ロンサーフ配合錠 作用機序からレジメンまで

癌の薬

先日うちで大腸癌の薬を服用している患者さんが、癌細胞が大きくなっているため処方変更しました。
それまでのレジメンはXELIRI 療法(カペシタビン+イリノテカン)だったのですが、今回よりロンサーフ®配合錠が用いられることになりました。ロンサーフ®配合錠を扱うのは数年ぶりであり、また飲み方も特徴のある薬なので、他のスタッフに覚えてもらうためにも、自分自身が復習するためにも記事にして紹介しようと思います。


まず初めにロンサーフ®配合錠はトリフルリジンとチピラシルの合剤です。トリフルリジンが悪性腫瘍の代謝拮抗作用をもち、チピラシルがトリフルリジンの分解を抑制します。
トリフルリジンとチピラシルの含有量によりロンサーフ®配合錠T15(1錠中にトリフルリジン15mg、チピラシル7.065mg)とロンサーフ®配合錠T20(1錠中にトリフルリジン20mg、チピラシル9.42mg)の2種類が存在します。※トリフルリジンとチピラシルはモル比で2:1になります

・作用機序について
前述したようにロンサーフ®配合錠はトリフルリジンとチピラシルの合剤です。この2つの有効成分についてそれぞれ見ていきましょう。まず初めにトリフルリジンについてです。
トリフルリジンはピリミジン代謝拮抗薬といい、DNA合成に必要なピリミジン塩基のチミンに似た構造をしています。

※DNA合成に必要な塩基はプリン塩基のアデニン(A)、グアニン(G)、ピリミジン塩基のシトシン(C)、チミン(T)です。アデニンとチミン、グアニンとシトシンが塩基対を形成します。
トリフルリジンはチミジル酸キナーゼにより代謝され、DNAの複製時にチミンの代わりに取り込まれることにより、DNAが機能障害を起こし、その結果細胞死を起こします


トリフルリジンの作用機序が分かったところで次にチピラシルの働きについて確認しましょう。
チピラシルはトリフルリジンの代謝を抑制します。トリフルリジンは肝臓でチミジンホスホリラーゼという酵素によって分解されます。チピラシルはこのチミジンホスホリラーゼを阻害することで、トリフルリジンの分解を抑制し、結果としてトリフルリジンの作用時間が長くなるわけですね。


・効能、効果について
ロンサーフ®配合錠が使える癌は以下のものです。
・治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌
・がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌

大腸癌か胃癌ということになりますが、切除が出来ない場合あるいは他の治療法を行っても再発してしまった場合ということになります。いずれにしても治療のファーストチョイスにはならないということです。

・用法、用量について
用法と用量がロンサーフ®配合錠の最も分かりにくいところです。まずは用量についてですが、これは体表面積によって決まります。添付文書に記載されている量は以下の通りです。

1回量として、体表面積1㎡あたりトリフルリジンとして約35mgとします。これを1日2回の服用です。
前述したようにロンサーフ®配合錠はT15(トリフルリジンが15mg)とT20(トリフルリジンが20mg)があるので、この組み合わせが必要になってくるわけです。
例えば体表面積が1.6㎡の場合なら1回あたりトリフルリジンが55mgになります。この場合T15を1錠、T20を2錠にするわけですね。
通常ロンサーフ®配合錠のような体表面積で用量が決まる薬の処方箋には、対象患者の体表面積が記載されているのが普通です。しかしもし記載されていなかった場合は自分で算出しないといけません。
体表面積は身長と体重から近似式を用いて算出します。有名な近似式には以下のようなものがあります。

藤本式:身長0.663×体重0.444×0.008883
新谷式:身長0.725×体重0.425×0.007358
DuBois式:身長0.725×体重0.425×0.007184


これらの計算を自分で行うことはできないので、必ず自動計算してくれるサイトをPCにブックマークしておきましょう。
⇒ ke!san 生活や実務に役立つ計算サイト 体表面積(BSA)

用法は28日間で1コースとし、これを繰り返します。服用の仕方は最初の14日間は5日間服用して2日間休薬、さらに5日間服用して2日間休薬します。次の14日間は休薬です。

1週目から2週目になるときが注意が必要ですね。2回目の5日間服用が終わったら、計16日間休薬するので間違えやすいです。カレンダーに記載するなどして、服用する日・しない日を毎回確認しましょう。
なお大腸癌においてロンサーフ®配合錠をもちいるレジメンは、「ベバシズマブ+ロンサーフ療法」といい、ベバシズマブ(アバスチン®点滴静注用)と併用します。これは初日と15日目にベバシズマブを点滴静注します。
※胃癌でロンサーフ®配合錠を用いる際のレジメンは、ロンサーフ®配合錠の単独療法になります。

2週目にベバシズマブを点滴したら、そこから14日間休薬と覚えておけば忘れにくいかもしれません。

なおロンサーフ®配合錠は必ず食後に服用します。空腹時に服用するとAUCは同じですが、Cmaxは上昇します。Cmaxが上昇と好中球の減少に相関性が認められているので、感染症のリスクが高くなります。

・副作用について
最も多いのは骨髄抑制でしょう。特に好中球、白血球の減少はほとんどのケースで見受けられます。頻繁な採血を行い、感染症のリスクを常に気にしなくてはなりません。
自覚症状のある副作用として代表的なものは下痢、悪心・嘔吐、貧血、口内炎といったものがあります。特に下痢は頻度が高く、20%以上の頻度で生じます。酷い時はロペラミドなどの止瀉薬が必要になります。
なお副作用により「休薬基準」に該当する場合は一旦休薬し、「投与再開基準」まで回復したら投与を再開することになります。「休薬基準」「投与再開基準」は以下のようになります。



今回の記事でロンサーフ®配合錠については大体分かったでしょうか?
癌化学療法は基本的にそれぞれの病院がレジメンを用意しており、ホームページ等で公開されていることも多いです。複数の抗がん剤の組み合わせで覚えることが多くて大変ですが、レジメンという決まった治療計画である以上、しっかり理解すれば今度どのように治療していくか、患者さんの注意すべき箇所は何かが見えてきやすいというメリットもあります。抗がん剤を新たに採用する度に記事にして、読者の方と一緒にじっくり学んでいきたいと思います。

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