ウプトラビ錠に小児用0.05mgが販売

循環器系の薬

少し前の情報になりますが、2025年03月19日にウプトラビ®錠の小児用0.05mgが販売されました。記事が書き途中のままで公開が遅くなってしまいましたが、ようやく書き終わりましたので公開したいと思います。ウプトラビ®錠と一緒に対象となる疾患についても確認してもらえればと思います。


・ウプトラビ®錠について
ウプトラビ®錠の有効成分はセレキシパグといい、プロスタサイクリン(プロスタグランジンI2 以下PGI2)受容体刺激薬です。
PGI2受容体の刺激によりアデニル酸シクラーゼ(AC)の活性化が起こり、ATPからcAMPの産生の促進⇒Aキナーゼの活性化⇒ミオシン軽鎖キナーゼの不活性化といったプロセスにより血管平滑筋が弛緩します。
※この他にもPGI2受容体の刺激により血小板凝集抑制が生じます。

ウプトラビ®錠の効能・効果は以下のようになっています。

・肺動脈性肺高血圧症
・外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症


いずれにしても肺高血圧症に用いることになります。ここで肺高血圧症についておさらいしましょう。


・肺高血圧症について
肺高血圧症は心臓から肺に血液を送る肺動脈の流れが悪くなり、肺動脈の血圧が高くなる疾患です。
※平均肺動脈血圧が25mmHg以上とされています。

心臓は左心室からだけでなく、右心室からも血液を送り出しており、右心室からは肺に向かって血液を送り出しています。

全身を循環し二酸化炭素を多く含んだ血液(静脈血)は上大静脈・下大静脈から右心房へ運ばれます。右心房から右心室に送られた静脈血は肺動脈を介して肺に送られ、肺で酸化炭素と酸素のガス交換が行われます。血液は酸素を多く含んだ血液(動脈血)となり、肺静脈から左心房に送られます。左心房から左心室に送られた動脈血は大動脈を介して全身に送られ、これを繰り返します。
右心室⇒肺⇒左心房の血液循環を肺循環といい、左心室⇒全身⇒右心房の血液循環を体循環といいます。


肺動脈圧が高くなると心臓に負担がかかるため、息切れ、倦怠感、動悸、浮腫、胸痛といった症状が表れます。また肺の血管が破れることで気管支に血液が流れ込み、血痰や喀血といった症状がでることがあります。重症例では失神を起こすこともあります。

肺高血圧症は病変の部位により5つの群に分類されます。


肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺動脈の孿縮や血管壁の肥厚などの基質的病変により肺動脈の血圧が高くなる疾患です。
慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)とは血栓が肺動脈に詰まることにより、肺動脈が慢性的に狭窄、閉塞することで肺高血圧症を生じる疾患です。
※慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対する根治療法として肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)がありますが、PEAが出来なかったり、PEAでも血栓が取り除ききれなったり、あるいは再発してしまうような場合にウプトラビ®錠が用いられるわけですね。


ここまででウプトラビ®錠と肺高血圧症について理解できたでしょうか?
これまでウプトラビ®錠の規格は0.2mgと0.4mgの2つでした。今年の3月より小児用0.05mgが新たに追加したわけです。それではウプトラビ®錠における基本的事項と小児用0.05mgの違いについて確認しましょう。

・効能、効果について
ウプトラビ®錠小児用0.05mgの効能・効果は肺動脈性肺高血圧症のみです。CTEPHに適応はありません。

・用法、用量について
用法・用量については以下のようになっています。

「2歳以上の幼児又は小児には、セレキシパグとして下表の開始用量を1日2回食後に経口投与する。忍容性を確認しながら、7日以上の間隔で、下表の増量幅で最大耐用量まで増量して維持用量を決定する。」
※忍容性とは副作用で使えなくなる量までという認識で結構です。投与初期に頭痛、下痢等の副作用が多く報告されており、小児においては嘔吐も多く報告されています。


体重により使用量が異なるので注意が必要ですね。使用する際は患者の体重確認が必須となります。
なおウプトラビ®錠の成人量は1回0.2mgを1日2回食後投与で、忍容性を確認しながら7日以上の間隔で1回量として0.2mgずつ増量して維持用量を決定します。最高用量は1回1.6mgです。

なお0.05mg錠は0.2mg錠、0.4mg錠と組み合わせて使えません。維持用量に達するまでは0.05mg錠を使います。維持用量に到達した場合は、0.2mg錠、0.4mg錠で調節可能な場合のみ、0.2mg錠、0.4mg錠に切り替えが可能です

・肝・腎障害患者への投与について
セレキシパグとその活性代謝物の脱メチルスルホニルアミド体(MRE-269)はCYP2C8とCYP3A4で代謝されます(MRE-269はグルクロン酸抱合されます)。このことからセレキシパグは肝代謝型であることが分かります。
そのため肝機能障害がある患者では注意が必要となります。重度の肝障害患者では使用が禁忌となり、 軽度又は中等度の肝障害患者では血中濃度が上昇することが確認されています。

※肝機能障害の重症度はChild-Pugh分類で判定します。
Child-Pugh分類とは肝硬変の重症度を判定するもので、下記の表の5項目の合計点数でGrade(重症度)を分類します。


Grade Cの場合は使えませんが、Grade A,Bについては禁忌ではありませんので、血中濃度や副作用を確認しながら使うしかないでしょう。

腎機能障害患者への使用については以下のような記載があります。
「重度の腎障害(eGFR:15~29mL/min/1.73m2)のある患者(透析中の患者を含む)本剤の血中濃度が上昇することが認められている。」
重度腎障害では血中濃度が上昇することは認められていますが、禁忌ではありません。

肝・腎障害患者の血中濃度のデータは以下のようになっています。


腎障害の患者への影響は肝障害患者に比べて小さいと言えるでしょう。軽中等度の腎障害の場合はあまり気にしなくて大丈夫でしょう。

・専用おくすりケースがある
ウプトラビ錠®小児用0.05mgの包装はバラ錠のみです。PTPはありません。また前述したように使用量は忍容性により徐々に増量することになり、体重によって開始用量も異なり、使用量は患者によってバラバラです。そのため使用量の間違いを起こしやすい薬といえます。そのため専用のおくすりケースがあり、これを使って患者が1回量を正確に服用できるようにします。
実際の使い方は文章にすると難しいので、日本新薬のHPの製品情報から動画で確認するのが一番よいでしょう。
⇒ [ウプトラビ®] 小児用おくすりケース操作説明動画


肺高血圧症治療薬にはプロスタサイクリン受容体刺激薬の他にエンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ‐5阻害薬、グアニル酸シクラーゼ刺激薬があり、作用機序の異なる薬の併用療法が用いられることが多いです。小児のPAH治療薬は他の作用機序の薬は経口薬がありますが、プロスタサイクリン受容体刺激薬においては小児用の経口薬がありませんでした(注射液があります)。しかし今回ウプトラビ®錠小児用0.05mgが販売されたことで、全ての作用機序の薬で小児に使用可能な経口薬が揃ったことになります。このように小児PAHの治療に限らず、患者負担が少しでも軽減できるのは嬉しいことです。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ
にほんブログ村

記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。

0

コメント

タイトルとURLをコピーしました