレノールには適応はなく、後発品の炭酸ランタン「ニプロ」®顆粒分包のみ「FGFR阻害薬投与に伴う高P血症改善」に適応があります。


以上でFGFR2とリトゴビ®錠については理解できたでしょうか?
FGFR2融合遺伝子陽性の胆道癌に有効な薬はペミガチニブ(ペマジール®錠)がありました。リトゴビ®錠は2種類目になります。近年は分子標的治療薬が多く登場しています。分子標的治療薬は作用機序が複雑なうえ、適応となる癌の範囲も非常に狭いです。覚えることが多くて大変ですが、なるべく分かりやすく理解してもらえるよう、なるべく沢山の分子標的治療薬を今後も紹介していきます。

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