今年はニュースでも騒がれているようにインフルエンザが大流行しています。先日の休日当番を行った際は何十人とインフルエンザ患者、コロナ患者が押しかけて大変でした💦
その際に以下のような処方があり、うちの薬剤師が処方医に疑義照会してくれました。
12歳患者 体重55kg
Rp(1)ゾフルーザ錠(20) 2錠
1日1回 夕食後 1日分
Rp(2)ピーエイ配合錠 6錠
(般)カルボシステイン錠250㎎ 3錠
(般)デキストロメトルファン錠15㎎ 3錠
1日3回 毎食後 5日分
Rp(3)カロナール錠(200) 1回2錠
6回分 発熱時
ゾフルーザ®錠が処方されていることからインフルエンザ患者であることはすぐに分かると思います。一見処方内容としては問題ないように見えます。実際に成人なら問題ないでしょう。しかしこの患者はまだ12歳です。15歳未満のインフルエンザ患者にピーエイ®配合錠が処方されたことが問題です。これはライ症候群のリスクを増大させるからです。今回の記事でライ症候群について確認し、問題となる薬にはどのようなものがあるか見てみましょう。
・ライ症候群について
ライ症候群とはウイルス感染に続発する肝障害を伴う急性脳症をさします。
ほとんどの事例で18歳未満に発症し、原因となるウイルスはインフルエンザウイルスや水痘ウイルスがあります。これらのウイルスに罹患中にアスピリンなどのサリチル酸系薬物を服用した場合に発生リスクが急増すると言われています。
この詳しいメカニズムはまだ分かってません。インフルエンザや水痘のウイルス感染中にサリチル酸系薬物を服用することで、肝臓のミトコンドリアが障害され、肝機能障害・高アンモニア血症を起こし、これが原因で脳症になるという説が有力です。
主な症状は悪心・嘔吐といった消化器症状から始まり、錯乱・見当識障害・傾眠・嗜眠といった精神症状へと移行します。重症化すると痙攣、昏睡などを起こし最悪の場合は死に至ります。
※嗜眠(しみん)
刺激を与えると一時的に覚醒するが、刺激を止めるとすぐに眠ってしまう状態。刺激を与え続けないと眠り続けてしまう。
また肝機能障害のため血中アンモニア濃度の上昇と黄疸、皮下出血などがみられるのが特徴です。
さてライ症候群の原因薬物としてサリチル酸系薬物がであることは先ほど書きました。
では具体的にサリチル酸系薬物にはどのようなものがあるか見てみましょう。
・バファリンA
アスピリンで最も有名なものはOTCのバファリンAでしょう。バファリンシリーズでアスピリンが含まれているのはバファリンAとバファリンライトのみで、他のものバファリンシリーズには含有されていません。これは覚えておいた方がいいでしょう。
小児で熱が高く、インフルエンザの可能性がある場合はバファリンA,バファリンライトは避けておきましょう。
・エキセドリンA
バファリン同様に昔から販売されているOTCの解熱鎮痛剤です。アスピリンとアセトアミノフェンの合剤です。調剤薬局や病院勤務の薬剤師もこれくらいは知っておいた方がいいでしょう。
※バファリンやエキセドリンAは新型コロナウイルスにおける解熱には使うことが出来ます ⇒ライオン株式会社 製品Q&A
・バイアスピリン®錠、アスピリン原末
医療用で最も使われてるアスピリン製剤はバイアスピリン®錠でしょう。とは言っても大半は高齢者に使用されるので小児患者に使われることは稀です。しかし川崎病患者はアスピリン製剤を使用することがあります。川崎病の治療中の患者がインフルエンザや水痘に罹患した場合は必ず主治医に連絡して適正な支持を仰ぎましょう。罹患している最中は原則中断となります。
・PL配合顆粒、ピーエイ配合錠
両方とも同じ有効成分で顆粒か錠剤かの違いですね。どちらもサリチルアミドを含有しています。これがサリチル酸系薬物ですね。添付文書には以下のような記載があります。
投与しないのが原則ですが禁忌ではありません。この辺がややこしいところです。”やむを得ず投与する時は慎重投与”といった回りくどい言い方ですね。
・ぺレックス®配合顆粒、小児用ぺレックス®配合顆粒
PL配合顆粒、ピーエイ配合錠と同様にサリチルアミドを含有しています。ライ症候群に関する注意書きはPL配合顆粒、ピーエイ配合錠と同じです。
・メサラジン
別名5-アミノサリチル酸です。メサラジン製剤にはペンタサ®、アサコール®錠、リアルダ®錠があります。いずれの薬にもライ症候群の記載はありません。アサコール®錠、リアルダ®錠には小児に対する適応はありません。そのためライ症候群の想定はしていないでしょう。
ペンタサ®は坐剤・注腸は小児に適応はありませんが、錠剤・顆粒には小児に適応があります。そのためペンタサ®錠・顆粒を使っている小児患者がインフルエンザや水痘に罹患した場合は医師に伝え、適切な指示を仰ぐのがいいでしょう。
※ペンタサ®もいずれの剤形についてもライ症候群に関する記載はありません。
・サラゾスルファピリジン
サラゾスルファピリジンは腸内細菌で5-アミノサリチル酸とスルファピリジンに分解されます。潰瘍性大腸炎治療薬のサラゾピリン®錠、関節リウマチ治療薬のアザルフィジン®EN錠があります。
どちらも小児に適応はないのでライ症候群に関する記載はありません。
サリチル酸系薬物はそんなに数が多くないうえ、小児に使われるものは限られています。この際に前述したものは全部覚えておきましょう。
インフルエンザの流行期は病院も薬局も混雑し、1つ1つのチェックが緩くなりがちです。しかし少なくとも15歳未満の小児の処方に関しては、一旦立ち止まって処方内容を十分に鑑査すべきでしょう。ライ症候群を発症する確率は極めて稀ですが、サリチル酸系薬物を摂取することでその可能性が大幅に増大します。今後もシーズンに合った内容の記事を書いて注意喚起したいと思います。
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