ループス腎炎治療薬 ルプキネスカプセルについて

免疫系の薬

明けましておめでとうございます。新年1回目の記事は新薬の紹介です。既に発売されてから日がたっていますが、なかなか記事の更新をする暇がなかったのでご容赦ください💦
2024年11月20日に新しい免疫抑制薬のルプキネス®カプセル発売されました。今回はこのルプキネス®カプセルと対象となる疾患について紹介しようと思います。

・作用機序について
ルプキネス®カプセルの有効成分はボクロスポリンといいます。
ボクロスポリンはその名前から分かるようにシクロスポリンと同じ作用機序を示します。
※ボクロスポリンはシクロスポリンの分子内のアミノ酸-1残基に、二重結合をもつ炭素を1つ追加した構造式をしています。
この作用機序について見てみましょう。
Th1細胞(ヘルパーT細胞)は抗原提示細胞から抗原提示を受けるとCaチャネルの活性化により細胞内Ca濃度が上昇します。Caはカルシニューリンという酵素を活性化します。活性化したカルシニューリンは転写調節因子のNFATを脱リン酸化し、活性化します。活性化したNFATによりDNAの転写が調節され、ILやINFγが産生されます。こうして産生されたIL、INFγによって免疫反応が活性化するわけですね。
シクロスポリンやボクロスポリンはシクロフィリンというタンパク質と結合し、この複合体がカルシニューリンを不活性化します。これによりILやINFγが産生されなくなり、免疫反応が抑制されます。カルシニューリンを阻害するためカルシニューリン阻害薬(Calcineurin-inhibitor :CNI)と呼ばれます。

※シクロフィリンなどの細胞質内受容体タンパクをイムノフィリンと総称します。タクロリムスはFKBPというイムノフィリンに結合して同様の作用機序を示します。

・適応について
ルプキネス®カプセルの適応はループス腎炎のみです。
ここでループス腎炎について確認しておきましょう。ループス腎炎は全身性エリテマトーデスによって生じる腎障害の一種です。

※全身性エリテマトーデス(SLE)
遺伝因子・環境因子など様々な原因で免疫異常をきたし、その結果自己抗体が産生され、産生された自己抗体が免疫複合体を形成し、この免疫複合体が全身の組織に沈着して、多臓器障害を生じる疾患。

ループス腎炎はSLEに起因する免疫複合体が糸球体に沈着し、炎症を誘発することで糸球体に障害が生じる疾患です。SLEの50~60%ほどがループス腎炎を生じます。
タンパク尿、自覚症状のない血尿(顕微鏡的血尿)、ネフローゼ症候群などを生じます。これらはいずれも糸球体の障害によるものですね。またタンパク尿により低タンパク血症となり、その結果浮腫を生じ、またこれにより高血圧も引き起こします。

・用法、用量について
添付文書には以下のように記されています。
「通常、成人にはボクロスポリンとして1回23.7mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。」
ルプキネス®カプセルの規格が7.9mgなので、1回3カプセルを1日2回ですね。
食前食後については書かれていません。ただし吸収の項目については食事の影響として
「健康成人にボクロスポリン23.7mgを単回経口投与した時、絶食時投与に比べ食後(高脂肪食)投与ではCmax及びAUCはそれぞれ0.91倍及び1.14倍であった」
と書かれています。食事により吸収速度は穏やかになり、AUCは微増といった感じでしょうか?大きな差はないので、食前食後のどちらでも可能です。

ボクロスポリンが肝代謝型か腎排泄型かは明記されていません。
ただし後述しますがCYP3A4で代謝されることは分かっています。また”用法及び用量に関連する注意”に次のような記述があります。

・重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)への投与は可能な限り避け、やむを得ず投与する場合は、1回15.8mgを1日2回投与すること。
・軽度又は中等度の肝機能障害患者(Child-Pugh分類A及びChild-Pugh分類B)では、1回15.8mgを1日2回投与すること。
・中程度のCYP3A4阻害作用を有する薬剤と併用する場合、1日量を23.7mg(朝15.8mg、夜7.9mg)とすること。



以上のことから肝臓での代謝、腎臓からの排泄の両方が関与しており、やや肝代謝の方が優位といえるでしょう。

・単剤では使わない
”用法及び用量に関連する注意”に以下のような記載があります。

「本剤の投与開始時は、原則として、副腎皮質ステロイド剤及びミコフェノール酸 モフェチルを併用すること。」

ループス腎炎の治療の基本はステロイド(プレドニゾロン)です。これで効果不十分の時にシクロホスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、リツキシマブなどを投与します。
ルプキネス®カプセルはステロイド+ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®カプセル)と併用して用います。
ステロイド+ミコフェノール酸モフェチルの治療に追加することで、疾患のコントロールをするだけでなく、ステロイドの投与量の減少も期待できるわけです。

・併用禁忌が多い
前述したようにボクロスポリンはCYP3A4で代謝されます。そのためCYP3A4を強く阻害する薬とは併用禁忌になります。また免疫抑制剤であるので、生ワクチンを接種すると接種したワクチンが発症する恐れがあります。そのため生ワクチンも併用禁忌です。

あらゆる場面で頻繁に使用されるクラリスロマイシンが併用禁忌であることは必ずおさえておきましょう。また前述したようにCYP3A4を中程度に阻害する薬を併用した場合は薬用量が変わりますので、この辺も注意が必要です。
ただしシクロスポリンで併用禁忌になっているロスバスタチン、ピタバスタチン、ぺマフィブラート、アリスキレンなどは併用禁忌になっていません。シクロスポリンより使いやすいと言えるでしょう。

・副作用について
重大な副作用として感染症が10.1%あります。これは免疫抑制剤なので当然でしょう。
糸球体濾過率減少が26.2%あり、急性腎障害が3.4%あります。その他に高血圧症が20.6%あります。
CNIの共通の副作用としては血管収縮、高カリウム血症、高血糖があります。いずれにしても定期的な採血を行って十分なモニタリングが必要と言えるでしょう。


今回の記事でルプキネス®カプセルについて理解できたでしょうか?従来のシクロスポリン(ネオーラル®、サンディミュン®)に比べて適応は少ないですが、相互作用、副作用の面からすれば比較的使いやすくなったといえます。今年も新薬情報は既存の薬と比べてどうなっているのかを書いて紹介していこうと思います。

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