麦門冬湯 東洋医学的な考えで解説

漢方薬
昨年までは風邪をひいたくらいでは受診する患者さんがほとんどいませんでした。病院に行ったことによりコロナに感染するリスクが高いと思われ、受診抑制していた人が圧倒的に多かったみたいですね。しかし最近は風邪患者も少しずつ増えてきました。さすがにコロナに対する慣れができたのか、外出する人が増えるのと同じように、受診する患者も増えてきた気がします。
さて風邪患者で咳を伴う人は沢山います。この場合アスベリン®やメジコン®、あるいはムコダイン®が処方されることが多いです。しかし一部の人には麦門冬湯が処方されることがあります。麦門冬湯がどういう人に処方されるか理解していない薬剤師は非常に多い気がします。添付文書を見ると「痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支喘息」と書いてあるので、ただ鎮咳去痰薬とだけ覚えている人が多かったです。漢方は理解が難しいですが、分かると非常に面白いものでもありますので、是非今回の記事を参考に理解を深めて欲しいと思います。

まず結論から言うと麦門冬湯は「乾いた咳(空咳)」に用います。
この乾いた咳が起きるメカニズムについて学びましょう。今回は大学で習ったような病態生理学や薬理学ではなく、東洋医学の考えを採用します。

乾いた咳の原因の1つに脾胃の乾燥が考えられています。
東洋医学は人体の内臓を五臓六腑と考えています。五臓とは心・肺・脾・肝・腎のことであり、西洋医学の臓器とは異なり、機能により大まかに体を分けたものと考えて下さい。

心:血を全身に送り、精神活動をつかさどる。
肺:呼吸をする。水(津液)の流れをコントロールしている。
脾:食べ物を消化・吸収する。これにより気・血・津液を作り出す。
肝:血を貯蔵し、全身への血の流れと量をコントロールする。
腎:水の代謝をコントロールする。精を蓄える。肺と協力して気を取り込む。

また東洋医学では口から肛門、膀胱までが一本の管になっていると考えられており、これを部位によって六腑と分けています。胃・小腸・大腸・胆・膀胱・三焦です。六腑は食べ物から栄養素を取り出す働きをしており、この取り出された栄養素が五臓によって気・血・津液・精を作り出し、貯蔵、循環しているとされています。

五臓と六腑は密接に関係しており、心は小腸、肺は大腸、脾は胃、肝は胆、腎は膀胱と対をなしています。※三焦は心臓を包む膜である心包と対をなしており、五臓にまたがって津液を循環させていると考えられています。

東洋医学では万物に陰陽があると考えられています。脾胃に陰が不足することによって、脾胃が熱をを持つようになります。この原因には水分の不足などがあげられます。脾胃の陰が不足いて陽が強くなった結果、熱は肺に及びます。これは五行説により、脾が肺を機能を高めるためです。
※五行説については別の記事で詳しく解説します。

五行説
結果として肺が熱を持つことになります。すると肺が乾燥し、痰の粘調化、乾いた咳を起こします。また肺が熱を持った結果、気が上昇することになり、気管支炎や喘息を起こすことになります。

麦門冬湯に最も多く含まれる麦門冬は肺や心、胃に潤いを与える作用があり、肺や胃の乾燥を和らげます。結果として咳や痰を抑えることになります。

麦門冬湯に2番目に多く含まれる半夏は肺や胃を暖め乾かす作用があります。麦門冬とは逆の作用になりますが、半夏には気逆(本来下に降りるはずの気が上がってくる)を抑える作用もあります。これにより気管支炎や喘息に有効なわけですね。なお半夏が脾胃を乾燥し、気逆を抑えるので悪心や嘔吐によく用いられますね。(半夏瀉心湯、半夏厚朴湯など)
麦門冬湯がどのように用いられるかある程度は分かりましたかね?
ちなみにACE阻害薬の副作用の空咳は通常の鎮咳去痰薬ではあまり効果はありませんが、麦門冬湯は効果をしめします。ACE阻害薬の空咳はキニナーゼⅡの阻害によりブラジキニンが増加し、気管支平滑筋が収縮するためと考えられていますが、もしかしたら肺の乾燥や気逆があるのかもしれませんね。

漢方は全てを完全に理解することは不可能に近いですし、今だに何で効くか分かっていないものも多いのも確かです。しかし東洋医学的考えを理解すればある程度は分かるようになります。次回以降の記事では他剤を例にとりながら、なるべく分かりやすく書いていきます。記事が良かったと思ったら、ランキングの応援お願いします。

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