前回に引き続き新薬の情報です。2024年12月19日に不眠症治療薬のクービビック®錠が発売されました。ベルソムラ®錠、デエビゴ錠®に続く3つ目のオレキシン受容体拮抗薬です。クービビック®錠がベルソムラ錠やデエビゴ®錠と比べてどう違うのかを中心に紹介していきます。
・作用機序について
クービビック®錠の有効成分はダリドレキサントといい、オレキシン受容体拮抗作用を示します。
オレキシンは視床下部で産生される神経ペプチドであり、オレキシンOX1受容体、OX2受容体を刺激します。
オレキシン受容体はGタンパク共役型受容体であり、Gs,Gi,Gqのいずれのサブタイプもあります。どのタイプが睡眠に関与するかはまだ解明されていません。
オレキシン受容体を刺激することによりドパミン神経、ノルアドレナリン神経、ヒスタミン神経などが刺激され、脳が興奮、覚醒するとされています。
つまりオレキシン受容体を遮断することによって脳の興奮、覚醒が抑えられ、睡眠を誘発することになります。
これまでのオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント)と同様の作用機序ですね。
・用法、用量について
クービビック®錠の規格は25mgと50mgです。添付文書には
「通常、成人にはダリドレキサントとして1日1回50mgを就寝直前に経口投与する。なお、患者の状態に応じて1日1回25mgを投与することができる」
と書かれています。通常量は50mgになります。
しかしベルソムラ®錠も通常量は20mgのところ、実際の現場では15mgが頻用され、デエビゴ®錠も通常量が5mgのところ、2.5mgが頻用されていることからして、おそらく25mgも頻繁に用いられることになるでしょう。
・併用禁忌について
ダリドレキサントはCYP3Aによって代謝されます。そのためCYP3Aを強く阻害する薬とは併用禁忌になります。この辺はスボレキサントと同様です。レンボレキサントは併用禁忌はありませんので、相互作用の観点からはレンボレキサントは最も優れていると言えるでしょう。
※デエビゴ®錠はCTP3Aを阻害する薬とは併用禁忌ではありませんが、”用法及び用量に関連する注意”に「CYP3Aを中程度に阻害する薬剤との併用又はCYP3Aを強力に阻害する薬剤との併用(フルコナゾール、エリスロマイシン、ベラパミル、イトラコナゾール、クラリスロマイシン等)は、患者の状態を慎重に観察した上で、本剤投与の可否を判断すること(なお、併用する場合は1日1回2.5mgとすること)」との記載があります。CYP3A阻害薬との併用時は2.5mgになることに注意しましょう。
クービビック®錠にも「中程度のCYP3A阻害剤と併用する場合は、本剤の血漿中濃度が上昇し、傾眠等の副作用が増強するおそれがあるため、患者の状態を慎重に観察した上で、本剤投与の可否を判断すること。なお、投与する場合は、1日1回25mgとし、慎重に投与すること」と記載されています。CYP3A4を中程度に阻害するベラパミル、ジルチアゼム、エリスロマイシンなどの併用の際は注意が必要です。
・作用時間について
Tmax、T1/2にを元に比べてみましょう。
スボレキサント Tmax:1~1.5時間 T1/2:10~12時間
レンボレキサント Tmax:1~1.5時間 T1/2:約50時間
ダリドレキサント Tmax:0.5~1時間 T1/2:7~9時間
以上のことから分かるように、オレキシン受容体拮抗薬の中では最も効き目が早く、また消失も早いことが分かります。そのため入眠困難の患者には使いやすいといえます。中途覚醒のある患者には向いていないでしょう。また日中の転倒が心配なケースではクービビック®錠が適しているといえます。
・肝機能障害患者は注意、腎機能障害患者には使いやすい
前述したように、主な代謝は肝臓によって行われます。そのため肝機能障害のある患者には注意が必要です。添付文書にも以下のような記載があります。
・肝機能障害患者重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)を有する患者本剤を投与しないこと。本剤の血漿中濃度が上昇するおそれがある。また、重度の肝機能障害患者への投与経験はない。
・中等度の肝機能障害(Child-Pugh分類B)を有する患者本剤の血漿中濃度が上昇するおそれがある。
肝機能障害患者に用いる時はChild-Pugh分類の確認が必要です。
これに対して腎機能障害患者の項目には以下のような記載があります。
腎機能障害患者には問題なく使えそうです。
ベルソムラ®錠、デエビゴ®錠では重度腎機能障害患者ではわずかに排泄が遅れ、AUCが高くなる傾向にあります。腎機能に問題のある患者ではクービビック®錠が最も適しているでしょう。
今回の記事でクービビック®錠について理解できたでしょうか?
従来のオレキシン受容体拮抗薬と比べて大きく変わっているわけではありませんが、多少の違いでも選択肢が広がったのはよいことでしょう。デエビゴ®錠は相互作用の少なさから今後も使われると思いますが、ベルソムラ®錠はクービビック®錠が本格的に使われ始めたらあまり必要とされない気もします。不眠症治療薬の市場シェアがどのように変化していくか注目です。
にほんブログ村
記事が良かったと思ったらランキングの応援をお願いします。
コメント