補中益気湯 処方される人はどんな状態?

漢方薬

今年の夏はとても暑いです。その影響か分かりませんが、うちの薬局では補中益気湯を処方される患者さんが昨年より多い印象です。薬剤師の中にも”倦怠感=補中益気湯”と漠然と覚えている人も多いように感じます。今回の記事で補中益気湯について解説しますので、なぜ処方されるか、患者さんの状態はどんな状態か理解してもらえればと思います。


補中益気湯の対象となるのは一言でいうと脾の機能の低下による食欲不振や倦怠感によるものです。まずは脾について確認しましょう。

脾は五行説でいうと土にあたります。

脾の主な機能としては食べ物の消化、吸収と、それによる気・血の産生です。脾は土に相当するので、土が栄養を吸収して、それにより植物や鉱物を生み出しているイメージをすると分かりやすいと思います。

脾は暑邪の侵入、加齢、病気や手術により、その働きが低下してしまいます。また脾は本来は乾いた状態で力を発揮しますが、暑さで過剰に水分を摂取してしまうと脾の力が弱まり、消化吸収ができなくなってしまいます。(水浸しの土が新たに水を吸収できないイメージです)
つまり過度な暑さや、それに伴う大量の水分摂取で脾の機能が低下している人が多いのが納得できるでしょう。

脾の機能低下により気・血の産生が低下してしまいます。
気は生まれつき持ったものと、後天的に取り入れたものがあるとされています。
先天的に持った気とは両親から受け継いだものです。腎中の精気といい、腎に蓄えられています。五行説からすると腎は水です。生命体は水から産まれたと考えるとイメージしやすいでしょう。
一方、後天的に取り入れた気は食べ物や呼吸によって外部から得たものです。食べ物から得た気は水穀の精気(または水穀の精微)といい、呼吸から得た気は清気といいます。水穀の精気は脾によって食べ物から取りだされ、清気は肺によって大気から取り込まれます。

血は水穀の精気と清気、腎精が肺で合わさって作られます。

脾の働きが低下してしまうことで水穀の精気が取り出せなくなるので、結果として血の産生も低下してしまうのが分かりますね。

ここまでで脾の機能低下で気・血が不足してしまう過程が分かったでしょうか?
気が不足すると体の疲れやすくなり、虚弱体質の原因になります。また防御作用があり、病気の原因(邪)が体内に侵入するのを防ぎます(体表面を衛気が覆って体を守っている)。そのため気の不足により感染症にかかりやすくなります。
その他にも固摂作用があり、体液が血管から出るのを防いでいます。そのため気の不足により多汗症を生じることがあります。
血が不足すると倦怠感や虚弱体質の原因になったり、貧血や低血圧を生じることがあります。

また脾は昇清機能といい、内臓を持ち上げる機能を持っています。そのため脾の機能低下により内臓が下がってしまいます(これを中気下陥といいます)。これにより胃下垂、脱肛、慢性的な下痢の原因になります。

ここまでで脾の機能低下により、どのような症状になるか分かったでしょうか?
ここで補中益気湯の効能効果を見てみましょう。

消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:
夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症


ここまでで紹介した症状と一致していますね。
それでは補中益気湯を構成する生薬がどのようなものか見てみましょう。生薬は以下のようなものです。
「人参、黄耆、白朮、当帰、陳皮、大棗、柴胡、甘草、生姜、升麻」

まず一番の原因である脾の機能低下に人参、黄耆、白朮、甘草、生姜が用いられます。
(ツムラ以外の製品では白朮が含有されていますが、ツムラは蒼朮です)
人参、黄耆、甘草、白朮は補気剤であり、さらに人参は消化器の機能を亢進します。蒼朮は体表面の余分な水分を取り除き、白朮は利尿により消化管の余分な水分を取り除きます。
黄耆は特に体表面において補気剤として働き、体表面における気の循環も改善します。これにより皮膚症状の改善や、感染症からの防御作用をしめします。
陳皮は理気薬(気滞を改善する生薬)であり、当帰は補血薬、活血薬(血の巡りをよくする生薬)、大棗は補血薬であり、柴胡・升麻は升提作用(しょうていさよう 気の低下により落ちた内臓を引き上げる作用)をもちます。

補中益気湯の含有生薬で、前述した症状のいずれにも対応できるのが分かると思います。
ここで1点疑問に思った人もいるでしょう。脾の機能低下による症状を改善するなら六君子湯も同様のはずです。六君子湯の含有生薬と効能効果は以下のようになっています。

「人参、蒼朮、陳皮、大棗、甘草、生姜、半夏、茯苓」
胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐


半夏は気を下げ、上焦(体の上部)に滞留した水(水滞)が逆流してしまうのを改善します。そのため悪心嘔吐、めまい、痰、鎮静に有効です。
茯苓も利水薬であり、体に溜まった余分な水分を尿として排出します。また健胃作用、安神作用(精神を安定させる作用)があります。

補中益気湯と六君子湯を比較してみると、補中益気湯は脾の機能低下と、それによる全身的な症状に用いられるのが分かります。これに対して六君子湯は消化器症状に特化して使われています。
暑さや手術などで脾の機能低下という原因は一緒ですが、食欲不振や胃もたれ、吐き気などが目立つ場合は六君子湯、体力の低下や倦怠感、風邪をひきやすいなどは補中益気湯といった感じです。この辺をイメージしておくと、これらが処方された患者さんの状態が推測しやすいと思います。

五行説、含有されている生薬をメインに解説しましたが、漢方は本当に難しいです。柴胡・升麻が含まれていない六君子湯がなぜ胃下垂に有効なのか、半夏・茯苓が含まれている六君子湯になぜ精神症状に対して適応が無いのか、この辺は分かりませんし、人参や黄耆がなぜ補気作用があるかなど、生薬が具体的にどう働いているかはいまだに謎です。漢方を完全に理解できることは永遠にないでしょうが、ある程度変わっていることを沢山記事にして、少しでも理解を深めていきたいです。

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