コレクチム軟膏

免疫系の薬
いつもうちの薬局に来てくれている患者さんで、うちの門前医院の他に皮膚科に通っている患者さんがいます。その人のおくすり手帳を見たら、他薬局でコレクチム軟膏をもらっていました。どうしたのかと聞いたら、最近になって薬が変わり新しく使うことになったようです。うちは皮膚科の門前ではないので、なかなかこういう皮膚科の新しい薬に触れる機会が少ないです。今回はいい機会なので、コレクチム軟膏について触れてみたいと思います。

コレクチム®軟膏の有効成分はデルゴシチニブといい、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬というアトピー性皮膚炎治療薬です。

まずはJAKについて詳しく見てみましょう。

アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア能の低下により外部からの刺激を受けやすくなっています。外部刺激によりマクロファージやTh2細胞からTNFαやインターロイキン(IL-4,IL-6、IL-13、IL-31)などのサイトカインが放出されます。

JAKはこれらのサイトカイン受容体に結合するチロシンキナーゼであり、サイトカインが受容体に結合することにより活性化します。
JAKにはJAK1,JAK2、JAK3、Tyk2のサブタイプが存在します。サイトカイン受容体にはJAKが2分子結合しており、サイトカインが受容体に結合すると、JAKがリン酸化され活性化します。活性化したJAKはSTATという転写因子をリン酸化し活性化します。活性化したSTATは最終的に2量体を形成し、これが核内に移行しDNAに結合します。これによって様々な遺伝子の発現を誘導します。
この結果、炎症反応の促進、好酸球の活性化、痒みの発現、皮膚のバリア機能低下などの反応が起きます。
デルゴシチニブ作用機序
デルゴシチニブはJAKを阻害することにより、STATによる遺伝子の発現を抑制し、アレルギー反応を抑える作用を示します。
※JAK1,JAK2、JAK3、Tyk2のいずれも阻害します。
内服のJAK阻害薬には抗リウマチ薬のトファシチニブ(ゼルヤンツ®)がありますね。2020年6月の発売当初は成人用の0.5%しかありませんでしたが、2021年3月に小児用の0.25%が承認されました(発売はまだです)。ちなみに0.5%は16歳から、0.25%は2歳から使用可能です。

アトピー性皮膚炎の外用薬としてはタクロリムス(プロトピック軟膏®)以来21年ぶりの新作用機序の治療薬になります。外用ステロイド、プロトピック®軟膏との違いを確認しながら、コレクチム®軟膏の特徴を見てみましょう。

・刺激感、灼熱感がない

プロトピック®軟膏は使い始めは使用部位が火照るような感じがし、ヒリヒリします。私の実体験からしますと顔に塗った際、塗った個所が熱くなりポカポカしました。ちょうど炎天下で日焼けをしている感じでした。2日ほどしたら症状は治まり、気にならなくなりました。皮膚のバリア能が悪い時に塗るとこの症状が起き、バリア能が改善するにしたがって消えていくようです。その後プロトピック®軟膏は使わなくなり、プロペトだけでよくなりましたが、たまに皮膚の状態が悪い時に塗ると、また同じ症状が出たのを覚えています。
コレクチム®軟膏はプロトピック®軟膏のような刺激感、灼熱感はないとされています。

・粘膜、びらんには使えない

粘膜やびらん面では吸収が促進するため使用できないとされています。これはプロトピック®軟膏でも同じですね。外用ステロイドについてはモノ次第ですね。リンデロンVG®軟膏はやけどなどのびらん部位に使えますし、プレドニン®眼軟膏は眼粘膜に使えます。アンテベート®軟膏などは用いないですよね。

・注意すべき副作用は感染症

添付文書を見ると毛包炎、カポジ水痘様発疹、口腔ヘルペス、単純ヘルペス、帯状疱疹、膿痂疹といった副作用が並びます。これらは全て感染症によるものです。サイトカインのによる炎症反応を抑制するのですから、免疫反応を弱めて当然ですね。

・外用ステロイドとの併用はOK

コレクチム®軟膏の使用について日本皮膚科学会から安全使用マニュアルが出ています。それによると臨床試験段階で外用ステロイドとの併用は有害事象が増加しなかったとされています。そのため外用ステロイドとの併用は可能と考えられています。一方タクロリムス軟膏との併用は臨床試験段階で禁止されていたようです。同一部位に使用した際のデータはないようですが、両方とも免疫抑制作用を有するので、併用により免疫抑制作用が強く現れる可能性を危惧しています。
どちらの薬と併用するにしても部位により使い分ける必要がありそうです。

コレクチム®軟膏は皮膚科の先生からは評判がいいみたいです。プロトピック®軟膏のような刺激感もなく、ステロイドのような膚委縮や毛細血管拡張などの副作用も少ないです。ステロイド、タクロリムスに次ぐ第三の治療薬としてアトピーの治療を変えていって欲しいものです。

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